生産資材:誕生物語
【シリーズ・誕生物語】第8回ひまわり「サンリッチ」(タキイ種苗(株))2013年12月4日
・創業は天保年間、F1時代の先駆け
・子どもの目線で
無花粉も追求し
・野生種は宝の山
・感性と観察力が新品種生み出す
・安定大量供給力、世界中が高評価
稲や野菜、果樹そして花きなど耕種農業といわれる農産物の生産は「種子」がなければ始まらない。そしてそのいずれの農産物も野生のものではなく、食用ならば収量や味、花きのような観賞用のものは、その嗜好に合わせて、人間がさまざまに交配を重ねてつくりあげてきたものだ。
今回は新しい品種がどのように開発されるのかをタキイ種苗(株)が開発したヒマワリ「サンリッチひまわり」誕生に探った。
切り花の新市場を創出
革新的なヒマワリ
◆創業は天保年間、F1時代の先駆け
「タキイ種苗」というと1985年(昭和60年)に誕生した「桃太郎トマト」を開発した種苗会社と思う人が多いだろう。「桃太郎トマト」が誕生したこの年は、タキイ種苗の創業者・大森屋治右衛門(初代・瀧井治三郎)が優良な種苗を採種して希望に応じて分譲を始めた1835年(天保6年)から数えて150周年という記念すべき年でもあった。
それまでにも、48年(昭和23年)には民間企業として交配種の先鞭をつける長岡交配(現・タキイ交配)「福寿一号トマト」・「福寿二号トマト」を発売。さらにその翌年には初めてのF1キュウリ「長型節成」「半白節成」を、50年には世界初の自家不和合性利用によるアブラナ科野菜のF1品種「一号甘藍」(キャベツ)と「一号白菜」を発売する。こうしたF1品種の開発によって、世界的に一代交配種時代に入っていくが、タキイ種苗はその先鞭をつけたといえるだろう。ちなみに「一号甘藍」は発売から60年以上経った今日でも発売されているという。
こうしたことからタキイ種苗は野菜類の種苗会社と思っている人が多い。しかし、現在、同社が品種開発した2000種のうち約500種は花きだという。実際に滋賀県湖南市にある同社の研究農場を訪ねると野菜だけではなく、パンジーやビオラ、葉牡丹をはじめ多くの草花がほ場を彩っている。
現在、切り花として売られているヒマワリの70%以上を占めているという「サンリッチひまわり」もこの研究農場で十数年かけて開発・誕生した。
◆子どもの目線で
「サンリッチひまわり」の生みの親ともいえる同社の羽毛田智明研究農場次長は「当時、ヒマワリといえば露地に咲く粗野な花というイメージでした。その多くはロシアヒマワリとよばれる種類が一般的で、草丈が2mほどで見上げる花でした」。そんなヒマワリを「70?80cmくらいの子どもの目線で、見上げるのではなく子どもの顔の正面で見られるようにするとヒマワリのイメージが変わるのではないか」と思い草丈の低い「矮性種」を作ろうと、79年(昭和54年)に育種開発に取組む。
◆無花粉も追求し
育種開発にあたっては、まず「育種目標」を設定し、その目標を達成するために必要と思う素材(品種や系統など)を集め、素材間で交配し、そのなかからこれはと思う個体を選抜。さらに交配を重ねていく。
たとえば「矮性種」が育種目標であっても草丈の低い品種だけを素材として集めるのではないという。草丈が高くても「花の姿が良い」とか「特長的な形質を持つ」ものも素材となると羽毛田さん。
ヒマワリの育種で「何を使うかと考えたところ、当時は花型のよい品種は“太陽”という高性種しかなかった。そのためそれらの高性種と矮性種の交配を行っていた」。
ところが、そうした過程のなかで、「背の高い端正な系統が出て」きた。そこで花粉の出ない食用ヒマワリの系統があり、「花型と草姿のよい高性種で無花粉の特性を兼ね備えた品種ができればおもしろい品種になる」と考え、矮性種と同時進行で育種していく。
切り花市場では花粉がでない花が好まれるので無花粉で切り花としての適性をもつヒマワリができれば新たなマーケットが開けるからだ。
そしてまず鉢植えができる矮性種の「ビッグスマイル」が90年(平成2年)に発売開始される。そして花粉がなく花の直径が10cmくらいと小さく、草丈が150cm前後で茎が細い「サンリッチひまわり」が91年に市場に登場し、日本だけではなく世界の花市場に、切り花のヒマワリ市場を創出し、人気品種となっていく。
育種に取組み始めてから十数年という長い時間がかかっている。
「サンリッチ」とは「太陽(sun)に満ちあふれた(rich)」に由来し、現在、オレンジ、マンゴー、レモン、パインなどフルーツの名前を付けた品種が発売されている。
◆野生種は宝の山
羽毛田さんは長年にわたって育種に携わってきた経験から「F1種は特性がすべて同じですが、固定種はいろいろな性質をもった個体が出てきます。これを上手に使う。それがおもしろい」という。また「育種では野生種が決め手になることが多い」「野生種のなかにすべての園芸種のもとがあると考えている」。
そしてヒマワリの育種は「最後はアメリカのアリゾナやテキサスに自生している野生種に戻るということです」という。
なぜなら野生種は人間によって育種された園芸種よりも「遺伝子の幅」があり、交配することで、「野生に眠っている遺伝子群を掘り起し、いままでの園芸種にはない形質を得ることができる」。それは色や姿形だけではなく、野菜などでは「耐病性」を得られることもあるという。だから羽毛田さんは、「野生種は宝」だと考えている。
◆感性と観察力が新品種生み出す
羽毛田さんのように育種開発する人を「ブリーダー」と呼ぶが、同じ育種目標をもって取組んでも、同じものはできないという。それは10色の絵の具(素材)を使って例えばピンク色を作れといわれても「人によって出来上がる色が違う」ように、ブリーダーそれぞれの個性がでるという。その個性が多くの新しい品種を生みだすことになる。
もう一つブリーダーに求められるのは、交配を重ねるなかでの小さな変化を見落とさない「観察力」だ。交配を重ねるなかでは「突然変異」が起きることも当然だがある。しかしその変化は最初は「小さいので、それを見逃さず拾い上げて育てることで、新しい品種が生まれる可能性が大きい」。だがそれは「見ようとしないと見えない世界」だと羽毛田さんはいう。
「サンリッチひまわり」は羽毛田さんを中心とするチームの感性・個性と観察力が生みだしたものだといえる。
◆安定大量供給力、世界中が高評価
花粉がなく切り花にして1週間ほどはもつという「花もちのよさ」、さらに花粉が出ないので花の芯が黒く花弁の黄色とのコントラストが良いこと。また栽培にあたっては、日照時間が短くても一定の温度があれば咲くので3月から11月ころまで出荷できる(栽培期間の目安は60日程度)ことなどから、発売から20年以上たったいまでも世界中の切り花市場で人気の品種となっている。
「子ども目線で…」から始まった育種が、「サンリッチひまわり」という品種を生みだし、世界の切り花市場に従来はなかった「ヒマワリ」という新しい市場を創出したことになる。そして世界中で使われる大量の種子を必要な時に必要なだけ安定供給できるタキイ種苗の力は、高い評価を世界から受けている。
これからどんな新しい花や野菜が生みだされてくるのか楽しみでもある。
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