農政:緊急企画:TPP11 12月30日発効-どうなる、どうする日本農業
【緊急特集:TPP11 12月30日発効】心ある国民はTPP11を歓迎しない【小林光浩 JA十和田おいらせ代表理事専務】2018年11月2日
1. アメリカが抜けたTPPで国益はあるのか?
今、TPP11が年内に発効するという。日本国内は歓迎ムードなのか疑問である。国会議員は「国民の声を聞いて国政に反映する」と選挙では言うが、そんな言葉を信用している人はいるのだろうか。新自由経済の下、農業や福祉・農村や地方等、経済的弱者のことを考えられない政治家に国政を任せて、経済的格差是正や福祉の充実への富の分配を考えない政府を信用して、TPP11発動で我が国の国益が期待できるものなのか。
思い起こせば、つい数年前までは、全国の農協組織をあげて「TPPへの加入は絶対に反対」であった。その理由は、(1)食料輸入国へ配慮した国際的な貿易ルールであるWTOを支持するから、(2)TPPは例外なき関税撤廃であるから、(3)様々なルールや仕組みを統一することで各国の文化である食の安全や医療・雇用・投資等のそれぞれの国政が認められないから、(4)我が国の食料自給率が大きく落ち込むから、(5)我が国の農業・農村における多面的機能(土砂崩落・土壌浸食防止、水資源の涵養、生物多様性の保全、地域社会文化、国土保全等)が喪失するから、(6)農村や地方が崩壊することで我が国の国防が弱体化するから、(7)ジェネリック医薬品の供給が困難になる懸念があるから、(8)地方の公共事業を支えてきた土木・建設業界が海外企業の入札による競争下で弱体化する懸念があるから、(9)投資の自由化による影響(ISD条項)が懸念されるから、(10)国民的議論の前提である情報開示が困難だから、そして日本にとっての加入メリットであるとしてきた加盟国経済の多くを占めたアメリカが参加しないことから日本の国益があるのか疑問だから等々であった。
こうした反対理由に対する政府の誠意ある説明はない。不安は払拭されないどころか、ますます大きくなっている。だから心ある多くの国民はTPP11発効を歓迎していない。
2. TPP加盟国の末路は例外なき関税撤廃
当時、政府、そして多くの政治家は「農産物の重要5品目は守る」としたが、その後に政治家の言葉は信用できないことを証明しただけであった。
その結果、農産物の重要5品目は、(1)米はオーストラリアに特別輸入枠を与え、(2)麦は9年目までに45%関税削減、(3)牛肉の関税38.5%は16年目9%になる、(4)豚肉は低価格帯の重量税1kg482円が10年目に50円になる、高価格帯の従価税4.3%は10年目に撤廃、(5)乳製品はチーズの関税撤廃を段階的ににする、脱脂粉乳やバターで7万トンの低関税輸入枠等、守るどころか、限りない例外なき自由化の道をすすむもの。
つまりは、TPPは例外なき関税撤廃をすすめるものだ、ということを忘れてはならない。そして、過去には戦争に繋がった国際的に批判されてきた歴史にあるブロック経済をすすめる協定に日本が加盟したことを国民は常に意識しなければならない。そのことが賢い国民となる道であろう。
さらに、それぞれの国における経済政策を認め合う関税制度、みんなで決めたハンディ下での自由競争を基本とし、食糧輸入国へも配慮した国際的な貿易ルールであるWTOとは根本的に違うものであることを理解しなければならない。
戦争に負け、先進国最大の食料輸入国である我が国が、経済戦争とならないように知恵を出し合うWTOをやめて、経済戦争に繋がるブロック経済をすすめるTPPを選ぶことが不思議である。もしかしたら、そのうちに戦争に参加したり、原子爆弾も認めたりするのではと心配するのは私だけだろうか。歴史に学ばぬ愚かな人にはなりたくない。
3. 協同組合社会づくりが農業・農村・福祉を守る
我々が農家組合員を構成員とする農協は、(1)農業者を裏切る結果となること、(2)日本農業や農村がこれ以上衰退すること、なによりも(3)日本の食料自給率向上の邪魔となること、これらの3点を内容とする貿易協定には反対であるという姿勢は今後とも変わらない。
また、持続可能な開発目標(SDGs)をパートナーシップ(協力関係・共同・提携)で達成しようと、決めた2015年の9月の国連サミットを忘れてはならない。英語の辞書では、パートナーシップは「複数の個人または法人が共同で出資し、共同で事業を営む組織」のことであるとしていることから、国連はまさに協同組合で目標を達成しようとのということである。
多国籍企業の利己主義を優先する貿易協定・国政に持続可能な開発目標(SDGs)の達成は期待できない。他人の利益を重んじ他人が利益を得られるようにと振舞おうとする心である利他心は協同組合の精神である。我々の協同組合では、農協運動の先人が指摘されている「農協は競争組織ではなく、協同組織である」ということを常に意識しながら、協同組合社会づくりこそが我が国の農業・農村・福祉を守るのだという高い志を持ち続けて、農協事業を利用することが農村・地域を豊かにする道、食料自給率を高める道、食と農を守る道であると確信して歩き続けようではないか。
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