栽培技術:時の人話題の組織
【時の人 話題の組織】中村 博年・中国工業株式会社常務取締役 確かな技術を明日のために2016年4月21日
農家のくらしと営農を支えて
農協の事業は営農関係から組合員や地域の人たちのくらしの分野まで多様だ。毎日、目にしてはいるのだが誰がそれを提供しているのか分からない、目に見えない仕事もそこにはある。中国工業(株)もそうした仕事を提供してくれている存在だといえる。
◆60年以上もLPガス容器供給
広島県呉市に本社を置く中国工業(株)は、もともとは鉄やステンレス、特殊金属などを扱う鉄構製品の製造会社だが、昭和30年代以降60年以上、JAグループと深い関係をもっている会社だ。とくにLPガス事業に携わってきた人や、畜産の飼料関係の仕事をしてきた人たちにとっては、なくてはならない存在だといえる。
同社の売上高の6割を占める主力製品は、一般家庭用から工業用まで各種ニーズに対応したLPガスの容器だ。昭和25年に創業した同社が、昭和30年から将来のエネルギー需要を見越して製造を開始し、これまで5800万本を超える製造実績をもち、現在でも業界トップの33%を超えるシェアを誇っている。
農家の人にとっては、「中国工業」という社名は知らなくても、軒先などに置かれ、炊事や浴室などで毎日お世話になっているものだ。「お使いになっているLPガス容器に『CKK』という刻印があれば、それがわが社の製品です」と、中村博年常務がいうように、昔から農家にとってはお馴染みなものだ。
◆畜産農家支えるFRP活用技術
そして、FRP(グラスファイバー強化プラスチック)製の畜産飼料バラ受タンクなど、給餌機材も同社の主力製品だ。
「紙袋で扱われていた飼料を、バラ化できないかという要望があり、昭和43年ころから製造を始めた」ものだ。紙袋だと保管中に腐敗したり、ネズミに齧られたりするが、バラ化して飼料タンクに入れておけば、そうした事故もなくなるし、農家が給餌するのにも便利だということで普及してきた。さらにFRP製だと「鉄のように内面に錆がでないので、メンテナンスせず10年は使われている」という。そして「実際には、メンテナンスして「20年、30年使われるケース」もあるという。
LPガス容器もこれまで製品の問題で事故を起こしたことがないので、20年(5年ごとの検査を4回受ける)以降も使われる(2年更新)ケースもある。ビジネスとしては、もう少し早く買い替えて欲しいのだが「それだけ優れた製品」でもあるということで「痛し痒しですね」と中村常務は苦笑いする。
飼料用タンクを製造している企業は5社あるというが、これも3割以上のシェアをもち、業界トップだ。
畜産関係では、子豚が親豚からもらいにくくし、離乳を促進する豚舎「すくすくハウス」や、いまは需要が少なくなったというがサイレージサイロなども、FRPの特性を活かして手がけてきている。また、飼料工場では魚粉などを配合するが、そのときに発生する臭いを消臭する装置など、さまざまな分野で活躍している企業でもある。
◆飼料用米活用に「マイスター」を
その中国工業でいま力を入れているものが2つあると中村常務。
その一つが飼料用米粉砕添加装置(粉砕添加一体式)「マイスター」だ。
いま国は飼料自給率の向上と水田の有効的な活用のために飼料用米生産を推進している。このマイスターは、現在、多くの畜産農家で使われている自動給餌ラインなどの既存設備に接続して、飼料用米を粉砕し、インバーター制御によって米の排出量(配合量)を調節して添加する装置だ。
粒度をレバー操作一つで調整できるなど、効率の良い添加ができる「餌にこだわる生産者ニーズに応えた、生産者の自家配合に適した装置」として、多くの引き合いがきているという。
◆軽くて安全な次世代LPガス容器
もう一つは、「次世代のLPガス容器」と中国工業が推進している「プラコンポ」だ。
この容器は、世界的なLPガス用容器のリーディングカンパニーであるノルウェーの「HEXAGON RAGASCO社」が開発したもので、累計製造数量が1000万本を超えるというものだ。
その特徴は、FRPの容器本体やLPガスの気密性を保持する高密度ポリエチレン製ライナーなどを使用しているために、重量が鉄製容器の約半分という軽量であること。半透明なので残液量が視認できること。プラスチック製なので鉄製のように錆びることがない。
さらに、マイナス40℃の北極圏でも、65℃の砂漠地帯など、どんな自然環境でも品質が変わらないという信頼性。破裂圧力への耐圧性は鋼製容器と同等以上で、たとえ火に包まれても爆発しない安全性という、これからの時代にふさわしいLPガス容器だと、同社では力をいれている。
オールプラスチック製でデザイン性にも配慮されカラフルなこと、軽くて持ち運びが簡単なことなどから、レジャーも含めて生活のさまざまなシーンで快適に使えるのも、これまでのLPガス容器とは大きく異なるといえる。鉄製ではないため錆びる心配がないので、船や海辺でも使い勝手がいいといえる。
こうした特性を活かした「次世代容器」として、「大いに売りだしていきたい」と中村常務は張り切っている。
◆蓄積された技術を社会に
さらに近未来を見据えて中国工業では、FRPはガラス繊維だがそれを炭素繊維に変え、「水素ステーション用タンク」の研究開発に取り組んでいる。
それは「鋼とアルミと強化プラスチックという現代を支える素材を駆使して効率的でより安全な"器"づくりを追求してきた」中国工業が、「急激な技術革新と時代の趨勢に対応するべく容器から搬送システム、さらに新しい分野へと、蓄積された技術の上に社会をつなぐパイプ役としてさまざまなニーズにお応えするよう事業の展開に努めていく」(野村實也同社社長)という前向きな姿勢の表れでもある。
◇ ◇ ◇
そして最後に中村常務は「農協についていろいろ批判的なことを言う人がいます。しかし、都会の人は知らないでしょうが、農協は、例えばLPガス事業では、民間企業なら遠いからと止めてしまうような辺鄙なところにも一律運賃で配送をしています。それは、総合事業として収益をプールしているからできることです。畜産でも子牛を集めるのも農協のトラックですし、農家と一体となって仕事をしています」と、農協の存在を高く評価し「いつもお世話になっているので、中国工業としてなにか恩返しができればいいなといつも考えています」と語ってくれた。
(なかむら ひろとし)
昭和26年生まれ。昭和50年広島大学卒業、中国工業(株)入社。平成16年大阪支店長、22年東京支社長、25年取締役営業部門管掌・営業推進部長、27年常務取締役営業部門管掌・営業推進部長
(写真)中村 博年・中国工業株式会社常務取締役、次世代LPガス容器「プラコンポ」
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