おいしい大型雌ウナギの生産技術を確立 成果事例を紹介 生研支援センター2024年4月3日
愛知県水産試験場(愛知県西尾市)を代表機関とする研究グループは、漁獲量の減少が続く天然シラスウナギを有効利用するため、大豆イソフラボンを飼料に添加して与えることで、通常の2倍の大きさに育てても、軟らかくておいしい雌ウナギを生産できる技術を確立した。農林水産業や食品産業における新産業の創出や技術革新を目指す研究に資金を提供する生研支援センターは、その研究成果について紹介している。
写真1:シラスウナギ(提供:愛知県水産試験場)
ウナギの供給量は2022年に約6万トンで、そのうち国内養殖は3分の1の約2万トンだった。養殖といっても、元になる稚魚は、天然のニホンウナギの稚魚(シラスウナギ、写真1)に100%依存しているが、シラスウナギの漁獲量は年々減少し、取引価格の高騰は養殖業者の経営を圧迫している。
写真2:通常の2倍に育てたウナギ(上)と従来サイズのウナギ(提供:愛知県水産試験場)
同研究グループは、限られたシラスウナギ資源の有効利用の一つとして、ウナギを通常の2倍の大きさに育て、1尾のウナギから2人前の蒲焼きを提供できるようにする研究開発に取り組んだ。養殖下で大豆イソフラボンを飼料に添加して与えることで、ほぼ100%雌にすることに成功。通常の2倍の大きさ(重量400~500g、写真2・写真3)に育てても軟らかくておいしいウナギの生産技術を確立した。
写真3:大型雌ウナギ(上)と通常のウナギの長焼き(提供:愛知県水産試験場)
シラスウナギから雌ウナギ生産に成功
ニホンウナギは、シラスウナギ(体重0.5g未満)の段階では雌雄の性が分化しておらず、成長途中で雌雄の分化が起き、体長30~35センチ以上に成長すると雌雄が識別できるようになる。養殖されたウナギは9割以上が雄になるが、養殖下で性比が雄に偏ってしまう要因は解明されていない。雌ウナギは雄ウナギに比べると大きくなっても身が硬くなりにくく、品質が高いと評価されている。
1尾から2人前の蒲焼きを作れる、大きくて身の軟らかいウナギを養殖するには、できるだけ多くの雌ウナギを生産する必要があった。雌の比率を高くするため研究グループが着目したのが、大豆イソフラボン。大豆胚芽などに多く含まれるイソフラボンは、女性ホルモン(エストロゲン)と似た化学構造を持ち、豆腐や味噌などにも含まれている。
この大豆イソフラボンを添加した飼料を、雌雄に分化する時期のウナギに一定期間与えたところ、雌の比率をほぼ100%にすることができた。ウナギが大豆イソフラボンを添加した飼料を食べているのは、雌雄に分化する時期までの限られた期間であるため、出荷サイズに成長したウナギには、イソフラボンは残っていないことが確認されている。
この新たな養殖技術は2021年11月に特許を取得。研究グループで開発した飼料に添加する大豆イソフラボン製品は、2022年5月から販売が始まり、ウナギへの大豆イソフラボン製品の与え方を説明したパンフレットも公表されている。大豆イソフラボン製品は愛知、三重、静岡の3県で先行利用されていたが、2023年12月からは全国で販売開始。今後は様々な県の養殖業者に利用が広がることが期待されている。
愛知県では、この大型雌ウナギについて昨秋にブランド名、ロゴを一般公募し、1月12日に結果を発表。ブランド名は「葵(あおい)うなぎ」で、「あいちの、おおきな、おいしいうなぎ」の頭文字と、ウナギ養殖が盛んな愛知県三河地方で生まれた徳川家康にあやかった。
1月27日~2月12日の期間限定で、同研究や商品化に協力してきた愛知県の一色うなぎ漁業協同組合などが直営する愛知県西尾市の3店で、1日あたり各店20食限定で長焼きが販売。食べた人からは、「大きくて軟らかい」「脂の乗りが良い」などの声が聞かれた。
研究統括者の愛知県水産試験場・戸田有泉さんは、「研究は一段落。大豆イソフラボン製品が市販され、大型雌ウナギの養殖業者での生産も始まったが、まずは多くの人においしさを知ってもらい、生産拡大につながってほしい」と話している。
2024年度には、一色うなぎ漁協で年間生産量(150~200トン)の1%にあたる1.5~2トン(4000尾)の生産を目標としている。
チョウザメに応用も
同技術を他の魚種へ応用する研究も進められている。高級品として知られるキャビア(卵の塩漬け)の原料はチョウザメの卵であるため、チョウザメをできるだけ雌化することを目指している。北海道大学大学院の井尻成保准教授は、「大豆イソフラボンによって遺伝的には雄のチョウザメを雌に誘導できることは確実で、今のところ雌への誘導率は8割ほどと考えられる」と話している。
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