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農政:どうするこの国のかたち

教育研究の理念「実学」 世界へ 創立125周年を迎えた東京農大(2)2016年7月20日

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東京農業大学学長髙野克己氏
JA岩手県五連会長藤尾東泉氏
司会:東京農業大学名誉教授白石正彦氏

◆生命切り離して農学はない(髙野氏)
◆組合員の声聞き現場に学ぶ(藤尾氏)

 東京農業大学が今年で創立125周年を迎えた。「学問のための学問」を排し、実際から学ぶことを重視した「実学主義」を教育研究の理念として学んだ卒業生の活躍は農業・農村はもちろん、農協・行政などあらゆる分野に及び、今日の日本の農業の形をつくってきた。髙野克己学長と1969年卒業の藤尾東泉・JA岩手県五連 会長(JAいわて中央会長)に、今日の国内・世界の農業・農村・食料の抱える問題、農業教育のあり方について語ってもらった。(司会は白石正彦・東京農大名誉教授)

◆JAグループ挙げ 農家所得の増大へ

現場に役立つ農大の「実学」(JAいわて中央のGISによるほ場管理) 藤尾 平成21年、農家の所得増大には販売が重要で、それには岩手県産農産物のイメージづくりだと考え、ブランド戦略を打ち出しました。これもアンケートを行い、「食農立国」としました。
 特に重視したのは、産地と消費地の結びつきです。豊かな自然で作った農畜産物を都会のみなさんに提供しようという思いをイメージしたブランドです。生産者、農協役職員が一体となって定着に努めています。
 一方、農協改革ですが、政府の改革論にどう対応するかですが、それには現場の組合員がどう受け止め、どうやって行こうとしているかということが非常に重要だと思っています。
 いま、岩手県のJAグループでは担い手サポートセンターを立ち上げ、農協や県連から派遣した33人の職員が頑張っています。いまその役割が非常に大きくなっています。週1回のペースで集まり、3年かけて農家所得の増大、農業生産の拡大方策を検討します。 

 白石 東京農大では遺伝子などミクロの生命農学や世界の大学との提携などグローバルな視点でサイエンスの研究を進めていますが、これを現場にどう活かすかが重要です。

 髙野 いま「農」が見直されています。これまで過小評価され過ぎたと思いますが、ここにきて地方創成、地球環境等への関心が高まり、農学系大学に人気が出ています。その中で、本学の特徴である作物・生き物を利用する側と、生命の機能を解明する研究の成果を、現場の農業や人の健康にどうフィードバックさせるかが課題です。
 私の専門は農芸化学ですが、食品の研究をやっていて、この原料がどこからきたか分からないというのでは不安です。よい食品を作って消費者に安心しておいしく食べてもらうには原料から問題にしなければなりません。その思いを現場にフィードバックしながら研究を進めています。
 例えば現場で求められている、冷めてもおいしいご飯ですが、その品種・形質はどのようなものか。こうした研究をするのは生命科学部ですが、いまはピンポイントで分かるゲノム育種の技術があります。そうした技術を使って日本の農業を支える育種の研究を進めています。
 それには世界の大学と連携し、世界の農業を知る必要があります。ただ日本列島は南北3000km、寒冷地から亜熱帯まであります。また自然が細かく区切られ、土壌も川一つ、谷一つ隔てて異なります。ということは日本で成功すれば世界のどこの農業にも活かせるのではないでしょうか。つまり、世界を見て自分の立ち位置を知り、やるべきことがわかるのだと思います。


◆125年の蓄積活かし 地域創成に貢献を

 いま世界で32の大学と連携しています。将来50大学くらいにまで増やしたいと考えていますが、連携は大学だけでなく、国内の地方自治体やJA、企業・産業界とも強め、今日のさまざまな課題解決につなげたいと思っています。
 このためには塀の内にいては駄目です。何よりも現場で感じるものが大事です。提携を拡大し、そうした機会を増やす必要があります。
 自治体、農業、農協、企業が抱えている切実な問題を共有して解決し、また独自に開発した技術を、自治体を通じて日本全体に展開する。このためのハブ基地として貢献したいと考えています。東京農大には125年の歴史と蓄積、それにOBの存在があります。これはほかの大学が真似のできない東京農大のブランドです。その点でも各地域のOBのみなさんの活躍は、われわれに勇気を与えており、感謝しているところです。

 白石 国連は2030年に向けた行動計画のなかで人口増と農地の減少で、3つ地球が必要となると警告しています。東京農大が他大学とのネットワークで、人類の命、くらし、食料問題の研究を進め、国内を軸にしながら、世界の大学と連携し、実学を広めています。理論と実践で魂の入っている各研究室・学部の教職員、学生の活躍を期待しています。
 藤尾会長には、いま農業・農協は厳しい環境にありますが、組合員・地域という原点から、そのあり方を見直し、守りではなく攻めに転じていただきたい。農協がなくては地域も暮らしもよくなりません。営農だけでなく、暮らしの軸をさらに伸ばし、健康寿命を延ばすことで自治体の財政危機を救うことにもなるのです。
 地域に開かれた組織として貢献するという軸をさらに伸ばしてほしい。本学には栄養科学科や食品安全健康学科もあります。農協はこれらの学科との連携も強め、日本の社会、世界に貢献するモデル総合農協をつくっていただきたい。ICA(国際協同組合同盟)の「ロッチデールパイオニア賞」にもチャレンジしてほしい。そうすれば農協自己改革についての政府や国民の評価も変わるのではないでしょうか。

 藤尾 世界に向かって挑戦するということでは、岩手県にリンドウの産地があります。夏は安代(八幡平市)で生産し、冬はニュージーランドやチリなどに生産委託し、オールシーズンで国内外に出荷できるようにしています。そのJA部会の農業者は活力に満ちています。

 白石 そのような未来を拓く仕組づくりと実践が、地球規模でかつローカルな現場から農業者・農協の使命だと思います。東京農大および農協運動の一層の発展を祈って終わりにします。本日はありがとうございました。

教育研究の理念「実学」 世界へ 創立125周年を迎えた東京農大 1 2

(写真)座談会、東京農業大学学長 髙野克己氏、JA岩手県五連会長 藤尾 東泉氏、東京農業大学名誉教授 白石正彦氏、現場に役立つ農大の「実学」(JAいわて中央のGISによるほ場管理)

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