【森島 賢・正義派の農政論】国民民主党の不可解な農政2018年11月5日
国会論議が始まった。
安倍晋三首相の所信表明演説に対する各党の代表質問を聞いていたら、国民民主党が首相に対して「…10アール当たり最大10万5000円もの税金を使って飼料用米の作付けに政策誘導し…」と批判していた(録画は文末を参照)。飼料用米に税金を使い過ぎているという批判である。
衆議院の本会議場の雛壇の上での発言だから、多くの人が聞いていただろう。しかも、僅か2分間の農政についての質問の中での発言だから、同党の農政の中で、これが主要な部分なのだろう。そのように誰もが思うにちがいない。
この発言の内容は、以前から財界が主張していたことである。
これは国民民主党の代表質問ではなく、財界の代表質問ではないのか。そのように一瞬わが耳を疑った。
国民民主党に対する期待が大きいだけに、そのぶん落胆が大きい。農業者は、期待が裏切られたという気持ちだろう。
この発言の主旨は、農家の直接所得補償制度を復活せよ、という主張である。しかし、力が余り、返す刀で飼料米の助成制度を切ってしまったのだろう。そのように好意的に聞くこともできる。
しかし、この発言の重大さは、飼料米の助成制度を、財界主導で切り捨てるとき、野党第2党の国民民主党の主張を取り入れた、という言い訳を与えた点にある。
◇
国民民主党が復活を主張する直接所得補償制度は、9年前の総選挙で自民党が大敗し、野党に転落したときの、当時の野党の看板政策だったものである。つまり、自民党の恨みのこもった政策である。だから、今後も自民党政権が続くなら、意地を張ってでも決して採用しない制度だろう。
もしも、直接所得補償制度が採用されない上に、国民民主党の主張を採用して飼料米の助成金が減らされれば、これは最悪の事態になる。つまり、そうした最悪の事態を招くことに、国民民主党が大きな役割を果たしたことになる。農業者の恨みは大きい。これは、国民民主党の対案路線の、惨めな末路ではないか。
◇
一方、国民民主党が批判する、飼料米の助成制度は、自民党の、いわゆる農林族の人たちが苦心して作ったものである。それを国民民主党が手ひどく批判したのである。これでは、自民党の農林族の反発を受けることは間違いない。
国民民主党は、綱領的な文書のなかで「穏健保守...を包摂する」党だ、といっている。ここでいう穏健保守には、自民党農林族は包摂されないのだろうか。そうして、農業者からの悪評が高い財界農政、官邸農政を押し進める人たちだけを包摂するのだろう。
また、国民民主党は、「まちに出て、国民の声に耳を傾ける」というが、むらに出て、農業者の声には耳を傾けないのだろうか。まちへ出ても、一部の国民の声にしか耳を傾けないのだろう。
◇
飼料米の助成制度が農業者だけでなく、多くの国民から支持されているのは、食糧自給率の向上を目指す、という大義があるからである。
いま、自給率が38%しかないのは、食糧の基幹である穀物を大量に輸入しているからである。穀物の自給率が28%しかないからである。このことは、国内の穀物生産量を2倍にしても56(=2*28)%にしかならないことを意味している。それだけの需要量があることを意味している。
これほどの膨大な需要量が国内にあるのだから、その一部でも国内で生産し、穀物自給率回復し、食糧自給率を回復しようとするのが飼料米の助成制度である。
この制度は、遊休している水田を活用し、非常時に備えて米を増産しておき、平常時は飼料にするが、非常時には食用米にするというもので、食糧の安全保障を目的にした制度である。
これは、農政の本道である。だから多くの国民から支持されている。
この認識が、国民民主党にはないのだろうか。国民民主党農政の不可解さは、ここにある。
◇
だからといって、国民民主党が主張する直接所得補償制度を否定するつもりはない。それどころか、高く評価できる。つまり、所得が補償されるので、米農家は安心して生産に励むことができる。このように、飼料米の助成制度と直接所得補償制度は、二者択一の政策ではない。
国民民主党に検討してほしいのは、この2つの政策の長所を生かした新しい米政策である。
この新しい米政策を、生産現場の農業者の声に耳を傾け、国民の声を聞き、さらに他の野党と協議をしながら、9か月後の参院選の前に野党の統一米政策としてまとめてほしい。良いものになれば、自民党の一部からも高い評価が得られるだろう。
期待したい。
(2018.11.05)
衆議院TVインターネットの録画は ・・・ ココ
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(前々回 米中の体制間摩擦)
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