【近藤康男・TPPから見える風景】日EU・EPAにみる地域・公共2018年12月28日
日本政府の通商交渉は、譲歩の連鎖とその拡大が特徴であり、それは、"勇ましい掛け声"と"やってる感"を醸し出すだけの政治手法の必然的結果だ。そしてその連鎖は、(USTR曰くTAGならざるUSJTA)米日貿易協定への舗装道路にも続いている。
EUの最近の通商交渉の姿勢には、日EU・EPAでも一部に行き過ぎたグローバリゼーションや情報化への見直しを踏まえたものも散見されるものの、市場獲得への強欲さや"21世紀の国際ルール"づくりにおける主導権獲得を意識した強い姿勢が見られ、結果としてTPP超えを許す日本の譲歩が目立つこととなった。
グローバル化は、ともすれば私たちの日常と離れたところでグローバル企業主導でヒト・モノ・カネが飛び交うものと思われがちだ。しかし、具体的姿を現すのは、電子商取引や知財など電子空間を飛び交うものも含め、私たちの日々の暮らしや地域の主権を制約するという形であったり、地域の現場で具体化されるものだ。その意味で、地域や公共と深く関連する政府調達・国有企業・規制の協力などの分野は重要だ。
◆再度、水道事業の民営化について
臨時国会の報告を中心に記した前回のコラムで、水道法改正についても少し触れ次回に、としたので少し追記をしたい。
TPPや日EU・EPAに"民営化"について直接の言及はないが、(1)「保険等の非関税措置等に関する日本政府と米国政府との間の書簡」の「投資の項の3規制改革」では、"規制改革会議の提言に従って必要な措置をとる"との文言があり、かつ政府はTPP原協定の発効に拘わらず、この書簡を実行に移すこととしており、(2)規制改革推進会議の前々身の総合規制改革会議の02年12月12日の第2次答申で水道事業について「民営化、民間譲渡、民間委託すべき」とされている。(原資料へのリンクは前回のコラムに)この点で水道民営化は多くの"規制改革"同様、メガFTAの脈絡の中で強引に進められたものと言える。
地域の疲弊が問題になる中、地域における雇用、経済循環、公共インフラの充実が社会的に強く求められている。しかし、水道事業の民営化が地域外に市場開放する形で進めば、地域経済や住民に寄与しないまま、その利益は住民の負担する料金と共に地域外に流出することになるだろう。
筆者自身は、外資排斥論者でもないし、企業性悪説論者でもないが、コンセッション方式はこのことを加速する筈だ。また、民営化されなくても、TPPや日EU・EPAの政府調達の規律による市場開放は同じ道のりを歩くことになる。一部で検討されているやに聞く独立行政法人方式の場合は、地方自治体の場合でも日EU・EPAの政府調達規律は適用されるし、場合によってはTPPも含め国有企業の規律の制約を受けることもあり得る(いずれも国有企業章の事業規模や調達の基準額の規模との関連への言及は任を超えるため触れない)。
◆公共とは相容れないTPPや日EU・EPAによる制約
規制改革推進会議≒政府は、地域に与える影響を近視眼的にとらえ、事業経営に対する見識もないまま、"企業参入、多様性、競争(水道には独占しかない)"による官民連携こそが水道事業のあり方だと声高に叫ぶ。しかし大切なのは"公共"という認識だ。
コンセッション方式など"民営化"は、意図は別としても原理的に地域の公共や命に係わるものに根差したものではない。問題は経済活動の利益の地域外への流出だけではない。公共インフラは事業継続と地域への貢献が必須条件だが、企業経営では可能な限り株主利益を第一とし、それが適わないときには撤退も有力な選択肢となる。さらに水道事業については"長期契約と地域独占"というある種の腐敗しがちな特権が付いて回る。
その一方で、料金の規制を含め適切な管理義務だけを背負わされる地方自治体からは確実に運営ノウハウが失われ、管理は骨抜きになるのは必定だ。公有や直営も問題点は山ほどあるが、それでも企業経営とは別の視点=公共サービスの継続という、採算に留まらない原則を持つのが公共インフラだ。そして財政逼迫という現実を考えると、適正に公共を維持するためには、住民も積極的関与を決意するしかないだろう。
漁業法改正法も同様に公共の破壊につながりかねない。漁業権は地域共同体の維持と密接に係っており、地域に責任を持てない(のなら)外部の事業体の参入は、厳しく制限されるべきだろう。
次回のコラムでは、日米貿易協定USJTAが始まる前に、日EU・EPAの10章・政府調達、規制の協力と非関税障壁(EUファクトシートから)についても触れたい。
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