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日本経営品質賞を受賞した「生協」に学ぼう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年6月20日

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「顧客満足度」「経営品質の向上」と経営の変革へ

A・ライフ・デザイン研究所 代表 伊藤喜代次

1987年に創設されたアメリカの「マルコム・ボルドリッジ国家経営品質賞」(MB賞)創設から8年後、1995年(平成7年)に創設された日本版MB賞が「日本経営品質賞」。

この賞が創設されて27年になるが、受賞した協同組合は唯一、福井県民生協だけ。今回は、長い間、お世話になった同生協から学んだ大切なポイントを考える。

何回も書くが、協同組合は組合員による組合員のための組織で、地域社会への経済的社会的な貢献も理念に掲げている。なので、組合員満足度が高く、非営利組織であるため、経営的に困難な問題は少なく、経営品質も高いはず、と考えるのが一般的である。なのに、評価されない経営になっているのは、なぜか。

あまり批判めいた話はしたくないが、JAの経営論や経営管理手法が、一般のビジネス経営論とかけ離れていて、しかも固定的。せいぜい事例研究で情報交流するだけで、新たな論理を創造するわけではない。「組合員満足」とか「JAの経営品質」という言葉さえ、目耳にすることが少ないのがJA界である。

JAの指導組織や監督官庁は、いまだにJAの経営は特殊だ、と考えているのではないか。監査・検査でも、重箱の隅をつつくような過去の管理・実績だけを対象とせず、事業や経営に対する経営者・管理者の不勉強や将来へのビジョン、長期計画の策定の必要などをきびしく指摘し、提案すべきではないか。

JAの経営管理手法は旧態のままである。JAの総代会資料の機構図を見てほしい。昭和の時代からの縦割りで、部・課の構成にほとんど変化がない。失われた30年はJAにも現存している。指導機関も行政も一緒に現状打破に取り組んでほしいと願う。

事業・収益目標より「組合員満足と利用度」「経営品質」を優先

さて、福井県民生協の顧客満足、経営品質の向上への取組みだが、JAの事業経営に多くの示唆を与えてくれる。そのなかで、私にとっても印象的な取組みケースを紹介したい。JAも研究し、数値化して実践してほしい。

同生協が、2000年代に入り、事業の伸びが鈍化、マイナスとなり、事業利益の減少が続いた。組織内部では、どうしても実績や数値目標に偏った経営管理が行われる。そこで、外部の意見を聞き、経営方針を転換、「経営品質の向上」を目標に据える。

経営の永続的な成長こそが経営の本来の目的であるなら、「収益性の安定確保」が最重要ではなく、成長の経営を保証するものでもない。重要な要素は「経営品質の向上」で、そのためには、①組合員の満足度向上と利用度向上、②地域社会の評価向上と社会貢献、③従業員満足、④経営バランスなど、経営品質を構成する要素について、目標理念と数値目標の明確化が必要だと考え方を転換したのである。

福井県民生協は、組合員の満足度の向上、利用度を高めることとし、これに対応するマーケティング戦略の実践で、これまでの事業戦略を見直した。もっともわかりやすい取組みは「組合員統合データベース」。組合員の事業利用やサービスの利用状況が一元的に数値を把握できるとともに、組合員の声や運営参加状況、生協活動への参加のデータなど、組合員の情報管理ができるようにしたことである。

同時に「コールセンター」を創設、事業ネットワークの強化拠点を整備し、組合員対応・問合せ窓口機能の一本化、情報発信の窓口機能を整備した。

組合員の「事業利用度」分析から生協事業の基本戦略を転換

同生協は、共同購入、店舗、共済、子育て支援、高齢者福祉の5つの事業を行っていたが、システム開発によって組合員の個別の事業利用状況が把握でき、迅速で適切な個別提案により、利用度をさらに高める展開を可能にした。

さらに、このシステムは、生協の重要課題の解決に結びつく。悩ましい課題は、5つの事業が縦割りで運営され、この打破が課題であった。これを組合員の視点で、5事業をネットワーク化し、組合員と経営からみた事業の合理性と効率化で実績を高め、組合員の利用拡大を促し、職員間の壁を取り除くという解決の道を得たのである。

私がこの生協の取組みから学んだのは、組合員の事業別の利用状況がデータで把握できたことで、大きな発見があった。当時、地域生協は店舗供給が拡大し、それにともなって共同購入が減少する、なかには、共同購入を止める生協も見られたことである。福井県民生協もその方向で、店舗建設を進めていた。

ところが、である。組合員の個別の利用データを確認していくと、共同購入の利用金額、数量、機会が多い組合員ほど、店舗の利用金額、回数も多いという、想定外の"神データ"に気づいたのである。「組合員満足」がもっとも重要だ、と。店舗拡大で共同購入は減退するという考え方は間違いであることに気づき、組合員のセグメントとアプローチの内容を見直し、各事業の強化と連携・一体化へとネットワーク論を展開した。

その結果は、組合員の5つの事業利用を増加させ、事業高の増蒿、収益の拡大を実現するとともに、同生協の福井県内の組合員世帯費率を52%へと高めたのである。

組合員満足と経営品質の向上を優先させ、事業の伸長、収益の確保を二の次にした同生協の戦略が高い評価を受けることになったのは、当然である。

15年も前の取組みだが、何度も同生協を訪ね、理事長の熱い思いとともに、組合員満足と利用度向上策、厳しい経営状況を打破するための経営品質の向上優先、マーケティング戦略の構築に向けたシステム開発、限られた経営資源についてポイントを絞って展開した経営者の英断は素晴らしいのひとことである。

同生協は、指導や相談する上部団体はなく、経営コンサルも採用していない。それで、日本経営品質賞というビジネス界の最高賞の受賞である。

本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)より、『コラム名』を添えてご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。

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