農薬:サステナ防除のすすめ2025
移植水稲の初期病害虫防除 IPM防除核に環境に優しく(1)【サステナ防除のすすめ2025】2025年4月2日
「暑さ寒さも彼岸まで」の通り、いよいよ春本番となり農作業も本格化する。そこで大切な農作物の品質と収量を左右する防除技術に焦点を当て「サステナ防除のすすめ」をスタートする。初回は「移植水稲の初期病害虫防除」がテーマ。
令和3年5月にみどりの食料システム戦略(みどり戦略)が決定され、そのおよそ1年後(令和4年4月)に法律(みどりの食料システム法)が成立し、同年5月に公布、7月1日に施行された。この法律は、環境と調和のとれた食料システムの確立に関する基本理念等を定めており、農林漁業に由来する環境への負荷の低減を図るために行う事業活動等に関する計画の認定制度を設けることにより、農林漁業及び食品産業の持続的な発展、環境への負荷の少ない健全な経済の発展等を目指しているものである。
みどり戦略には、2050年までに化学農薬の使用量を基準年(2019年)の出荷量にADI(1日摂取許容量)をもとにしたリスク換算係数を掛けたリスク換算量を半減させることが目標として盛り込まれており、「化学農薬は減らさなければならない」という考え方が、その是非は別として農業現場に浸透しつつあるようだ。
しかしながら、みどり戦略の本来の目標である「持続可能な食料システムを構築すること」を実現するには、化学農薬の使用をさらに減らすことでは農産物の安定した品質・生産量の確保が難しいため、化学農薬を効率的に使用し続ける必要がある。ところが、化学農薬に変わるものとして期待されている生物農薬や天敵農薬、バイオステュミラントなど新たな防除資材・技術はまだまだ数が少なく、これらが削減される化学農薬の代わりに安定した効果を発揮できるようになるには道半ばといった感がある。
そのため、農産物の品質と収量の確保を目指すためには、当面はみどり戦略にも示されているIPM防除を中心にして現状ある防除技術を上手に組み合わせ、減らせる化学農薬は削減し、必要不可欠な農薬は効率よく使用しながら安定した効果が得られる防除体系の構築が不可欠である。
本項「サステナ防除のすすめ」では、こういった農産物の安定した品質・生産量を確保できるサステナブル(持続可能)な理想の防除体系を探っていきたいと考えている。
それでは、まずは直前に迫ってきた移植水稲の初期病害虫防除をテーマに検討してみようと思う。
1.移植水稲における初期病害虫防除の意義
いうまでもなく、水稲における防除は良質なお米と豊かな収穫を得るために行うもの であり、その目的を妨げるものが病害虫である。病害虫は、水稲栽培の初期に発生するもの、生育期に発生するもの、収穫期に発生するもの、水稲の栽培期間を通じて発生するものなど様々であり、これらを効率的に防除するには、病害虫の発生様相に合わせた防除を組み立てることが重要である。
移植水稲の初期に発生する病害には、生育期や収穫期に発生して大きな被害を及ぼすものも多いため、そういった被害を防ぐためには、栽培初期に発生源となるものを極力減らしておくことが重要で、病害も害虫も発生量が少なければ様々な防除手段が効果を発揮しやすくなる。このため、水稲栽培初期に発生を減らせる病害虫は極力減らしておければ、水稲栽培中~後半の防除効率の向上につなげることができる。
2.種子消毒のすすめ
健全な苗の育成は、良質なお米と豊かな収穫を得るための重要なポイントで、水稲防除の出発点だ。その健全な苗の育成を妨げる大きな要因の1つが種子伝染性病害である。水稲に発生する多くの病害は、第1伝染源が罹病種子(病原菌が潜んでいる種子)であることが多いので、病害を起こさないようにするためには種子の更新や種子消毒が不可欠である。特に、いもち病などは、苗で発生したいもち病菌が生育期の葉に拡大発生し、それが穂いもちの発生源になっていくことが知られている。つまり、発生源を種子の段階で抑えられれば、葉いもちや穂いもちの発生確率を大幅に減らすことができるという理屈だ。また、この種子消毒を産地全体で徹底できれば、その産地で発生源を大幅に減らすことができることになるので、産地内の他の水田からの病源菌の飛散による発生も減らすことができる。このため、可能ならば産地全体で徹底してほしい防除でもある。
このような重要な防除であるため、化学農薬が必要な病害虫の場合は省くことなく使用する方がよい。以下、種子消毒の実際を紹介する。
(1) 主な種子伝染性病害
主な水稲の種子伝染性病害には、いもち病、ばか苗病、ごま葉枯病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病などがある。これらは、いずれも苗でも発生するが、いもち病などのように、本田に持ち込まれて本田での発生源にもなるのでより注意が必要だ。その他、もみ枯細菌病や苗立枯細菌病などは、育苗時に発生し、苗を台無しにしてしまうし、穂での発病のもとになるので、種子段階で確実に防除したい病害だ。
