高齢組合員への感謝を伝える努力をしよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年2月14日
4割弱の80歳以上の正組合員が4割強の出資金・貯金残高
「年配のみなさんが、夫婦で、ご近所の人たちとゲートボールに興じている姿を見ると、嬉しくなります。組合長をしていて、ホッとする瞬間です」
東北地方のJAのコンサルで、営農施設を巡回していたとき、ゲートボールを愉しんでいる農家のみなさんの光景に、組合長がボソッと話されたことだ。戦争を挟んで、大変な苦労をした世代で、限られた田畑で、精一杯努力して農業を続けてきた人たちだという。ゲートボール全盛時代の話である。
中国で人口が減少に転じ、日本を追って少子高齢化社会へ。中国で高齢化が急速に進んでいるという。だが、日本との違いは「未富先老」で、暮らしが豊かになる前に老いてしまう、というものだ。「未富先老」の文字を眺めながら、先の東北の組合長の話を思い出した。あの時、組合員のみなさんへの慰労と感謝の気持ちが伝わってきた。
そして、数年前の話である。地方都市のJAの依頼を受けて、管内地域を巡回していたとき、農村地帯の支店で、組合員に関するデータに目を通していて、数字が間違いではないか、と職員に質問した。私がお願いして作成してもらった資料である。
お願いしたのは、支店別に、正組合員の年齢別構成、出資金割合、貯金残高割合などの数値である。とくに、高齢組合員については、51~65歳、66~70歳、71~75歳、76~80歳、80歳以上で、データをまとめてもらった。65歳以下は15歳刻みだが、以上は5歳刻みである。
目に留まったのは、この支店の80歳上の正組合員の年齢構成割合は37%であったことだ。「この数字、間違いないの?」の私の質問に、企画担当の職員は驚くこともなく「間違いないですよ」と平然と答えてくれた。そして、この80歳以上の正組合員のみなさんの出資金は、支店全体の45%近くであり、貯金残高に占める割合もほぼ同じ数値なのだ。職員にとっては、当たり前の数値で、驚くこともない、ということか。
「生涯取引」で、もっともJA経営に貢献してくれた高齢組合員
最近のシニアスポーツの主流は、グラウンド・ゴルフに変わったという。都市では、フィットネスクラブ。いかにも、個人主義的な楽しみ方に変化している、ということか。これは、学生時代や若い世代に楽しんだ多様なスポーツが影響しているのだろう。
では、日本発祥の誇れるスポーツ、ゲートボールはどうしたのだろうか。農村では、いまもゲートボールに興ずる人たちの光景を見ることができるのだろうか。昨年も車での移動中、北陸でも北関東でも目にしている。でも、調べてみると、ゲートボール人口は、全盛期の20年ほど前が700万人だったが、現在は5分の1の120万人だという。
JAも合併して大きくなり、高齢の正組合員の存在に対しては、どんな対応をしているのだろう。80歳以上の正組合員、ご夫婦に対して、どんな感謝の言葉を伝え、どんな姿や光景に、JAの役職員は安堵し、組合員の人生に寄り添えたことに「JAのささやかな貢献」を感じているのだろうか。
近年のサービスビジネスのなかで、頻繁に使用される言葉の一つに、LTVがある。Life Time Value=ライフ・タイム・バリュー 直訳すれば、「生涯価値」である。
このLTVは"えげつないワード"なので、JAのコンサルでは、遠慮しながら使ってきた。あまり強調しすぎると、役職員のなかには、顔を曇らす人がいたからだ。生涯を通じて、お取引いただくことで、生涯を通じてお客様から頂戴する「利益」=LTVをいかに増やすか、大切なことは、長くお付き合いし、長く収益をいただく、という意味である。
そこで私は、このLTVを、「生涯取引」「長~いお付き合い」という言葉に替えて、これこそが協同組織の特徴で、地域社会を舞台に活動するJA事業の大きな特性である、と役職員に説明してきた。だから、貯金残高や長期共済保有の数字だけで満足するな、大切なことは、事業の利用度、総合事業併用度、販売金額に対する経済事業利用度、家族の利用度など、金額ではない、「%」の目標を考えよう。この「%」は、生涯取引度の大事な指標になると考えたからである。
だから、80歳代の正組合員であれば、おそらくは50年、いや60年もの間、JAを頼りにし、JA職員の話に耳を傾け、腹のなかでは納得できない貯金や共済の推進でも判子を押してくれたのではないだろうか。それが、何十年もの間のJAの収益の源泉となり、数多くの職員の給与に変わっていったのである。
ひょっとしたら、80歳以上の正組合員は、「あとは、葬祭事業を利用してもらう」存在になっているのではないか、そんな心配がよぎる。杞憂であればよいが。
長くこよなくJAを愛してくれた組合員に対して、そんなJAだったとしたら、民間の企業と変わらない組織ではないか。
生涯を通じて、JAをご利用いただいた高齢組合員のみなさんに、感謝の気持ちを伝えてほしい。
◇
本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)よりご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日