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TPP11はTPP12より悪い2018年5月31日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

 今回は5月17日の衆議院内閣委員会のTPP11関連法案審議の参考人質疑での意見陳述内容を紹介する。質疑は次回紹介。

 私からは、「TPP11はTPP12より悪い」というお話をさせていただきたいと思います。アメリカ抜きのTPP11を進めるということは、これとセットで、TPP12のとき以上のアメリカからの対日要求に応えるということになります。そのつもりで日本もおりますから、このままTPP11を進めれば、TPP12のとき以上に日本は打撃を受けるということをそもそも最初から想定して受け入れていると言わざるを得ない。

 

◆「保護主義との闘いのためTPP11などを推進する」はごまかし

 なぜTPPをアメリカが破棄したのかということについて、日本では全く議論がされていません。アメリカ国民の八○%が、TPPをやってもグローバル企業の経営陣がもうかるだけで、賃金は下がる、失業がふえる、それから、国家主権の侵害だ、食の安全性が脅かされるということで、大統領候補の全てがTPP反対と言わざるを得なくなった。保護主義との闘いではございません。アメリカは、こういうふうな自由貿易への反省からこれを否定せざるを得なくなったという国民の声があるわけです。

 

◆自由貿易、規制改革の本質~「お友達」への便宜供与

 でも一方で、グローバル企業はもちろん違う。TPP、それから国内の規制改革もそうですが、これはいわば「お友達」への便宜供与です。アメリカのハッチ共和党議員がTPPを進めたのはどういうことか。製薬企業から二年で五億円の献金をもらって、患者さんが死んでもいいから、ジェネリック医薬品をつくれないように新薬のデータ保護期間を二十年に延ばしてくれと主張した。これがある意味TPPの本質だということは忘れてはいけない。

 

◆TPP11も日米FTAも「両にらみ」~TPP破棄で一番怒ったのは米国農業団体だった

 そもそも、TPP破棄で一番怒ったのはアメリカの農業団体です。なぜか。日本にあんなにおいしい約束をさせたのにできなくなると怒ったわけですね。だから、日本は相当なことをやってしまっていたということですけれども、アメリカの農業団体のすごいのは、ここの切りかえの速さです。そうか、TPPも不十分だったんだ、要はそれ以上のものを二国間で要求すればいいんだということになってきているというのが今の状況です。
 それを見越して、日本はどんどん準備を進めています。アメリカへの要求に応えるためにどうやるかというリストも、もう全部できています。例えば、TPP枠でアメリカに七万トンの米の枠をつくりましたけれども、それが実現できなくなるかというと、実はもう日本、SBS米という部分で、一万トンぐらいしかアメリカの米を買っていなかったのを六万トンまでふやしているわけですよ。いろいろな形でアメリカの要求に応える手だてをしている。

 

◆米国に盲目追従して、はしごを外される哀れな日本

 TPP11にするときに、最初八十項目もの、もうこれはやめてほしいという項目が出てきたわけですよね、二十二まで絞り込みましたけれども。その中で、日本だけが、私は何も外したい項目はありませんと。ここまでアメリカと同調する姿勢をとったのに、今、ISDSについて何が起きたか。
 あれだけ、グローバル企業が人の命や環境を痛めつけてでも自分たちの利益を損害賠償をしてとってやるというようなISDSはいかんという議論があったのに、日本とアメリカだけが主張し、ほかの国は全部反対でした。EUは、こんなものは死んだものだと言っていました。ところが、その中で、日本はアメリカに追従してこれを絶対やらなきゃいけないと言ってきたけれども、今、アメリカが、世論に押されて、これは国家主権の侵害だということで、ISDSをNAFTAの交渉からアメリカはもうやりませんと言い始めたんです、入れないと。ISDSをアメリカが拒否し始めたんですよ。今、日本だけが宙に浮いて、ISDSに固執しているという異常な状況になっています。だから、TPP11から、ISDSは凍結じゃなくて削除すべきなんですよ。
 アメリカに追従して、はしごを外されて孤立するというこの繰り返しをやめないと非常に危険だということが、ここからもわかるということです。

 

◆TPP12以上に増幅される日本農林水産業の打撃~見捨てられた食料

 それから、TPP11で、もう早く決めてしまおう、成果を出そうということで何をやったか。アメリカを含めて農林水産業についてこれだけ譲ると決めた内容を、アメリカはいなくなったのに、そのままほかの国に譲っちゃったわけですよ。オーストラリア、ニュージーランドは大喜び。乳製品の輸出、アメリカの分まで全部できるわと。それで、最強のオセアニアの農業国から我々は更に攻められなきゃいけないということにTPP11でもなっちゃった。
 そうすれば、アメリカが黙っているわけないから、おい、俺の分はどうしてくれるんだ、それ以上のものをやってくれというさっきの話になってくるわけだから、結局、そういうふうに、TPP12以上の打撃を日本の農林水産業、食料が受けるということをわかっていて進めている。
 ここは本当に戦略を考えないといけないと思います。日本は、チーズについても、TPPでアメリカから、ハード系のチーズが得意だからゴーダとかチェダーは関税を撤廃してくれと言われて、はい、わかりましたと。でも、カマンベールは守りましたと言っていたわけですよ。ところが、EUとの協定もTPPレベル以上でやっていいぞということになったものだから、EUからカマンベールの関税を撤廃してくれと言われたら、うん、そうですよねといって、今度はソフト系も実質関税撤廃しちゃった。気がついたら、チーズの関税は全面関税撤廃になっていた。何も考えていないじゃないかと。
 カナダは、米に匹敵する酪農を絶対死守するということで、TPPでも、それからEUとカナダとの協定でも、一切乳製品の関税には手をつけていないですよ。こういうふうな戦略というものが日本にあるのかが問われている。

 

◆影響がないように対策をとるから影響がない?

