【最終回】補遺としてこの10年間を振り返る【近藤康男・TPPから見える風景】2024年12月12日
TPP12 の大筋合意を前に、農協協会から依頼されたのがきっかけで始まった「TPPから見える風景」の寄稿、第一回目は2016年10月6日付だった。その後、日本が交渉に参加国したTPP12以降の多国間経済連携協定について、事実と一次資料を基に、分析と批判を中心とした小論の寄稿を続けた。更に直近の3回の寄稿では、私自身が参加した、国内外の市
民による反対運動についても紹介させていただいた。今回は、これまでの約10年間の、経済連携協定と国際秩序の変化について、振り返ってみたい。
日本が加わる経済連携協定を一覧する
下記の表は、92号(2024年2月)でも紹介したものに、その後の推移を加えた日本の加わる経済連携協定の表だ。
※ 外務省ウェブサイト:「我が国の経済連携協定等の取り組み」のURL参照(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/)
※多国間経済連携協定及び主要国(日米・日英)との協定
2国間経済連携協定から多国間経済連携へ、そして予感される米中対立
2000年代初頭の経済連携協定は、上の表にあるように2国間が中心で、かつ新興国との貿易協定が中心だった。その後2008年12月発効のASEANとの経済連携協定を皮切りに、多国間経済連携協定中心となり、4分野中3分野で2024年10月までに発効したIPEF(インド太平洋経済枠組み)には、インドを含め14ヶ国が参加している。IPEFは、米国政府が2022年2月に発表した、表紙を含む英文19ページのINDO-PACUFIC STRATEGY(インド太平洋戦略)を受けたものと理解している。
INDO-PACUFIC STRATEGYは、経済に関する部分は総論的な内容に終始し、軍備の再編とアジア・太平洋への再配置、そして中国に関する記載だけが妙に具体的だ。そして、中国という国名は、冒頭の3ページだけで12回も登場している。
また、2022年9月には日経新聞の取材に対してUSTR代表は、文書の中のアクションプランについては「3年以内に成果を」と発言している。そして、IPEFの4分野についても上述の「インド太平洋戦略」の文書で網羅されている。「インド太平洋戦略」はIPEFへと繋がる文書と見てよいだろう。
そして、すぐに気が付くのは、日本の参加する多国間・2国間の経済連携協定には、RCEPと、("交渉中"、のままの)日中韓FTAを除くと中国が参加していないことだ。
米国ホワイトハウスのURL 参照(https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/02/U.S.-Indo-Pacific-Strategy.pdf)
経済安保に乗っ取られる経済連携協定(供給網)、曖昧な条項の目立つIPEF"公正な経済協定"と"クリ-ンな経済協定"
IPEF(繁栄するインド太平洋経済枠組み)は2024年10月迄に「貿易分野」を除く「供給網」、「クリ-ンな経済」、「公正な経済」の3分野で発効した。
先行して2024年2月に発効した"供給網協定"の条文に目を通すと、第10条「重要分野又は重要物品の特定」、第11条「サプライチェーンの脆弱性に対する監視及び対処」、第12条「サプライチェーン途絶への対応」など、その内容は、既に公布済みの、日本の「経済安全保障推進法」(2022年5月公布)にピッタリ重なっている。2023年11月16日のIPEF首脳会議共同声明では経済安保の一環として「重要鉱物対話」が創設され、エネルギ-や技術等の分野での同様の枠組創設も確認された(ジェトロビジネス短信2023年11月21日版)。
一方で61ページの"IPEF公正な経済協定"は、冒頭の文章を始め、"認識・考慮・支援・協力・希望・努める"などの実効性に欠ける表現で結語が終わる条項が目立っている。
また、72ページの"IPEFクリ-ンな経済協定"でも、目立つのは、"認識する、意図を有する"といった結びで終わる表現だ。
つまり、最も新しくかつ最も参加国の多いIPEFでは、供給網という、"経済安全保障と親和性の高い分野"において実効性の高い協定となっている点が特徴と言えるように思われるのだ。(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ipef.html)
多国間経済連携から3極化・陣取り合戦への流れと経済安全保障
紛争拡大・国際的な緊張と共に、国際秩序の枠組みは、日米欧、所謂"権威主義"とされる国々、そして"グローバル・サウス"と呼ばれる国々など、と括られて表現されるようになってきた。
イスラエルのガザ侵略の拡大により派生した、紅海での米英主導の共同軍事行動に参加する国について言及された"有志国"、重要・希少資源などの供給網などを、友好国と共同で構築する"フレンドシェアリング"などは、供給網と経済安全保障概念とが結びついた典型的な事例だろう。
経済制裁を含む分断・対立、更には経済安保への過度の拘りは、ともすれば政治的・軍事的摩擦を生じさせかねない一方、経済的効果は限定的だ。対露制裁を試みたEUのエネルギ-供給のロシアからの転換、航海経由から喜望峰経由に転換した欧州からアジアへの航路などは典型的と言えるだろう。
第一次トランプ政権やそれを受け継いだバイデン政権対中制裁関税も、今はメキシコ経由の中国製品の米国流入の増加という限界を呈している。
経済連携協定はある意味では経済安保に乗っ取られ、一方では、日米欧と中露の溝が拡大する中で、中国を含むと既に世界貿易の7割に関与し(出所:国連貿易開発会議)、21世紀半ばにはGDPで米国や中国を超えるともみられる(三菱総研:2024年1月22日付日経新聞)グロ-バルサウスの存在が大きくなりつつある。
しかし、これらのことは、対立的事項として捉えられているが、国際秩序の枠組みとしての大きな構造的変化に繋がり得るとは意識されていないように思われる。ここに"危うさ"を感じる。既に思考の奥底にトランプ氏の"ディ-ル"意識が刷り込まれてはいないだろうか??
日本も経済安全保障推進法の時代へ
IPEF立ち上げより早く、日本も2021年10月に経済安全保障担当大臣が置かれ、同推進会議・同有識者会議が設置された。そして、2022年5月「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)が成立・公布されている。①重要物資の安定供給の確保、②基幹インフラ役務の提供確保、③先端的な重要技術の開発支援、④特許出願の非公開、の4つの内容から成り、公布後6ヶ月~2年以内に段階的に施行されることとされた。
"TPPの問題は地域を破壊し疲弊させることだ"、という問題意識で反対運動に取り組んだが、残念ながら日本社会の構造もその通りとなっている。
更には戦争・紛争拡大の臭い
ロシアによるウクライナ侵略、イスラエルによるガザの破壊・パレスチナ人の殺害と追放、武装した非国家勢力の紛争への関与、そして到頭"北朝鮮のウクライナ侵略への派兵によるロシアへの加担、スーダン・シリアなどでの紛争拡大等々に加え、欧州での極右台頭、米国であまり聞こえなくなったかのような民主党左派や若者の声、"トランプ党"になりつつある米国共和党など、分断が深刻となっている。そして日本でも保守化が進みつつある。
2023年9月24日の国連総会演説で、イスラエルの首相は、パレスチナ全体をイスラエルが支配する地図を掲げた。
最後に‥‥ここ2年程メディアで目立つ言葉・表現に見る違和感??危うさ??
日米合同軍事訓練、外務・防衛の2+2、供給網確保、抑止力、有事、〇〇事態(武力攻撃予測事態⇒武力攻撃事態⇒緊急対処事態)、安保3文書(22年12月に岸田内閣の国家安全保障会議及び閣議で決定=国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画では論争となってきた反撃能力の保有を明記)
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