農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (40) 【防除学習帖】第279回2024年12月21日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。
みどり戦略対策に向けたIPM防除でも、必要な場面では化学的防除を使用し、化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせて防除効果の最大化を狙うのだが、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できるようにするためには、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理すると、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道が探れると考えている。そのため、有効成分の作用機構ごとに分類し、RACコードの順番に整理を試みている。
現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
9.ピリジニルメチルベンズアミド
(1)作用機構:[B]細胞骨格とモータータンパク質
(2)作用点: スペクトリン様タンパク質の非局在化
(3)グループ名: ピリジニルメチルベンズアミド[グループコード:43]
(4)殺菌剤の耐性リスク:中
(5)耐性菌の発生状況:国内未確認(欧州ではブドウべと病で耐性菌が確認されている)
(6)化学グループ名・有効成分名(農薬名):
[1]フルオピコリド(ジャストフィットの1成分,リライアブルの1成分)
(7)グループの特性:
このグループは、糸状菌(卵菌類)に効果を示す。従来の卵菌類防除に用いられる殺菌剤の作用機構とは異なる作用点であり、病原菌の細胞膜の構造を構成するタンパク質の配列を乱し、細胞の正常な生育を阻害すると考えられている。温度によって効果が異なり、低温下では遊走子の離脱阻害を示し、高温下では遊走子の発芽・遊泳の阻止および胞子形成や菌糸伸長を阻害する。葉面から浸達性を有しており、病斑や分生胞子の形成を阻害することで治療効果を示す。予防効果は低濃度でも発揮することから効果が安定する。
フルオピコリド単剤での使用は芝分野に限られており、野菜類等では耐性菌発達対策のため、作用点の異なる他の殺菌剤との混合剤が使用される。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
フルオピコリドのリスク換算係数は0.316であり、基準年の2019年の出荷量は約1.3トンである。使用量も少なく、卵菌類(べん毛菌)に予防・治療の量効果を示す貴重な殺菌剤であるため、耐性菌対策を十分に講じながら大切に使用する方が得策と考える。従って、本剤のリスク換算量削減を意識する必要はないだろう。
![gakushu279 IPM防除実践考[40]_2024-12-20up-2.jpg](https://www.jacom.or.jp/nouyaku/images/c4afb1dea33f532b1023814ee34bc04c.jpg)
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