 それから、影響と対策については、影響がないように対策するから影響はないと。いや、それはちょっと。それだったら対策はどうなっているんですか。TPP11で、加工原料乳はキロ八円下がると。でも、生産量も所得も影響ないと。いや、そんなことないでしょう。チーズ向けの奨励金をふやしただけで八円の差額がふえますか。畜産クラスター事業をやったら八円のコストが下がりますか。そうであるとすれば、そのことをきちんと説明する必要があるわけです。
 ただ、牛肉、豚肉については、今回の法案にもありますようにマルキンという仕組みを、九割補填にして、豚肉の方は生産者負担を二五%まで、牛肉と同じにすると。強化いたしました。法制化もすると。これは評価される方向性だと思いますが、表一、表二を見ていただいたらわかりますように、だからといって、牛肉、豚肉の生産がそのまま減らずに、所得も維持されるというわけにはいかない。表一、和牛では、最大規模階層の二百頭以上だけが赤字を免れる。豚肉でも、最大規模階層の二千頭以上だけが赤字を免れる。そういう効果なんだということは押さえておかないといけない。

表1 去勢若齢肥育牛1頭当たり収益性

表2 肥育豚1頭当たり収益性

 

◆国産牛乳が飲めなくなる?

 それから一方、酪農についてはそういうものは全くないわけですよ。国産牛乳がことしの夏から飲めなくなるかもしれないというこの危機、業界では大変なことになっているわけですよね。このことを国民が認識しなければいけない。チーズが安くなるからいいななんと言っているうちに、ことしの夏から、小売店頭から時々牛乳が消えるかもしれないというわけですよ。
 酪農はトリプルパンチ。TPP11と日・EU・FTA、それから指定団体の解体、酪農協の解体が決まりました。世界で、牛乳については、これはきちんと量を把握して流通させないと消費者にきちんと届かないということで、全量出荷の原則を全ての国がとっているんです。それを日本は法律で、全量出荷は義務づけちゃいけない、二股出荷でも受け付けるという、世界で唯一、例のないことをやってしまったんですよ。このことは大変な事実なわけですね。そういうふうな不安もあって、もう都府県中心に酪農生産がどんどん減って、さっき言ったような、ことしの夏から足りなくなる。
 だから、酪農については、牛肉、豚肉のような、せめてマルキンをきちんと入れなきゃいけないという議論があってしかるべきなのに、そういうものはないまま、この危機を乗り切るために何をするか。国産振興ではなくて、脱脂粉乳とバターの追加輸入で夏に還元乳をつくって、みんな飲んでくれという話になっているんですよ。国産振興をどう考えているんですか、自給率向上を放棄するんですかというのが、今心配になってきている状況です。

 

◆酪農・畜産の衰退では飼料米政策も破綻する将来展望の欠如

 それから、今回の自由化では酪農、畜産が影響が大きいということになっておりますが、それは米と関係ないわけじゃないということですね。表三にありますように、米の生産も減ります。でも、米は消費の方が減り方が大きいので、十五年後にはまだ七十万トンも余る。やはり餌米をやらなきゃいけない。ところが、このまま酪農、畜産が減っていったら、五割も六割も牛や豚の数生産が減って、誰が餌米を食べるんですかということになりかねないわけですよ。そういうことの整合性についてどう考えているのかということも問われる。

表3 2030年における品目別総生産・消費指数(2015年=100)と自給率の推定値

 

◆「安い食品で消費者が幸せ」のウソ~食に安さを求めるのは命を削ること、今の基準でも危険な輸入農産物

 そして、これ以上安い輸入食品が入ってくる、食の安全基準が更に順番に緩められていくということを続けたら、付表(略)に、最近の検疫でどれだけの農産物、食料がひっかかっているかというのを出していますけれども、O157からいろいろな、あり得ないような化学薬品がいっぱい出てきているわけですよ。でも、検査率七%なんですよ。素通りして、みんな食べているわけですよ。日本人は、安いものを食べたいからということで、現地にコストを下げてくれと。一生懸命やると、安全性のコストも下がっちゃって、どんどん安くなるけれども、どんどん危なくなっているという現実。
 こういう中で、輸入農産物は、成長ホルモンの問題、成長促進剤の問題、除草剤、遺伝子組み換え、それから防カビ剤のイマザリル、こういうリスク満載なわけですから、安いと言っていたら本当に安いのか。病気になって命が縮むんじゃないですか。だったら、国内で頑張ってくれている、安全、安心な食料をつくってくれているたくさんの農家の皆さんをいかにみんなで支えるかということを今考えないと、牛乳でことしの夏から起こりそうな事態がどんどん波及していったら、気がついたときにはいろいろな病気がふえて、国産の安全、安心なものを食べたいといったら自給率一割になっていて選ぶこともできないという事態がもう目の前に来ているということであります。

