過去最悪の熊被害 捕殺だけで解決するか 自然保護団体がシンポ2025年12月9日
4~11月の熊による被害が230人と過去最悪にのぼるなか、自然保護団体が神戸市内でシンポジウムを開き、専門家らが真に必要な熊被害対策を話し合った。
長野県では学習放獣・誘因除去で成果
オンライン併用でクマシンポ「捕殺だけでは解決しないクマ問題」を主催したのは一般財団法人・熊森協会である。
始めに同協会顧問の和田有一朗衆院議員(維新)、松木謙公衆議院議員(立憲)、務台俊介元環境副大臣(自民)があいさつした。環境NGO広島フィールドミュージアム代表で猿研究者でもある金井塚務氏は、大規模皆伐・拡大造林という森林政策が失敗し豊かな生態系が失われた結果、熊が奥山で生活できなくなった過程を説明し「生息地の保全、回復が必要」と述べた。
信州大学の泉山茂之特任教授(農学部)は、いったん捉えた熊を人里は嫌な場所だと学習させてから山で放す「学習放獣」に長く取り組んできた。2024年までに長野県では4036頭、今年に入っても230頭を山に還したという。山岳リゾート地・上高地のホテルや山小屋、キャンプ場で野外に捨てたごみなど「熊の誘因」になるものを除去し、熊と人との棲み分けを進めてきた経験から、泉山さんは「有害捕獲は対症療法であり、総合的防除が大事」と語った。
熊を寄せ付けない集落作り
漁協組合長などを歴任してきた岩手県花巻市猟友会の藤沼弘文会長は、「山が荒れている。いい山ができれば棲み分けできる」と述べるとともに、「『肉食系の熊は撃て』と(猟友会)会員に言っている」とした。直径12㎝を超える違法罠を使った錯誤捕獲については「脚がない熊に会うこともある。錯誤捕獲はしてはならない」と強調した。
日本熊森協会会長の室谷悠子弁護士は「以前、熊は豊かな奥山に棲み、人の手が入った里山はスカスカで緩衝帯になっていた。拡大造林やダムの乱造、ナラ枯れで奥山が貧しくなった。逆に里山は人がいなくなって実りが良くなり熊に棲みやすい場に変わった。結果、熊が里山に移動し、人と熊との距離が極めて近くなった」と被害多発の構図を解説。「一番にすべきは熊を寄せ付けない集落作りだ」と説いた。
実際、日本熊森協会は兵庫県豊岡市の依頼で熊対策に取り組み、2024年は4日間延べ14人で藪を刈り柿の木など39本を伐採(誘因の除去)。熊は対策した地域には来なかった。25年は対策範囲を広げ、24日間延べ94人で柿、栗、キウイ、イチジクなど75本を伐採するなどの対策を実施し被害を防いだ。柴犬を用いた鳥獣害対策も試みている。
政策決定に生態学的視点を
近年問題になっている大規模風力発電とメガソーラーの影響についての質問に答え、金井塚氏は「大型風力発電は尾根筋を切り森がダメになる。振動や低周波も問題だ」。泉山氏は「ゴルフ場開発が中止され山に戻してほしいのにメガソーラーが建設されるのは、動物には困ったこと」と話した。藤沼氏は「(こうした開発は)動物が歩く動線をズタズタに切っている」と指摘した。
今後の対策について藤沼氏は「熊が生きられる自然を作ること」。泉山氏は「地域にあった総合的防除を」とし「柵を設けると熊は川から来る。国交省はそこにも動いてほしい」と述べた。金井塚氏は「政策決定に生態学的視点を入れるべき」と提起した。
4~11月、過去最悪の被害に
シンポの2日前、環境省は4~11月の熊による被害者が230人にのぼったと発表した。死者は13人で、ともに過去最悪だ。被害拡大を防ごうと、政府は「捕獲対策」を中心に、補正予算案に34億円を計上した。現状が森林政策の失敗のツケだとしても、住民の命を守ることが喫緊の最重要課題なのは言うまでもない。ただ、罠の設置は「熊を人里におびき寄せる」との指摘もある。熊と人との棲み分けには、このシンポで議論された奥山の生態系回復を図る中長期的対策も不可欠ではないだろうか。
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