30年目を迎えたパルシステムの予約登録米【熊野孝文・米マーケット情報】2024年7月16日
パルシステム生協が取り組んでいる予約登録米制度が2025年産米の予約で30年目を迎えた。この予約登録米制度は、その年のコメが収穫される前の田植え時期に消費者会員に事前に1年分のコメを購入予約してもらうという制度で、1993年のコメの大凶作を契機に1995年に開始された。開始当時は2000t程度の購入契約数量であったが現在では1万6000tを超え、世帯数では20万世帯が利用するまでになっており、同生協の重要な事業になっている
パルシステム生協によるとこの制度がスタートした当初はさまざまな問題があったという。もともと同生協は"産直"を謳って伸びてきた生協で、消費者会員の意識の中には「購入することによって生産者を支える」と思いがあった。ところが1993年のコメ不足で、新たに一般の人からも注文が殺到したため、従来購入し続けた消費者組合員から「一時的に避難してきた一般の人と我々が同じ条件で購入しなければならないのか」という意見が出て、生産者も含めて議論して事前購入を基本とした予約登録米という制度が出来たのだが、そのための情報システムを作るのに1年かかった。
当時の議論として、バブルの余韻もあってか生協の中には「市場を介して調達して届けた方が良いだろう」という主張もあった。これは農林水産業の持続的発展のためには市場に出してもらい、そこで価格を決めて調達すべきという考え方。しかし、パルシステム生協の考えは「食べ物というのは人と人の信頼とつながりの上で成り立っている」というもので、供給者側の生産者を市場調達で変更するという考えには賛同しかねるという意見が強かったという。ただし、まだ生産されていないコメを1年先まで事前購入するという仕組みづくりには困難が伴った。それまでは翌週使うものを前の週に注文することが基本で、同生協の中にも「生活スタイルがそうなっているのだからわざわざ1年先まで注文を取ることはないだろう」という意見もあった。
さらに生産者側も作付け前に数量を確定しなければならなかったことから、生協側から生産されたものの中から予約登録米に回すという方法が提案された。このため当時は今よりも予約登録米の購入予約の受付が早く行われた。
現在はコンスタントに20万世帯がりようするようになり「ここからいろんなドラマが生まれた」という。例えば子育て世代からは「子供を連れて5kgのコメを買いに行くのは大変だが、決まったときにコメが届くので助かる」と言った声や「震災の時でも契約米だけは毎回届く、コメが玄関に置いてあるだけで涙が出て来る」といったものや今年は「シラタ米をみんなで買って支えようという」言う声まであったという。驚くべきはリピーターの割合が80%もあることで、制度が定着して産地の生産計画にも好影響が出ている。これには同生協の中に品目別に「生産者・消費者協議会団体」という組織があり、この中のコメ部会で議論を交わし、予約登録米産地が定着していったという流れもある。
6年産米の予約状況は、登録した世帯数が20万5056世帯(前年比102.4%)、購入点数が29万5482点(同99.8%)、精米重量換算1万6867t(同99.9%)になっている。事前予約できる産地銘柄は、青森県の銘柄が変わった以外は昨年と同様で、傾向としては有機米の注文が増えたことで、宮城ひとめぼれが106%、山形つやひめ101%、有機のお任せ米100%となっている。パルシステムと取引している有機野菜や有機米の生産者は579人で、有機認証面積は2595haになっている。この面積は国内で生産されている有機農産物の15.7%を占めている。
また、昨年から「お米で超えていく」という名称でコメ消費拡大のキャンペーンを行っており、予約登録米の推進のほか、パルシステムごはん部会でコメを中心とした食生活の推進、自分らしくお米を食べると題してコメ加工食品を産直で届けている。この中には焼きおにぎりをバーガー型にして国産牛肉を挟んだ冷凍食品があり、これがヒット商品になっている。この他、コメ作りを身近に感じてもらうため苗植え実習や脱穀・籾摺り実習の出前授業まで行っている。コメの扱い高はトータルで2万5313t、金額ベースでは101億円にもなる。
ただ、6年産の予約登録米は大きな課題に直面している。それは価格問題で消費者会員に購入申し込みを募る際には参考価格として5年産米の価格を表示しているが、現状ではこの価格では6年産米を購入することは出来ない。正式な価格は9月に決まるが、その時の生産者・消費者の対応の在り方によりこの制度の真価が問われることになりそうだ。
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