【熊野孝文・米マーケット情報】コメの検査を1日4000俵行うという集荷業者2021年11月30日
先週末、関東の早場地区のコメの集荷業者が集まって令和4年産に向けての対応策を検討する会合が開催された。休憩時間中にコメの検査が話題になった。出席者の一人が「1日で4000俵検査する」と言ったのに対して、別の集荷業者が「4000俵なんて無理。自分が実際にやった俵数の最高は2800俵」、さらに別の業者は「1日1000俵もやったらくたくたになっちゃうよ」と言っていた。
4年産米から検査制度が大きく変わる。最大の変化は、これまでコメの検査は人間の目視によることが大原則であったが、4年産から機械による検査も可能になることである。
コメの検査規格は専門的な事柄が多いのでわかりづらい話になってしまうのをご容赦願いたいが、今後、将来に向けてコメの流通が大きく変わる要素を秘めているのでお付き合いいただきたい。
これまでの人間の目視による検査規格では、等級格付けをする場合、最低限度として整粒と形質が定められている。整粒の規格は1等70%、2等60%、3等45%になっている。形質はそれぞれの等級にふさわしい形質(見た目)を備えていなければならない。機械検査では画像解析機能は格段に進歩したものの、形質といったデータで表せない抽象的な概念やそもそも整粒とは何ぞやといった問いには答えられない。機械で整粒を判別する場合、被害粒、死米、着色粒、異種穀粒および異物を除いたものになってしまうが、整粒そのものの定義は機械では出来ない。それに代わる最低限度として容積重が機械検査の規格基準として示されることになった。
容積重を計測する機器は、ブラウエル穀粒計と電気式穀粒計の二つがある。この精度を確認するために20産地品種の検査米1,2,3等を測定した結果、平均値でブラウエル穀粒計が820.4g、電気式穀粒計が819.1gで、技術検討チーム全員から「十分な測定精度を確保できている」というお墨付きを得たので、容積重の測定はこれらの測定器で行えることになった。ただし、容積重を測定したものを目視検査と同じ等級を打つわけではない。
機械検査ではあくまでの測定値のデータを示すだけなのだが、これではわかりづらいので農水省は年明けにも目視検査と整合性を持たせるために基準値を示すことにしている。
その基準がどうなるのかは農水省の判断次第だが、昔あった容積重の最低限度は1等が810g、2等790g、3等770gになっている。
昔の規格基準をそのまま機械検査の基準にするとは思えないが、1リットル当たりのコメの容積重が重い方が等級基準の上位にランクされることになる。それは当たり前だろうと思われるかもしれないが、時間のある方は農水省が行ったブラウエル穀粒計と電気式穀粒計の結果をよく見て頂きたい。20産地品種ある中で、N産地e品種は3等でも容積重が844gもあり、他産地品種の1等より値が高いのである。
新品種を品種登録する際に必ず千粒重が書きこまれる。1000粒当たりの重量のことだが、品種によって大きな差があり一般的な品種に比べ10g以上重い品種さえある。こうした品種そのものの特性があるためこうした結果が出て来るのだが、ではなぜ機械検査の等級格を決めるために容積重という項目を入れたのかと言う疑問が残る。それは一般的に玄米の容積重が重い方が精米歩留りが高いからである。特定米穀業界でいまだに「匁(もんめ)」取引が重視されるのもそのためで、340匁のくず米と380匁のくず米では大きな価格差が付く。
精米した段階の価値基準を決めるために容積重の測定値を入れたと言えば分かり易いが、それだけではない。機械検査のコメの測定にはもっと大きな狙いがあり、そのことはスマートオコメチェーン構築のために必要不可欠になっているからである。
スマートオコメチェーンはコメを品位だけでなく成分等まで含めてデータ化してそれで取引できるようにするという将来像を描いている。データ化により、日本米の履歴を担保すると同時に機能性等の価値を付加して海外マーケットに打って出ようという遠大な構想がある。コメの品位をデータ化することによって国内での取引手法を革命的に変え、かつデータそのものに価値を持たせ、海外マーケットでも差別化を図るという意図は分かる。
しかし、本来の農産物検査制度改正の目的であった検査制度を簡略化して競争力を持つようにするという点とどう整合性を持たせるのか?
機械検査で等級の目安基準を作るために容積重を計測しなければならなくなると検査現場では新たな仕事が増える。現場の検査官から「1000俵も出来ないよ」と言われたら本末転倒になってしまう。
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