【近藤康男・TPPから見える風景】グローバル化と通商協定の変化と日米交渉2020年3月19日
両国政府は発効4ヶ月以内に次の交渉分野を決めることとなっており、既に複数回の協議が行われたとのことだ(3月3日参院予算委茂木外相)。あらためて、少し長いスパンで日米交渉・協定を考えてみたい。
◆見えるモノの貿易から見えない金融・知財、さらにデータへ
戦後まもなくIMFとGATTが発足、米国主導とはいえ、国家により第2次世界大戦後の社会・経済の秩序が造られ、グローバル化が進む中で、1995年にWTOが発足した。モノの貿易の自由化を軸にしたグローバル化の中で国家により作られた通商協定と言える。
しかし、既にWTO発足に先行して金融・投資・サ-ビスの自由化と国際化という社会・経済秩序が進む中で、21世紀に向けてNAFTAやTPPなどの協定が後追い的に結ばれた。国家ではなくグローバル企業の要求を反映して作られた通商協定だ。
そして、GAFAやBATHなど巨大IT企業が広げたグローバル化の下ではTPPも時代遅れとなり、形のない領域に見えない方法で手を広げるデータ経済・デジタル経済を追認せざるを得なくなった。それがデジタル協定だ。
発効真近な米・カナダ・メキシコの新NAFTA、実質合意したシンガポ-ル・ニュージーランド・チリのデジタル経済パートナーシップ協定DEPA、そして日米デジタル貿易協定の時代に入った。今や企業では無形資産への投資が有形資産投資を上回ろうとしている。
※GAFA:グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン
BATH:バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ
◆日米貿易協定とデジタル貿易協定を急がせた選挙、米中摩擦、IT産業規制
その中で、日米交渉の出発点だった18年9月の日米共同声明にも無かったデジタル貿易協定が突然登場し、日米貿易協定と共に約6ヶ月間の交渉で決着し、本年1月1日に発効した。米大統領選が本格化する前に成果をうたいたいトランプ氏と、19年夏の参院選前には合意を公表したくなかった安倍首相の思惑の結果だ。
また、OECDでデジタル企業課税や最低税率の検討がされ、IT産業規制に積極的なEUや中国に遅れまいとの思惑も日米両国にはあっただろう。
そして、難題の米中第1段階合意(20年1月15日)をなんとか実現したいトランプ氏にとっては日米交渉の決着は急ぎたかった課題だった。
◆「対日交渉目的」22項目が軸の日米本格交渉にも大統領選、中国の影が
日本政府は、日米貿易協定で農産品は終わり、残る分野は「自動車・部品の関税撤廃」だけと繰り返している。しかし、決着を急いだその貿易協定には米国の意向を受け入れて「米国は農産品の特恵的待遇を追求する」と言う文言が入れられた。再選を意識するトランプ氏が最大の公約「貿易赤字削減、雇用・製造の拡大」を背景に、今後も農産品の市場開放を求めることは充分考えられる。「対日交渉目的」にはルール分野にも、農産品の非関税障壁排除、非遺伝子組み換えやゲノム編集の農産品輸出促進、日本の地理的表示食品保護による米国産品の輸出阻害の防止などの要求が載っている。
18年12月に日米交渉に向けて米国議会に送られた「対日交渉目的概要」22項目は、ほぼ全てがTPPの30章(分野)と過不足なく重なると共に、日米両政府の利害もかまり共通している。しかし、「為替」条項と、「一般規定」にある中国を暗示した「非市場経済国とのFTA交渉」を牽制する条項はTPPには含まれていない。投資や知財などでは中国を意識した内容が求められる可能性も否定できない。
トランプ氏は第2段階こそは本格交渉と考えているだろう。
(18年12月公表22項目の「対日交渉目的概要」はTPP+新NAFTA※下線はTPPと共通する分野)
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