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コラム:食料・農業問題 本質と裏側

【鈴木宣弘・東京大学教授】

2018.12.13 
【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】国民の命を守るのは生産者一覧へ

◆食の安全基準は更なる国益差し出しの恰好の材料

 国際的な安全基準(SPS)の順守を規定しているだけだから、日本の安全基準がTPPなどで影響を受けることはないという国会での政府見解は「偽証」である。米国の対日要求リストには食品の安全基準に関する項目がずらずら並んでいるから、それらを順次、どれから差し出すかを決めるのが日本の「外交戦略」、米国に対する恰好の対応策になる。
 米国は日本が科学的根拠に基づかない国際基準以上の厳しい措置を採用しているのをSPSに合わせさせるのがTPPだとかねてより言っており(2011年12月14日、米国議会の TPP に関する公聴会でのマランティス次席通商代表(当時)の発言などを参照)、日米FTAで「総仕上げ」段階になるだろう。
 米国の「科学主義」とは、人が何人も死んでいようが因果関係が特定できるまでは規制してはいけない、というもの。それでは手遅れになる。EUは「予防原則」で、米国が何を言おうが危ないものは止めるが、日本は米国の言いなりだから科学主義で攻められる。

 

◆遺伝子組み換え(GM)表示がなくなる

 GM表示について、「『5%以上の混入のみでよい、加工度の高い食品は除外』という日本の義務表示は世界的にも最も緩いからこれでよい。問題は『遺伝子組み換えではない』という任意表示。米国が安全だと言っているものに、そのような表示をするのは消費者が誤解する誤認表示だから、これをやめさせる」と米国=M社は言っていた。
 ところが、それに対して日本の消費者庁は、日本のGM表示を厳格化するという方針を1年半前に出した。これは米国に抵抗してもやるのか、期待しようと思っていたら、3月に出てきたものを見て仰天。緩い義務表示のはそのままで、「遺伝子組み換えでない」表示だけ「検出されない場合に限る」としてしまった。つまり、国産の大豆を使っていても流通業者でわずかな混入があるので、そうすると日本では「遺伝子組み換えではない」という表示ができなくなる。
 これで、消費者を守るために厳格化したのではなく、GM表示を実質的に全部なくす、米国の言いなりになってやったとバレた。検討委員会には米国大使館員も傍聴者の写真を撮りに入っていたというくらいだ。

 

◆日米FTAでまず決まるのがBSE月齢制限撤廃とイマザリル表示

 BSE(牛海綿状脳症)に対応した米国産牛の月齢制限をTPPの事前交渉で20カ月齢から30カ月齢まで緩めた(つまり、TPPで食の安全性が影響を受けなかったとの政府説明は虚偽)が、さらに、国民を欺いて、米国から全面撤廃を求められたら即座に対応できるよう食品安全委員会は1年以上前に準備を整えてスタンバイしている。米国は一応BSEの清浄国になっている(実態は検査していないだけ)ので、30カ月齢というような制限そのものをしてはいけないからだ。
 また、日本では収穫後に農薬をかけるのは禁止だし、その必要もない。ところが、米国からは穀物や果物を運んで来るのに、カビが生えないように農薬をかける。禁止なのだが怖いから認めなければいけない。「日米レモン戦争」の結果、防カビ剤の「イマザリル」は、収穫前にかけると農薬で、収穫後にかけると食品添加物に分類が変わることになった。こんなことまでして認めてやっているのに、米国はまた怒って、食品添加物に分類すると輸入したパッケージに「イマザリル」と書かされる。これは不当な米国差別だからやめろと、TPPの交渉過程で日本だけが裏で二国間協議をやらされて、そこで日本は改善を認めてしまっていた。イマザリルの検査の簡略化を約束したが、次は、日米FTAで表示そのものの撤廃が待ち受けている。

 

