【熊野孝文・米マーケット情報】コメ消費拡大も外国人頼み? インバウンド需要の実態2018年9月18日
東京のコメ卸の経営者から意外な話を聞いた。「都内の米穀小売店に卸している玄米の数量が伸びている」と言うのだ。もう少し具体的に記すと都内の東部地区は前年に比べ平均すると10%ぐらい増えているという。「意外」と思うのは食管法が廃止され流通規制が撤廃、誰でもコメを販売できるようになってからまさに加速度的に米穀小売店の数が減少した。専門小売店の数が減ったのは米穀小売店に限らず、酒や八百屋、鮮魚店も同じであり、小売りの主流は量販店、コンビニ等になっている。では、米穀小売店の数が減るだけ減って生き残った米穀店が盛り返しているのかと言うとそうでもない。
(公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構)
この表は米穀機構が調査した精米の入手経路を示したものだが、直近の今年7月をみると米穀専門小売店から購入したと答えた消費者はわずか2.2%しかいない。産地直売所から購入したと答えた人より少ないのである。良く言われるのが地元密着型の米穀小売店は顧客の高齢化で販売量も自然減になっているというものだが、この調査は調査対象の年齢構成が人口統計の比率に合わせるように調整しているので、必ずしもその指摘は当たっていない。
冒頭の卸の経営者になぜ都内の小売店向けの玄米販売量が伸びたのか聞いてみると「インバウンド需要ではないか」と見ている。コメについてもインバウンド需要というのは確かにある。川崎市の米穀小売店は、近くのマンションに50人ほどのベトナム人が就労のために住み着いた。ベトナム人がこの小売店にコメを買いに来たので、要らなくなった中古のテレビをプレゼントしたところ毎回30kgずつコメを買いに来るようになった。 それだけではなく、そのことが口コミで広がったのか、フィリピン人もコメを買いに来るようになった。
フィリピン人は自国の料理に使うため砕米が欲しいというので、小売店主は精米工程で出る砕米を溜めて販売している。感心したのはこの小売店にラジオ局が取材に来た際、小売店主の長男がオーガニック米や棚田米といったこだわったコメも販売していると自社のPRを英語で行ったことで、こうした光景は初めて見た。
日本のオーガニック米(有機米)を外国人に販売しているところは他にもある。そのコメは国内ではなく、海外で販売している。しかも販売方法は自社店舗での店頭精米である。日本農産物輸出の優良業者として農林水産大臣賞を受賞したこの会社の社長になぜ店頭精米なのか聞くと「外国人には店頭精米がエンタテインメント」だとの答えで、ハワイの店舗はガラス張りで精米する様子が外から見えるようになっており、外国人の人だかりができるという。しかも分搗き精米を注文する外国人も多いという。有機米販売を始めた理由は、オーガニックにこだわる層は日本よりはるかに高いと判断したことと外国人から「ジャポニック」という言葉を教えられたことにある。ジャポニックとは自然農法のことで、その農法の提唱者福岡正信氏の著書も読まれているという。自身も長野県で自然農法でコメ作りをはじめ昨年は反7俵穫れたと喜んでいた。
オーガニック米は輸出先国の規制により、使用して良い資材、肥料等が異なることがあるため、それなら最初から何も施肥しない自然農法が輸出しやすいと判断した。日本米輸出を手掛ける主要業者に聞いた限り、最も輸出用米の契約価格が高いのがこの会社で、付加価値をつけて販売する能力があるのだろう。
国内に話を戻すと外国人向けに最もコメを販売しているところは、外資系の会員制量販店で、特売があるときはリックを背負った外国人が列をなすという。次が新大久保の食品スーパーで、このスーパーに精米を卸している業者によると1回で運ぶ量はなんと10t。
ここでも特売日は外国人が列をなすというのだから独特のネットワークがあるのだろう。納入業者は食品スーパーがあまりにも安い価格で販売するので何度も経営者に「そこまで安くしなくても売れるのでは」と止めるように要請しているのだが、他店より安くないと我慢できないらしく、一向に安売りを止める気配がない。それほど安く販売出来るコメはないはずなのだが、外国人が列をなして買いに来るコメは会員制量販店も新大久保も「カリフォルニア米」である。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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