(2) 上手な種子消毒法
種子消毒の効果を高める第一歩は塩水選である。その上で、種子消毒法を確実に行うことでより防除効果が高まる。
①塩水選
種子消毒における物理的防除の代表がこの塩水選である。これは、病害に侵された種子は充実度が悪くて軽い場合が多いので、塩水につけて、浮かび上がった病原菌を含む軽い種子を取り除き、重く沈んだ健全な種子だけを選ぶようにする。
塩水選には、食塩や硫安を溶かした比重が重い溶液を使う。その比重は、うるち米で1.13、もち米で1.08であり、この比重の溶液で沈むものが、健全でよく充実した良い種子である。
②温湯消毒
高温のお湯によって種子消毒を行う方法で、概ね60度前後のお湯に10分ほど種籾を浸して殺菌する方法だ。
この方法は、温度管理が重要であり、温度が低かったりすると消毒効果が十分でなくなったり、温度が高すぎると種籾の発芽率が下がってしまう。種もみの発芽率を下げず、十分に消毒効果をあげられる温度が60℃ということだ。このため、いかに均一に全ての種籾に60℃のお湯に当てることができるかが最大のポイントとなるので、種もみ袋の中心部にも十分に熱が伝わるように注意する必要がある。この対策のためには、専用の処理器を使用したり、湯量を多くしたり、種もみ袋をよくゆするなどの工夫が必要だ。
③ 種子消毒剤
現在市販されている種子消毒剤には、化学合成農薬と微生物が有効成分である微生物農薬がある。どちらも、有効成分を十分に種籾に付着させ、病原菌の存在する部位にまで到達させることが安定した効果を得るポイントである。
微生物農薬は、病原菌の栄養を横取りしたり、住処を奪ったりすることで効果を発揮するので、病原菌より先に微生物農薬の有効成分菌を増殖させることが効果を安定させるコツだ。なので、ラベル記載の使用方法を着実に順守してほしい。
このため、使用する場合は、農薬のラベルをよく読んで、特性にあった上手な使用方法を確実に実行してほしい。 また、当たり前のことであるが、種子処理後の廃液は河川等への流出に十分注意し、適切に廃棄することを心掛けたい。おもな水稲種子消毒剤を表1に示す。表1には、防除できる病害名と使用できる処理方法が分かるようにしてあるので選択の際の参考にしてほしい。実際の使用にあたっては、使用する農薬のラベルをよく読んで用法・用量を守り正しく使用してほしい。
種子消毒剤を選択するポイントは、どの病害を対象にするかである。
自家採種であれば、前年の病害発生状況をもとに防除対象の病害を決めることになる。その場合は特に前年の穂での発病を確認して決めるようにする。
一方、県や地域のブランド化や種子伝染性病害回避の観点から、地域ごとに種子更新によって健全種子を入手することが多くなっており、どの病害を防除すればいいかは、種籾の産地に確認する作業が必要になるが、購入種子は、基本的に病害対策が万全になされているので安心である。ただし、その場合でも、多くの産地では念のために種子消毒を行うことが多い。
このため、現在は、種子伝染性病害の全てを適用内容に持つ種子消毒剤を使用することが多い。そのような種子消毒剤には、いもち病などの糸状菌(かび)が原因の病害を防ぐ有効成分(イプコナゾール、ペフラゾエート、ベノミルなど)と、細菌が原因の病害を防ぐ成分(銅、オキソリニック酸など)との組み合わせで製剤化されたものがある。
なお、微生物農薬は、病原菌の栄養を横取りしたり、住処を奪ったりすることで効果を発揮するので、病原菌より先に微生物農薬の有効成分菌を増殖させることがより効果を安定させるコツである。微生物ごとに最も効果の出る正しい使い方があるので、ラベル記載の使用方法を着実に順守するようにしてほしい。
また、当たり前のことであるが、種子処理後の廃液は河川等への流出等に十分注意し、廃液処理方法を指導機関やメーカーに確認するなどして、環境に影響の無いように適切に廃棄するようにしてほしい。
3.本田初期防除のすすめ
近年は気候変動にともなって毎年病害虫の発生状況が異なることが多く、例年どおりの防除を行っても適期を逃すケースが増えている。このため、発生する可能性のある病害虫については常に予防的な防除を心掛け、特に本田初期の防除は、その作の病害虫の発生密度を減らしたり、一番効果を出しやすい時期でもあるので、しっかりと行うようにしたい。
表に本田初期防除に使用する主な農薬の適用病害虫一覧を示したので参考にしてほしい。
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