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コラム:TPPから見える風景

【近藤康男「TPPに反対する人々の運動」世話人】

2019.07.11 
【近藤康男・TPPから見える風景】暴走・迷走?するトランプ・安倍両首脳の外交・通商一覧へ

◆トランプ大統領にとって外交の場は"制裁"、"戦争"だけなのか

 一連のトランプ政権による追加・制裁関税発動などを、「"異形の大統領"トランプ氏の仕掛けた7つの貿易戦争」と呼んできた。(1)TPP離脱、(2)韓米FTA/NAFTA再交渉、(3)通商拡大法232条・通商法301条発動、(4)米EU貿易交渉、(5)WTOでの提訴合戦、(6)米中貿易戦争、(7)日米貿易交渉だ。
 しかし、その後も移民対策のためのメキシコ制裁関税(合意により撤回)、勝手に核合意を離脱した挙句のイラン経済制裁、パレスチナへの一方的圧力(米国大使館のエルサレム移転、イスラエルのゴラン高原占領の承認、一方的なパレスチナ支援会議)など、制裁や脅しが続いている。
 "外交"という言葉を聞かなくなり、"制裁"、(安全保障を材料とする)"脅迫"による経済利益の要求(NATO、朝鮮半島、日米安保)、更には武力をも背景とした脅しだけが飛び交っている。
 国家間での大規模な軍事力の行使が躊躇されるこの時代、トランプ政権の行動は、昔であれば国家間の戦争にも匹敵するものと言えよう。

 

◆曖昧な立ち位置を続ける安倍政権

 "異形の大統領"の立ち居振る舞いは別として、米国はTPA法に基づき、22項目の対日本への要求も公表して交渉をしている。一方安倍政権は、その場しのぎのご都合主義的発言・弁明に終始し、相変わらず、"法治主義"ならぬ、立ち位置の無い"放置主義"を続けている。
 米国の追加・制裁関税の攻撃や軍事力を含む脅しを受けている国の大半は、毅然としてトランプ政権を批判し、WTO提訴したり、報復関税を課したりしている。米国と常に"親密で完全に一致"をしているのは唯一日本だけだろう。

 

◆国民の最大の政治的権利たる選挙まで日米交渉に売り渡す安倍政権の迷走

 第1回目の閣僚協議後4月26日の茂木担当相の"ぶら下がり記者会見"では、ある程度茂木氏の立ち位置が語られ、日米交渉の限界や問題点も伺えたものの、5月、6月と毎回の茂木氏と渋谷政策調整統括官による会見の全ては"言葉多くして何も語らず"に終わり、日本政府の主張・交渉目的は勿論、ほとんど何も伝わって来なくなっている。
 ※以下は、4~6月の一連の会合の政府ウェブサイト(TPP等政府対策本部)へのリンク
 他の国々と米国との鍔迫り合いは、報道は頻繁でないものの、当事国の論点・立ち位置は明確に伝わってくる。実に対照的だ。日本政府は語るべきものを持っていないのだろうか?
 更に悲しいのは、安倍首相の4月の首脳会談での発言として報道された「大統領選前にはちゃんと形にするから安心してほしい」(4月28日付日経)との言や、茂木氏の6月13日の「参院選後に早期に成果を出したいということで一致」などの発言だ。
 国民の審判を仰ぐ選挙を冒涜するものでしかない。

 
 
◆共同声明捏造ではないか? 安倍発言

 そして参院選が始まると、安部首相はTV討論番組で、("密約疑惑"に対して昨年9月の日米共同声明を踏まえ)交渉の入り口でしっかり枠をはめた」「外交的勝利だった」とまで発言している(7月5日付日経)。共同声明の第5項には「両国は他方の政府の立場を尊重する」としか書かれていないし、第3項~第5項を丁寧に読めば、"交渉分野、範囲は青天井"としか読みようがない。EUの対米立ち位置とは雲泥の差、「外交的敗北」としか言いようがない。
 ※昨年9月26日の日米共同声明へのリンク

 

◆自らまとめたG20首脳宣言の舌の根も乾かないうちに、トランプ流を見習う?

 安倍首相も汗をかいたG20首脳宣言の最初の部分は、「自由で公正、無差別的で透明、予見可能で安定した貿易環境となるよう努力し、開かれた市場を保っていく」とうたっている。しかしその翌々日の7月1日、日本政府が、韓国に対する日本製半導体素材の輸出規制の動きが報道された。
 政府は、禁輸でも制裁でもなく、輸出管理の点で信頼できる同盟国・友好国(27の"ホワイト国")への優遇的輸出手続きを、通常に戻しただけと説明しているが、そのやり方も、その影響するところも、トランプ流の制裁方式と同じだ。
 その結果はまず政治的亀裂を生み、、そして相手国企業に、暫くして自国の企業と消費者に、更に世界中(サプライチェ-ン・消費国)に、余計な資源・エネルギ-消費で地球環境に、そして最後は自国の産業競争力・輸出に跳ね返る。
 当初政府の説明には、「不適切な事案が発生」(経産省)「安全保障のための輸出管理制度の適切な運用に必要な見直し」(西村官房副長官)と具体性も明瞭さも無かった。安倍首相は7月7日のTV番組では、「(北朝鮮への横流しとの見方について)個別のことは差し控える」としたうえで徴用工問題にも触れつつ「国と国との約束が守れないことが明確になった。貿易管理も守れないと思うのは当然だ」と正当性を主張したとされる(7月8日付日経)。
 7月8日に韓国の文大統領の「協議・撤回を申し入れる。場合によっては対抗措置も」発言にも、世耕経産相・菅官房長官は「協議も撤回もしない」。世耕氏は首相発言そのままのツイ-トもしている。今回の措置は、生産・流通的には在庫期間が延びるという負担に留まる筈だ。しかし言われるような、戦略物資の違法な拡散防止という観点では、日本からの輸出以降の過程を急ぐあまり、管理もおろそかになりかねない。唐突な政治的制裁として日韓の亀裂が更に深まれば、猶更本来の管理の徹底は実現しにくくなる。
 報道される発言は断片的だが、この間続く一連の両国の軋轢が、今回の発言の感情的な背景としてあることは否めない。韓国政府の対応にも問題ありとしても、その深層にある、韓国社会に深く広がる、安倍首相を始めとする保守政治家の、"合意の度に繰り返される"歴史認識と人権への認識の欠如した発言への不信感は正当なものだ。このことに誠実に対応したうえで互いに向き合えば、解決は出来る筈だ。このままだと拉致問題への北朝鮮の態度後退も必至だ。
 日米貿易交渉には迷走のまま前のめりになる安倍政権だが、弱い国には気が付けばトランプ流をぶつけている。外交(音痴)の安倍と喧伝するのなら、戦略を持ちつつ、誠実で老練な外交・通商交渉をこそ求めたい。

 

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