【TPPと農協改革】解体させられた韓国の中央会 FTAで農協分割2014年10月9日
・米韓交渉と状況酷似
・TPPの本質はここに
・違憲訴訟で問題訴え
・協同組合の解体迫る
・政府に情報開示請求
・「協同を守れ」国民の声司法に
JAcomでは、情報公開されないまま進んでいるTPP交渉は国民の知る権利を侵害しているなどと「TPP違憲訴訟」を起こそうという会の設立の動きを伝えた。その「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」設立準備会の幹事長に就任した山田正彦・元農相はTPP交渉と農協改革が進む今の日本の事態を「米韓FTAを締結した韓国とまったく同じ」と指摘、今こそTPPの本質を見極め反対の声を上げるべきと訴える。命と暮らしに危機感を募らせる呼びかけ人の思いも聞いた。
◆米韓交渉と状況酷似
山田正彦元農相は国会議員時代、TPPを考える国民会議などで交渉参加反対運動の先頭に立ってきた。その運動のなかで米国政府や議会も視察、TPP協定がめざすことについて「米通商代表部(USTR)のカトラー氏からは米韓FTAの内容を見てほしいと言われた」としばしば集会などで報告してきた。
さらにカトラー氏(現在はUSTR次席代表代行)は山田氏らに「米国はTPPで米韓FTA以上の内容を求める」と述べたことも強調していた。
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TPP交渉差止・違憲訴訟の会の代表には原中勝征・前日本医師会会長が就任。「若い人たちがこの国で生きてよかったと思えるようにしなければ」と話す。
◆TPPの本質はここに
それは、たとえば米韓FTAで韓国のコメは関税削減・撤廃の対象から除外されたが米国内ではこれに不満も高まっており、TPP交渉では例外なき関税撤廃を求めるという米国の意思だと受け止められた。
その後、安倍政権は日米首脳会談で例外なき関税撤廃が前提ではないと確認できたとして、重要5品目の関税撤廃は認めないなどの国会決議を守ると表明しながら昨年7月から交渉を続けてきている。ただ、交渉の状況は守秘義務があることを理由に国民には明らかにされていない。農産物関税の問題では関税の削減率や期間、セーフガードの発動基準などを組み合わせる「方程式」を交渉していると説明されている。が、国会決議が守られる結果となるのかどうか、しかもそれを国民がチェックできるかどうかは不透明なままだ。TPP違憲訴訟の会は、重大な局面を迎えているTPP交渉が、そもそも国民の知る権利を侵害して進行しているとして、訴えを広めるための新たな運動となる。
山田氏は「1万人の原告団を結成したい。1人ひとりが声を上げることが大事」と呼びかけ農業現場で不安を抱える人々と向き合い運動を組織してきたJA組合長らにも賛同を呼びかけたいという。
◆違憲訴訟で問題訴え
さらに重要な問題を山田氏は指摘する。
「カトラー氏は米韓FTAを見ればいいというので韓国も視察した。韓国農協中央会の首脳クラスに面会を求めていたがなかなか会えなかった。理由は事業分離が決まってその対応に追われていたようだった」。
山田氏によれば、中央会から金融や営農事業の分離が決められ、その対応で連日会議だと聞かされたという。
米韓FTAの交渉開始は2006年。07年には両国政府が調印したが、米国議会が追加交渉を求めたことから両国での批准は11年に。韓国では国会にまでデモ隊が乱入するなど激しい反対運動が起きたが結局は批准され12年3月に発効した。
中央会の事業分離が進むのはFTA交渉が進行するなかでのことで、山田氏が指摘するように本紙も11年4月の韓国取材の際、韓国農協中央会の事業分離問題を聞いた。同国内で米韓FTAの問題点が明らかになり、さらに激しい反対運動が盛り上がる前のことになる。 本紙も韓国農協中央会から説明を受けたのだが、それは単協の教育支援部門だけでなく金融や共済、経済事業を総合的に展開していた中央会は2012年から金融部門、経済事業部門が株式会社化されるというものだった。最終的に23ほどの子会社化組織を持つかたちになるという。
◆協同組合の解体迫る
山田氏は「米国には協同組合という発想はない。金融や共済が分離され協同組合が骨抜きにされる。それと闘わなければならないのも韓国と同じ事態になっているではないか」と強調する。TPPについて米韓FTAと同じか、あるいはそれ以上を求めると示唆したのは、実は農協問題でも改革の名のもとに韓国と同じように迫る、ということだったのではないかと強調する。
「だからこそ、与党議員にもう一度TPPに賛成か、反対かを問う運動が求められるのではないか」とTPPの本質と農協改革問題についてJAグループの運動と発信を提起する。「10万人規模の集会をやっては。その力はあるはず」と話す。
◆政府に情報開示請求
「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」設立準備会は10月10日から会員や賛同者を正式に受け付ける。会では弁護士団が政府に情報開示を求め9月30日、内閣官房に対して行政文書開示請求書を提出した。内容は▽TPP交渉の秘密保持契約に関する文書、▽現在までのISDS(外国資本の投資先国家に対する損害賠償請求)条項の合意内容、あるいは合意がなければ現在までの論点、▽9月23日の甘利・フロマン会談での交渉経過を記したTPP関税に関する文書などだ。
弁護士団の田井勝弁護士(横浜合同法律事務所)によると10日8日、内閣官房から30日以内に回答するとの連絡があったという。
この情報開示要請に対して政府はどう回答するか。たとえば、交渉中の案件だからと肝心な部分を黒塗りして"開示"することも考えられる。そうなれば、その姿勢そのものも「国民の知る権利」の侵害ではないか、と違憲訴訟理由のひとつとなる。命と暮らしを守るため粘り強い取り組みが求められている。
◆「協同を守れ」国民の声 司法に
TPP交渉は米国の中間選挙後まで大筋合意はないとされながらも、今月は豪州で閣僚会合が開かれるなど予断を許さない状況に変わりはない。 呼びかけ人の加藤好一・生活クラブ生協連理事長は「TPP交渉は非常に重大な局面だと思う。ここは本当に運動を盛り上げるべきとき。違憲訴訟は難しいと思うが、人々の生の声を司法にぶつけることは大事で1万人を集めることは大きい。共感の輪を広げるため、もちろん組織としても最大限展開していきます」と話す。
山本伸司・パルシステム生協連理事長も呼びかけ人だ。「国民や国会も中身が分からないまま、関税や暮らしに影響するルールなどが国家間で協議されているのは民主国家として考えられない」と批判。 こうした交渉に対して国民の権利を確保することができないのであれば「裁判に臨むしかない。知る権利を侵害し一方的に暮らしの破壊が進むことに対して命と暮らしを守る生協としてこの運動はやらざるを得ない」と話す。
今後は農産物を取引している産地JAや生産者、あるいは物流業者も含めてTPPは「死活問題」であることを訴えながら、この訴訟の意味を広めていきたいと話している。
(写真)
上:加藤好一氏
下:山本伸司氏
【当面の政治日程等】
○10月19日~=TPP首席交渉 官会合(豪州・キャンベラ)
○10月25~27日=TPP閣僚会 合(豪州・シドニー)
○10月26日=福島県知事選
○11月4日=米国中間選挙
○11月7~8日=APEC閣僚 会議(中国・北京)
○11月10~11日=APEC首脳 会合(中国・北京)
○11月12~13日=東アジアサミ ット(ミャンマー)
○11月15~16日=G20首脳会合 (豪州・ブリスベン)
○11月16日=沖縄県知事選
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