農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(110)SBS米価問題 徹底調査を2016年11月11日
◆業者の回答に疑問
"輸入米高値にみせかけ調整金還流、国は放置"と、9・14毎日新聞が一面トップで報道して以来、調整金で公表価格よりも安く販売されるSBS輸入米が国産米価格を引き下げているのではないか、と問題になっていた事案について、10月7日農水省は、
"......民間事業者間の金銭のやり取りは、ある程度あったものの、それによってSBS米の国内市場における価格水準が、国産米の需給及び価格に影響を与えていることを示す事案は確認できなかった。"とする「調査結果」を発表した。
「調査結果」概要は、本誌前号で適確に紹介されているので繰り返さない。"今回の調査結果では米の生産現場は納得がいくものではない"という記者の結論に賛同した上で、"さらなる調査が必要だ"に関連して若干付け加えておきたい。
「調査結果」のなかに業界上位5者のうちSBS米の取扱実績がある4者に聞いた"主要卸売業者からの聞き取り結果"という表があったが、そのうちのD社の回答は、"業界用銘柄が不足した時に、需要者ニーズに対応し、安定した品質、数量を確保するために、SBS米の販売や、国産米とSBS米のブレンドを販売したが、これは、値ごろ感がある国産原料米不足への対応策であり、これによって国産米の価格へ影響が出るものではない。"となっていた。
この答えはおかしい。"業界用銘柄が不足した時"には、普段は業務用米として"値ごろ感"のあった銘柄も当然上がっているであろう。その中でどうしても必要量を手当しようと思えば一層のの値上がりを覚悟してかからなければならない。その値上がりを避けるためのSBS米手当ということなら、積極的に業務用銘柄の値下げにはならいが、おきて当然の値上がりを抑制したという意味では、"国産米の価格へ影響が出るものではない"とは言えないのではないか。
◆業務用米が問題
「調査結果」が、"価格に影響を与えていることを示す事実は確認できなかった"という結論を出すにあたって最大の論拠にしたのは、SBS入札当月と入札後月の国産米平均価格を比較して"SBS入札の時期の前後において、国産米の価格はほとんど変動していない"ということのようだ。比較しているのは平成7年度から平成27年度までの入札についてだが、増減の年平均が10円を超えた(米価はkg当たり380円から200円)のは、平成8年度、15年度の2年だけだし、5~9円の年度も平成9年だけである。といった数字から判断すれば確かに"影響を与えていることを示す事実"は無さそうに見える。
が、この数字は全銘柄平均についてだということを注意しておく必要がある。SBS米利用は、農水省も"中食・外食事業者"を聞き取りの対象者にしたように、業務需要なのである。主として業務用に供給されている国産米の価格にどういう影響を与えたのか、が問題の焦点であり、業務用国産米価格について調べてこそSBS米価格引き下げの影響を判断できるのだろうのに、何故かそれはしていない。全銘柄平均価格の動きと業務用米銘柄価格の動きが同程度ということならそれでもいいがどうなのだろう。 手許にあるデータ(「米価に関する資料」平成14年食糧庁)が、平成12、13、14年度の最下位5銘柄(その中には102本欄で紹介した"本質的に競合する米国産米が増加することで......価格下落が懸念される"きらら397も入っている)平均価格と全銘柄平均価格の動きを示すと、図のようになる。
一見して業務用需要になりやすい下位5銘柄の価格の動きの方が大きいことがわかる。特に下落の際の下り方が下位銘柄のほうが大きいことに注目する必要があろう。SBS米の低価格販売の効果は、平均米価に与える影響よりはるかに大きく業務用米に出るであろうことが推定されよう。実際に業務用米価格にどう影響したのか、さらなる調査が必要だ。
こういう計算をやっている時、10月27日衆院TPP特委に鈴木宣弘教授が参考人として出席、"売買同時入札(SBS)の輸入米が調整金を使って最大1キロ60円安く売られているとの可能性を基に試算。国産の業務用米と家庭用米に影響し、生産額の減少額は14%3400億円に及ぶと試算した"と述べたことが報道された(10・28日本農業新聞)。
試算の内容は報道されていないが、教授が最近の市況データに基づいて詳細な分析をされたことは間違いないだろう。教授の参考人としての発言にどういう質疑がされたのかは報道されていないが、教授の分析も踏まえ、農水省「調査結果」の疑問点を国会審議で追求してほしい。
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