【インタビュー森山ひろし前農相】農協改革は主体性が原則(上)2016年12月2日
現場の実態に照らして所得向上へ事業改革を
全農の事業改革を含む農業競争力強化プログラムを11月25日に与党はとりまとめた。とりまとめにあたって規制改革推進会議農業WGの意見との調整も行われ、年限を区切った改革目標や購買事業からの撤退などが見送られたが、与党・政府による改革フォローアップを実施することなどは盛り込まれた。自民党の農林幹部としてとりまとめにあたった森山前農相に、決定したプログラムのポイントを聞いた。森山前農相はあくまで主体的な自己改革が農協改革の基本であることを強調するとともに、地域を支える農協の総合事業の役割がますます重要になるとの認識で政策を展開していく必要性を強調した。
◆5年間は今年4月から
――改めて農協改革についての基本的な考え方をお聞かせください。
農協改革については平成26年6月に与党としてひとつの考え方を整理してあります(「農協・農業委員会に関する改革の推進について」自民党・公明党)。ここでは5年間を農協改革の集中推進期間とするとしており、農協は重大な危機感を持って自己改革を実行するよう、われわれがお願いをしたということです。
今年の4月に改正農協法が施行されていますから今年4月からの5年間に改革を進めるというのが原則だと思います。この期間の取り方についていろいろと言う人がいますが、法律が成立・施行されたことが前提だと思います。
改革を進めるなかで大事なことは、やはり農協は協同組合ですから、一人は万人のために万人は一人のためにという理念だと思います。それゆえ耕地面積の広い農家も、そうでない農家も議決権は同じです。株式会社は持っている株数によって議決権が違いますが、協同組合はまずそのように理念が違うと思います。この協同組織という原点をわれわれは踏み外してはいけない。自己改革が原則で主体的に取り組むことが大事だと思います。
そこで、今回の農業WGの意見ではたとえば、農協の信用事業についてもいろいろな考え方が述べられましたが、信用事業は農協が総合農協として機能していくためにはどうしても大事なものだろうと思います。ただ、金融事業をやるためにはやはり信頼、信用がもっとも大事なことですから、貯金量の小さい農協ではかなわないとすれば農協は合併によって実績もあげてきていますし、また、1県1農協になった地域もありますから、それらを踏まえた対応も必要でしょう。しかし、農業WGのように何年間にどれだけ代理店化すべきであるといった提言は違うと思います。
私が改めて大事にしなければならないと思っているのは、平成15年の「農協のあり方についての研究会」報告書です。これを受けて農協もいろいろ議論をしながら改革を進めているものもあります。歴史的に少し振り返れば、農協は何もしてないではないか、という話にはなりません。
さらに今年10月のJAグループの政策シンポジウムでも「魅力増す農業・農村」の実現に向けた方向性を示していますから、これを実証していただくことが大事ではないか。農協は何もやっていないという話をよく聞きますが、決してそうではなく実績が上がってきているものもあると思います。そのなかで、もう少しスピードを上げてもらいたいというものもあるということだと思います。
◆組織討議を十分に
――今回は全農の購買・販売事業の改革が焦点になりました。与党とりまとめのポイントはどこでしょうか。
農業WGの意見では全農の購買事業についてはコンサル業務に徹するように、また、販売事業は委託販売から全量買い取りへ転換という提言でしたが、これは現場からすると無理があるように思います。
たとえば、全量買い取りにすれば農家の手取りは逆に増えないのではないか。なぜかといえば、全量買い取りにするとリスクがありますから、そこを見て買い取るということになると農家の手取りを増やすのは難しいということもあるのではないかと思います。また、高品質の農産物は買い取りがいいかもしれませんが、農産物には少し曲がったものがあったりするわけですから、そこもよく考えなければならないのではないでしょうか。
そこで与党のとりまとめでは買取販売への転換としていますが全量と書いていません。結果は農家の所得につながらなければなりません。安定的な取引先の確保は大事ですが価格が支配されれば意味がありません。そこで委託販売も買取販売も必要で、そのバランスをどうするかということです。
購買事業に関しては、事業から撤退するのではなく共同購入の力を強めるということです。つまり、扱うボリュームを大きくして、もっと有利に購入できるようにということです。ただ、これは農家がそこまでついてこられるかの問題もあります。たとえば、肥料にしても農薬にしてもどのくらい必要かを前もって言わなければいけません。農協からすればその通り引き取ってくれるかどうか。現実には農協の倉庫でデッドストックになっているものもあります。
そこは農家のみなさんのご理解をいただいて、こうすることが安い資材を仕入れることになるということ示さなければなりません。要は現場の実態に照らし合わせて農家の所得につながる方法はどうかと考えていく必要があるのではないでしょうか。そこは組織討議も始まっているということですから、それをわれわれは見守るということだと思います。
※森山ひろし氏の「ひろし」の字は正式には「示偏に谷」
(関連記事)
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