◆現状の輸入農水産物の怖さ

 こういう形でどんどん今の安全基準が緩められてしまうという問題だけではなくて、今入ってきている輸入農産物というのがいかに危ないのかについても、もっと私たちは情報の共有化をしなければいけない。これは本当に深刻な問題だ。
 検疫でどれだけの農水産物が引っかかっているかをみてもらうと(表は割愛)、米国からは「アフラトキシン」、発がん性の猛毒のカビ。「イマザリル」をかけていても、ほとんどのものからこのカビ毒が出ている。それから、ベトナムなどの農産物にはE-coli(病原性大腸菌)に汚染されていたとか、あり得ない化学薬品がいっぱい検出されているが、港の検査率はわずか7%。検疫が追いつかず、93%は素通りで食べてしまっている。私の知人が現地の工場を調べに行き、驚愕したことには、かなりの割合の肉とか魚が工場搬入時点で腐敗臭がしていたという。日本の企業や商社が、日本人は安いものしか食べないからもっと安くしろと迫るので、切るコストがなくなって安全性のコストをどんどん削って、どんどん安くどんどん危なくなっている。

 

◆牛丼、豚丼が安くなっても

 札幌の医師が調べたら米国の牛肉からはエストロゲン(成長ホルモン)が600倍も検出された。成長ホルモンは、消費者を守るために日本では生産には認可されていない。でも、米国が怖いから輸入はザルになっている。牛肉の自給率は4割だから、国民のために使えないようにしているのに、6割が勝手に入ってきていて国民が摂取していたら何をやっているのかわからない。
 EUは米国の牛肉、豚肉は全部ストップしている。勘違いをしているのはオージービーフ、オーストラリアの牛肉を食べればいいと言う消費者、これは駄目。オーストラリアは使い分けていて、EUは成長ホルモンが入っていたら買ってくれないので使わないが、日本に売るときはオーケーだから投入している。なんとEUは米国の肉をやめてから7年で、多い国では乳がんの死亡率が45%減ったというデータが学会誌に出ている。
 もう一つ、ラクトパミン、餌に混ぜる成長促進剤、これは発がん性だけではなく人間が中毒症状も起こすというので、EUに加えて、中国もロシアも生産も輸入も禁止している。日本は例によって、国産には使用できないが輸入はザル。
 乳製品も心配。米国は、M社開発のGM牛成長ホルモン、ホルスタインへの注射1本で乳量が2~3割も増えるという「夢のような」ホルモンを、絶対安全として1994年に認可した。ところが、数年後には乳がん、前立腺がん発症率が7倍、4倍と勇気ある研究者が学会誌に発表したので、消費者が動き、今では、米国のスターバックスやウォルマートでは「うちは使っていません」と宣言せざるを得ない状況になっているのに、認可もされていない日本には素通りしてみんな食べている。日米FTAでもっと米国乳製品が増える。

 

◆命を削る食料は安くない

 以上のように、輸入農産物が安い、安いと言っているうちに、エストロゲンなどの成長ホルモン、ラクトパミン、遺伝子組み換え、イマザリルと、これだけ見てもリスク満載。これを食べ続けると間違いなく病気になって早死にしそうだ。これは安いのではなく、こんな高いものはない。日本で、安い所得でも奮闘して、安心・安全な農水産物を供給してくれている生産者の皆さんを、みんなで支えていくことこそが自分たちの命を守ること、食の安さを追求することは命を削ること、孫・子の世代に責任を持てるのかということだ。
 牛丼、豚丼、チーズが安くなって良かったと言っているうちに、気がついたら乳がん、前立腺がんが何倍にも増えて、国産の安全・安心な食料を食べたいと気づいたときに自給率1割になっていたら、もう選ぶことさえできない。今はもう、その瀬戸際まで来ていることを認識しなければいけない。
 そして、日本の生産者は、自分達こそが国民の命を守ってきたし、これからも守るとの自覚と誇りと覚悟を持ち、そのことをもっと明確に伝え、消費者との双方向ネットワークを強化して、地域を喰いものにしようとする人を跳ね返し、安くても不安な食料の侵入を排除し、自身の経営と地域の暮らしと国民の命を守らねばならない。それこそが強い農林水産業である。

 

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