干し芋の未来考える 茨城県ひたちなか市で「世界ほしいも大会」 内外から400人が参加2023年4月8日
茨城県の特産品の一つである干し芋は、今では全国の生産量の九割以上を占め、推定生産額は約百億円になる。その中でも、ひたちなか市、東海村、那珂市がダントツ。この地域の農業では最大の産品になっている。
その干し芋を作る人と食べる人、研究者らが共に干し芋の未来を考えようと、3月18日にひたちなか市の阿字ヶ浦ふれあい交流館で「第2回世界ほしいも大会」が開かれ、北海道から鹿児島県種子島までの生産者や干し芋愛好家たち約400人が集まった。この大会は一般社団法人「ほしいも学校」が2016年に開催し、コロナウイルスの影響があったため、7年ぶりに開かれた。
(客員編集委員・先﨑千尋)
世界ほしいも大会の様子
「べにはるか」はいい意味での期待外れ
大会は、地元阿字ヶ浦地域の子どもたちが歌う「ほしいも学校校歌」で始まり、国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」(農研機構)九州沖縄農業研究センター都城研究拠点の甲斐由美さんが「べにはるかの開発秘話」と題して、自らが開発に携わった「べにはるか」の誕生の由来について次のように講演した。
べにはるかは、いもの形状が優れる青果用品種の「九州一二一号」を母、いもの皮と食味が優れる「春こがね」を父とする交配を1996年に実施し、選抜を重ね、2010年に品種登録にこぎつけた。ホクホクしたサツマイモではなく、しっとりねっとりした食感と掘ってすぐに食べても甘い、農家が作りやすいサツマイモを目指した。
当初は干し芋用には期待していなかった。しかし、干し芋にすると色がきれい、甘い、柔らかいと評判がよく、干し芋の最有力品種になった。いい意味での期待外れだった。食用、焼き芋用としても人気が高く、「甘太くん」(大分)、「紅優甘」、「紅天使」(茨城)、「いもジェンヌ」(新潟)、「葵はるか」(宮崎)などのオリジナルブランドとして販売されている。
干し芋、風と太陽を活かして
土井さんと佐藤さんの対談
続いて、料理研究家・フードプロデューサーの土井義晴さんとほしいも学校プロジェクトリーダーの佐藤卓さんが対談した。佐藤さんは商品パッケージやポスターなどのグラフィックデザインの他、施設のサイン、商品のブランディングなどを手掛けている。「ロッテキシリトールガム」、「明治おいしい牛乳」などが代表作。
佐藤さんがほしいも学校に関わるようになったのは15年前。「干し芋は同じ形のものが二つとない。バラバラでしかも個性的。洗練されていない。今の時代が求めているものと真逆だから面白い」とその魅力を語る。
土井さんは「昔の干し芋・玉豊の方がおいしかった。機械乾燥は効率的だが、伝統的な天日乾燥でしたできないうまさもある。この地域の冬の風物詩が消えてしまった。自然を排除するのは人間の楽しみを奪うものだ。機械化もやむを得ないのだろうが、風と太陽を活かしながらという二刀流で行くのがいいのではないか」と最近の干し芋生産の動きにやや批判的な考えを吐露した。
大会の最後は産地報告会。日本だけでなく、韓国、中国、東アフリカのタンザニアから、生産者や農協組合長らがそれぞれの取り組みや課題について報告した(中国とタンザニアはオンライン参加)。
国内の報告は二人。栃木県佐野市の東京フード社長の塚越将童さんは、サツマイモを全国各地で契約栽培し、「安納美人」(鹿児島)、「京はるか」(京都)、「日光紫」(栃木)、「姫はるか」(茨城)などのブランドで販売している、と報告した。
三重県志摩市の上田商店社長、上田圭佑さんは、伊勢志摩地方の海女のおやつ、伝統食だった「きんこいも」を作り続けている。原料は隼人イモ。製法は茨城の蒸すやり方とは違い、大釜で煮る。伝統文化を後世に残し、高品質の商品づくりを心掛けている、と話した。
韓国からは、花山農協のオ・サンジンさん、雑誌『農耕と園芸』社長のイ・ヨンジャさんが、韓国のサツマイモ生産と干し芋などの加工事業について報告した。中国とタンザニアからもそれぞれの干し芋生産状況について説明があった。
会場では、地元産の干し芋やスイーツの他、種子島、京都、志摩、タンザニアの干し芋、干し芋が入った手作りのカレーライスも販売され、来場者は比較しながら自分の食べたい干し芋などを購入していた。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日