【JCA週報】 書評 笹尾俊明著『循環経済入門-廃棄物から考える新しい経済』2023年 (岩波書店)(田中 夏子)2024年4月1日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 山野徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫 日本生協連代表会長)が協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、本機構の協同組合研究紙「にじ」の2024年号春号に寄稿いただいた書評の冒頭部分です。
書評 笹尾俊明著『循環経済入門-廃棄物から考える新しい経済』2023年 (岩波書店)
評者 田中夏子 農・協同組合研究者
◆はじめに~「捨てる」は終着点でなく出発点
もう20年以上前になる。長野県で、中信地区のごみ処分場(焼却及び最終埋め立て)の必要が行政によって喧伝され、「処分場はあと〇年でいっぱいになります」という出だしで、「あなたは処分場の新設が必要だと思いますか?」というアンケートが実施される等、廃棄物処理をめぐる議論が湧きたった。上記のアンケートは誘導的で、しかもそこには「今のペースで廃棄物を排出するならば...」という前提条件が隠されており、二重三重に問題のあるアンケートで、処理施設建設は、行政とすれば既定路線であることがうかがえた。
しかし施設建設は、総論賛成・各論反対(いわゆるNIMBY問題)で、建設場所をどこにするかについては、紛糾することが明白だった。当時、日本各地では、市民参加による熟議と合意形成が模索され始めた時期で、長野県もこの手法を取り入れながら、立地問題に対応するとし、県内で議論に参加する委員が公募となった。
評者は、病院のビルメンの仕事経験から「廃棄物」への関心を持っていたため、これに応募し、「(長野県)中信地区・廃棄物処理施設検討委員会」(委員長・原科幸彦氏)のメンバーとなった。委員会には、実に多様な利害関係者が集った。処理施設等建設反対運動者、自然保護活動家、生態学研究者、アセスメント研究者、自治体首長、リサイクル活動を行う住民、廃棄物処理事業者、農業協同組合、廃棄物問題研究者、商工関係者...。
初回から、意見がぶつかり合い、緊張感ある議論が展開した結果、「〇年でいっぱい」「施設建設ありき」等の前提は一回白紙とし、まずはゴミの減量やリサイクルを徹底的に追求すること、最大限その努力をした上で、なお、施設処理を要する最終処分量がどれぐらいかを算定し、減量された量に見合う施設の規模と立地を検討する等の方針が出された。
「どこに作るか」という議論ではなく、「果たして作る必要があるのか」「作らないための努力(再利用や減量)がどこまで可能なのか」という前提から出発した議論を通じて、筆者も、循環型社会へのシフトチェンジの必要性を痛感した
本書の第1章には、処分場の残余年数1990年代初頭と比較して2021年には、一般廃棄物では7.8年から23.5年に、産業廃棄物に至っては、2.3年から19.7年にまで延命したとあり、当時、もし危機感に煽られるままに処分場を建設していたら、大変な状況になっていたのではないかと推察すると同時に、この間、循環が、制度的にも技術的にもいかに進んできたか見て取れよう。
そんな経緯もあって、本書の副題「廃棄物から考える新しい経済」に惹かれた。廃棄物処理というと、「コスト」「経済的な負荷」とされる傾向が濃厚だが、廃棄物が経済的循環の中に位置付けられ得ること、またそのためには、生産・流通や、私たちの消費・暮らしのあり方に大きな変更が求められることが、一部の優良事例に留まることなく、社会構造全体の問題として示されている点が本書の特徴だ。
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