 

◆命・環境・国土・国境を守っている産業を国民が支えるのは当たり前~食料自給率を死語にしてはならない

 国民の命を守り国土を守るには、どんなときにも安全、安心な食料を安定的に国民に供給できること、それを支える自国の農林水産業が持続できることが不可欠なわけですが、その安全保障の要である農林水産業を国民全体で支え自給率を高く維持することは世界の常識なわけですが、それが日本では常識になっているかどうかが問われている。
 日本の農業が過保護だというのはマスコミ的につくり上げられたうそです。農業所得に占める補助金の割合は日本は三割、スイス一○○%、イギリス、フランスでも九十数%。ヨーロッパは幾度の戦争で食料難と国境の危機にさらされて、命を守り、環境を守り、地域を守り、国土を守っている産業をみんなで支えるのは当たり前ということが認識されているのに、それが当たり前でないのが日本ではないか。だから、ここで、食料自給率を死語にしてしまうような流れを続けることに歯どめをかけないといけない。

表4 農業所得に占める補助金の割合(A)と農業生産額に対する農業予算比率(B)

 

◆命、環境、国土を守る要としての農林水産業政策

 今言ったように、欧米諸国が所得の一○○%近くを税金で支えてでも自分たちの食料と環境、地域、国土、国境を守るというふうに言っているときに、我が国は民間活力の最大限の活用だとか、企業参入が全てであるとか、自由貿易が全てであると言って、気がついたら安全性の懸念が大きい輸入農産物に一層依存して、国民の健康がむしばまれる、地域の資源、環境、地域社会、そして国民の主権さえも実質的に奪われていきかねないような状況をもたらす政策をあらゆる形で組み合わせて今進めようとしているのではないか。ここが問われている。
 イタリアの水田地帯ではこう言われています。田んぼにオタマジャクシもすめる、ダムのかわりに洪水もとめてくれる、水もろ過してきれいにしてくれる、こういうふうな機能にみんなお世話になっているけれども、それをきちんと値段に反映できているか。できていないんだったらみんなでちゃんとお金を集めて払おうじゃないかということで、EUでは農業の持つさまざまな多面的な機能、環境機能について指標化して、それを国民がどれだけ支えていくかという壮大な環境支払いシステムをつくり上げております。だから、国民は納得して払えるし、生産者は誇りを持ってつくっていける。
 アメリカはそれに輪をかけてと言ったら変ですけれども、最低限の農業所得、価格は政府が五年間固定して、それとの差額は一○○%補填するわけです。これは、輸出向けもそうです。米は一俵四千円で売っている。でも、一万二千円との差額は一○○%払うんです。多いときには、輸出向けだけで一兆円ですよ。この差額補填で農業を支えている。だから、その指標になる最低限の所得、価格というものがわかっているから、それを目安にして生産者は頑張ってつくっていける。これが食料を支えるということです。そういう意味で、日本の政策は今踏みとどまって、もう一度きちんと考え直さなきゃいけないんじゃないか。
 特に日本には緊急対策というのが多いですけれども、これは政治家の先生方にはある意味手柄になりますのでいいんですけれども、農家の皆さんにとっては緊急対策じゃいかんのですよ。アメリカやヨーロッパのようにきちんとシステマチックに、これは最低限支えるから、この差額を補填するから、発動される基準を目安にして頑張ってくださいということがわかるような投資計画が立てられるような政策を、恒久的なものをつくらなきゃいけない。
 そういう意味で、今回の、牛、豚のマルキンの強化と法制化は、一つの方向性として評価できる。だけれども、もっとそういうものを入れなきゃいけない農産物がほかにもあるのに、例えば今の酪農ですよね。酪農は、そういうふうな政策がないままに、それを補完するための生乳共販組織が弱体化されようとしている、こういう状況は非常に問題である。収入保険も、戸別所得補償制度にかわるものだというふうにいいながら、残念ながら、最低限のセーフティーネットを形成できない仕組みになっています。

 

◆食を外国に握られることは国民の命を握られ、国の独立を失うこと

こうした点の改善も含めて、食料を外国に握られることは国民の命を握られることなんだ、国の独立を失うことであるということをもう一度肝に銘じて、安全保障戦略の中心を担う恒久的な農林水産業政策を、政党の垣根を越え、省庁の垣根を越えた国家戦略予算として再構築するということについて、ぜひきちんと検討してから、TPP11をやっていいのかどうかと。TPP12以上に大変な状況なんですから、簡単に議論を終わらせるということは許されない非常に大きな問題であるということを申し上げまして、私の話を終わらせていただきます。

 

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鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】

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