【坂本進一郎・ムラの角から】第3回 むしろ旗・ブリュッセルに立つ2019年3月28日
次の詩は1990年ブリユッセルで行われた10万人デモのスケッチである。
『ブリュッセルの街角』――反ガットの旅から――
あっという間にブリュッセル
さっき日本をたったのに、今、
わたしはもうブリュッセルにいる
ここは多国籍企業オフィスも国際政治機構も軒を重ねた国際都市
ヒユ―、ドン、ドン
チンチン、カンカン、ブーブー
爆竹に、鐘の音に、ラッパの音。
ブリュッセル北広場に集結した世界各地の農民。
10万人デモは動き出した。
一団、一団、各国の農民は人のかたまりとなって進む。
かたまりは鯨波となって蛇のようにうねり、
色とりどりの世界農民の旗が道を埋めつくす。
古タイヤが道のいたるところで燃えている。
ビラの山が火勢を強める。
陽気でにぎやかでアッピール豊かな隊列
ビルの屋上で一日ラッパを吹きデモ隊と音色を競い合うラッパ手
日本とは一味違ったデモ風景
行儀のいい日本隊から、シュプレヒコールが始まった。
「家族農業を守れ」
「世界農民は団結せよ」
シュプレヒコールは石畳にこだまし、多国籍企業のオフィス街にはね返って、
再び、
デモ隊の中に吸い込まれる。
こだまは鯨波を串刺しにして、世界農民の一斉唱和
「プロテジェデぺイザンドウファミーユ」
「レユニセデペイザンドウモンド」(フランス語)
世界農民の心意気が大地をゆるがし、天をもゆさぶる
ここは農民の解放区。
今日は農民が主人公なのだ。
と、
人の流れはとまった。
EC本部前のオフィス。
装甲車、バリケード、機動隊がデモに対峙する。
デモの波が揺れる。旗も右に左に踊る。
ジャガイモが装甲車めがけて飛ぶ。古タイヤの火勢も強まる。
放水が始まった。くもの子を散らすデモ隊。
・・・・・・
隊列を整えると再びシュプレヒコール。
ブリュッセルにはガット閣僚会議で様々な人間関係が渦巻く。
農業をも自由貿易の餌食にしようとする多国籍企業、
その多国籍企業に虐げられていると訴えるアメリカの家族農民
日本の農民はそのアメリカからのコメ自由化におびえ、
一方、日本の農民にさえ怨嗟の目を向ける第三世界の人々、
だが、今日だけは5キロメートルの道程いっぱいを
鯨波の波で埋めつくした世界農民。
ここは農民の解放区。
「プロテジェデペイザンドウファミーユ!」(家族農業を守れ)
「レユニセデペイザンドウモンド!」(世界の農民団結せよ)
◆「最後にして最高の農民運動(コメ自由化反対運動)」
まず詩の釈明を。
詩に解説など必要かどうかは知らない。しかし今から30年前のブリュッセルで見せた農民運動は「人間」を求めるもので、企業のように「効率主義」を求めるものでなかった。このことを訴えるため行ったデモ活動のことを伝える価値があろう。
世界の耳目は12月上旬のブリュッセルの大示威運動に集中し、農産物自由化反対運動に点火していったのである。なにしろ当初2万人参加予定がふたを開けると10万人になっていた。なぜこのようなうねりになったのか。
中南米のウルグアイで始まったガットウルグアイラウンド(テーブル交渉)は4年間にわたり交渉が行われてきたが決着がつかなかった。どうするか。閣僚による政治決着しかない。だが農業で政治決断にあえば、日本のコメもついに自由化という場面も予想される。そこでこの場面を乗り越えるのに「座して待つか」それとも「迎え撃つか」。この時までなぜコメは自由化をまぬかれてきたのか。コメは自然の営みの一部であり、それ故聖なるものだという気分が残っていて、コメは貿易交渉外の聖域だったからである。しかも、コメは地勢的に日本列島の骨格作りに役立っている。それ故自由化からは手つかずの領域にしたい。今までは「座して待った」結果農産物は総自由化させられてきた。それでは駄目だ。そこで迎え撃つという空気が作られ、自由化反対のうねりが作られていったのである。具体的にうねりの山を作ったのはどこか。
第一に中央レベルとしては社会党議員団が中核になってコメ自由化反対運動に積極的に取り組んだことがあげられる。彼らは中央労農市民会議を母体にして国会議員に当選してきた人も多い。いわば社会党議員団と労農会議は姉妹関係でもある。しかし労農会議は組織力があり、日本からブリュッセルへの農業関係者総勢200人のうち半分近くを送り出している。
第二に地方もがんばった。その大半は農協だが、決して裕福でないのに訴えることがあったのだろう。私も彼らと同様カンパや署名を集めて歩いた。その中で見も知らないある一婦人は快くカンパに応じてくれ、ここにもうねりがあるなと思ったものである。
だがブリュッセルから日本に帰ったあとある人に署名を頼むと「今はもう自動車会社に勤めているので署名はできない」とにべもなかった。トヨタの売上高は30年前は9兆円。今は30兆円。これに対し農業関係の売上高は今も昔も9兆円。これでは農民運動も潮(うしお)のように消えてなくなるのも当然か?今のあまりの静けさは10万人デモも遺言のように思えてくる。だが遺言は時としてよみがえることもある。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
果樹産地消滅の恐れ 農家が20年で半減 担い手確保が急務 審議会で議論スタート2024年10月23日
-
【注意報】野菜、花き類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2024年10月23日
-
【クローズアップ】数字で見る米③ 委託販売と共同計算2024年10月23日
-
【クローズアップ】数字で見る米④ 委託販売と共同計算2024年10月23日
-
千葉県で高病原性鳥インフルエンザ 今シーズン国内2例目2024年10月23日
-
能登を救わずして地方創生なし 【小松泰信・地方の眼力】2024年10月23日
-
森から生まれた収益、森づくりに還元 J‐クレジット活用のリース、JA三井リース九州が第1号案件の契約交わす2024年10月23日
-
食品関連企業の海外展開に関するセミナー開催 関西発の取組を紹介 農水省2024年10月23日
-
ヒガシマル醤油「鍋つゆ」2本付き「はくさい鍋野菜セット」予約販売開始 JA全農兵庫2024年10月23日
-
JAタウン「サンゴ礁の島『喜界島』旅気分キャンペーン」開催2024年10月23日
-
明大菊池ゼミ・同志社大上田ゼミと合同でマーケ施策プロジェクト始動 マルトモ2024年10月23日
-
イネいもち病菌はポリアミンの産生を通じて放線菌の増殖を促進 東京理科大2024年10月23日
-
新米「あきたこまち」入り「なまはげ米袋」新発売 秋田県潟上市2024年10月23日
-
「持続可能な農泊モデル地域」創出へ 5つの農泊地域をモデル地域に選定 JTB総合研究所2024年10月23日
-
「BIOFACH JAPAN 2024」に出展 日本有機加工食品コンソーシアム2024年10月23日
-
廃棄摘果りんご100%使用「テキカカアップルソーダ」ホップテイスト新登場 もりやま園2024年10月23日
-
「温室効果ガス削減」「生物多様性保全」対応米に見える化ラベル表示開始 神明2024年10月23日
-
【人事異動】クボタ(11月1日付)2024年10月23日
-
店舗・宅配ともに前年超え 9月度供給高速報 日本生協連2024年10月23日
-
筑波大発スタートアップのエンドファイト シードラウンドで約1.5億円を資金調達2024年10月23日