ツマグロヨコバイ、ウンカ、ニカメイチュウ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第129回2020年12月17日
いうまでもないが、化学肥料を多く投入すると、稲の過繁茂、弱体化、病気や虫の発生、倒伏などの悪影響が出てくる。とくにそれは冷害などの年に発現しやすい。こうした悪影響が出ない品種、つまり多肥で収量が増加する品種、耐肥耐病性品種、さらに耐冷性品種が求められる。試験研究機関はその開発に取り組んだ。
東北南部におけるその成果の一つがササシグレだった。さらにこの血統を引くササニシキはそうした多肥多収の性質をより強くもっていたので普及したのである。
しかし、こうした品種も病害虫の発生、雑草繁茂に打ち克つことはできない。そこに登場してきたのが殺虫剤、殺菌剤、除草剤等の化学農薬だった。
まず、そのうちの害虫と殺虫剤についてその昔を振り返ってみよう。
前に、誘蛾灯を田んぼの中に設置し、そこに集まってくる害虫を退治しようとしたという話をしたが、虫は家の中の電灯にも集まってきた。今のようにクーラーや扇風機のない時代、暑さを避けるために夜になっても戸や窓、縁側をすべて開け放しておかなけばならなかったので、入ってくることができるのである。私の生家にも当然多くの虫が飛んできた。カブトムシやコガネムシが入ってくると私たち子どもは大喜び、すぐに捕まえて虫かご入りだ。大小さまざまのガが入ってきて鱗粉を撒き散らす。これがいやで大嫌いだった。たまにはタガメまで飛んでくる。多かったのはツマグロヨコバイ、ウンカ、ニカメイガ(ニカメイチュウの成虫の蛾のことを言うが、一般には成虫・幼虫ともにニカメイチュウもしくはメイチュウと言っていたので、以下そう呼ぶことにする)だった。これらは稲の害虫であり、ツマグロヨコバイ、ウンカは稲の養液を吸収、稲の伝染病を媒介し、幼虫時代のニカメイチュウは稲の葉鞘や茎の内壁を食い荒らして米の収量を大きく減らす。
とくに多かったのが体長5ミリ程度の緑色をしたツマグロヨコバイだった。これはそれなりにかわいく、横に這って歩いたり、跳ねたりして面白い。それで捕まえてコクゾウムシみたいに跳びはねたりしないか試してみるなどして遊んだものだった。しかしあまりにも量が多いのですぐあきてしまう。
ウンカはセミとバッタの中間のような姿の5ミリ程度の小さな虫だが、遊びの対象にはならない。
ニカメイチュウなどはなおのことだった。体長2~3センチの小さな蛾で、鱗粉をまき散らしはしないが、おつゆの中に飛び込んだりするものだから嫌われ者だった。しかもそれは稲の大害虫である。何しろ稲の生育期間中2回も産卵して2回も稲の茎葉を食い荒らすのだからたまったものではない。この2回も発生することから「二化螟虫」と名付けられたのである。
私の生家は田んぼから2~300メートルも離れているのにこうした虫が大量に電灯の下に群がった。市街地のなかの街灯にもさまざまな虫が群がり集まり、朝になるとその死骸が電柱のまわりに積もっていた。
このことはいかに多く発生し、稲にいかに大きな被害を与えているかを示すものだった。
とくにこの被害が大きかったのが九州などの南国だった。何しろウンカは中国南部やベトナムから海を越えて飛来してくるもの、東北などとはその発生量が違う。まさに「雲霞(うんか)の如く群がる」で、江戸時代に飢饉を引き起こしたことすらあったという。
またメイチュウの場合は、暖かい九州では3回も発生して被害を与える(だから「三化螟虫」ともよばれた)。このメイチュウの害を軽減するために田植えを晩くした。3回も発生しないようにするのである。これで虫の害は軽減できるが、そうすると台風の被害をまともに受ける。台風の被害を避けるためには早く植えて早く収穫した方がいいが、そうするとメイチュウなど虫の害がひどい。ここに九州の稲作の悩みがあった。
もちろん九州ばかりではない。程度の問題だけで全国どこの地方でも大きな被害を受けた。そこで、戦後すぐに設置されたのが前に述べた誘蛾灯だった(注)。虫が電灯の光が好きという習性をもっていることを利用したのである。しかし解決は難しかった。
(注) JAcomコラム・2020年6月25日掲載・拙稿「保温折衷苗代と誘蛾灯」参照
重要な記事
最新の記事
-
米の作況指数の公表廃止 実態にあった収量把握へ 小泉農相表明2025年6月16日
-
【農協時論】米騒動の始末 "瑞穂の国"守る情報発信不可欠 今尾和實・協同組合懇話会委員(前代表)2025年6月16日
-
全農 備蓄米 出荷済み16万5000t 進度率56%2025年6月16日
-
「農村破壊の政治、転換を」 新潟で「百姓一揆」デモ 雨ついて農家ら220人2025年6月16日
-
つながる!消費者と生産者 7月21日、浜松で「令和の百姓一揆」 トラクターで行進2025年6月16日
-
【人事異動】農水省(6月16日付)2025年6月16日
-
3-R循環野菜、広島県産野菜のマルシェでプレゼント 第3回ひろしまの旬を楽しむ野菜市~ベジミル測定~ JA全農ひろしま2025年6月16日
-
秋田県産青果物をPRする令和7年度「あきたフレッシュ大使」3人が決定 JA全農あきた2025年6月16日
-
JA全農ひろしまと広島大学の共同研究 田植え直後のメタンガス排出量調査を実施2025年6月16日
-
生協ひろしま×JA全農ひろしま 協働の米づくり活動、三原市高坂町で田植え2025年6月16日
-
JA職員のフードドライブ活動で(一社)フードバンクあきたに寄贈 JA全農あきた2025年6月16日
-
【地域を診る】「平成の大合併」の傷跡深く 過疎化進み自治体弱体化 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年6月16日
-
いちじく「博多とよみつひめ」特別価格で予約受付中 JAタウン2025年6月16日
-
日本生協連とコープ共済連がともに初の女性トップ、新井新会長と笹川新理事長を選任2025年6月16日
-
【役員人事】日本コープ共済生活協同組合連合会 新理事長に笹川博子氏(6月13日付)2025年6月16日
-
【役員人事】2027年国際園芸博覧会協会 新会長に筒井義信氏(6月18日付)2025年6月16日
-
農業分野で世界初のJCMクレジット発行へ前進 ヤンマー2025年6月16日
-
(一社)日本植物防疫協会 第14回総会開く2025年6月16日
-
農業にインパクト投資を アンドパブリックと実証実験で提携 AGRIST2025年6月16日
-
鳥取・道の駅ほうじょう「2025大大大スイカフェスティバル」22日まで開催中2025年6月16日