米の「民間備蓄制度」に疑問や反発 食糧部会2025年12月25日
農水省は12月24日に食農審食糧部会を開き民間備蓄制度の創設など食糧法の見直し方向を説明し委員からの意見を聞いた。民間備蓄制度については異論や疑問の声も出た。

農水省は、これまでの生産量が不足した場合の備えとしていた米の備蓄については、需要が増加して供給が不足した場合にも備えて米を保有できるよう備蓄の目的を見直すとともに、政府備蓄を補完するため、一定規模以上の卸売業者など民間事業者に最低限維持すべき量以上の米の保有を義務づける民間備蓄制度を創設する考えだ。
平時は通常の民間在庫と区分せずに管理し、義務備蓄量の維持は行う。
そのうえで供給が不足する場合に、国は義務備蓄量を取り崩すことを決定し事業者に放出を指示する。従わない場合は勧告・公表を行うとしている。今年の政府備蓄米の放出では、入札でも随意契約でも消費者に届くまで時間がかかったことから、農水省は「速やかに売り渡す観点から民間の商流の活用を検討する必要がある」としていた。
ただ、食糧部会ではこの制度に疑問の声が出た。
全米販の山﨑元裕理事長(ヤマタネ会長)は、米の供給不足が予見される状況になったときには、小売業者など実需者から必要量よりも多い納品や確保を求められるとして「在庫は瞬時に義務備蓄量まで減少することが予想される」と指摘した。
さらに、その状態で義務備蓄分を販売しなければならなくなっても、それが法律違反となるのであれば「われわれは販売できなくなる。結果として実需者への供給が滞る事態を招き、この仕組みではかえって消費者の安定供給を損なうことが予想される」と強調した。
民間備蓄米の放出のトリガーや手続き、差損が生じた場合の補てんの有無など、まだ不明な点は多く、検討を進めるには現場の声を聞くことなどを強く求めた。
他の委員からも民間事業者にメリットがなければ理解は得られないとの指摘もあった。
JA全中の藤間則和常務は「実施主体の事業者が不利益を被ることのないよう制度や支援など関係者の意見を十分に踏まえて検討を」と求めた。
農水省は出された意見をふまえて検討するとの姿勢を示すとともに、支援について「本来売れるものを一定程度持ってもらうので政府としての支援は必要になる」との考えを示した。また、備蓄米の運用は供給量に着目して実施するものとし、価格の引き下げ、引き上げなど「価格政策として行うものではない」と強調した。
そのほか米の流通実態の把握を強化するため、食糧法の届出対象を拡大し、出荷量の多い生産者や加工業者や中食・外食事業者までを対象とし、定期的に米の在庫数量などの報告を求めるよう食糧法改正する。
これに対して委員からは現場の負担が増えるとして、簡素な調査事項とすることや年1回とすることなどを求めた。農水省は年1回の調査とすることや入力システムなどを整備する考えを示した。
また、食糧法には「生産調整」の文言が残っているため、この規定を削除し、政府は「需要に応じた生産」を促進すること、生産者は需要に応じた生産に主体的に努力することなどを法定化する。その前提として国と地方公共団体の情報提供など責務を規定する。
全中の藤間常務は「国と地方の役割が後退することなく生産現場で適切に需要に応じた生産が進むよう情報発信の強化」などの対応を求めた。
委員からは需要に応じた生産のためには、精緻な需給見通しが必要なことなどが指摘された。ただ、トゥリーアンドノーフの徳本修一代表は「そもそも需要に応じた生産ができるのか」と生産者の減少による生産力を懸念し、少数の生産者にさらに農地が集積していく見通しのなかで「基盤整備と一体での取り組み」の重要性を指摘した。
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