備蓄米売却要領改正で小売店がストレス解消?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月22日
先週末に開催された米穀業者の情報交換会で、都内の大手米穀小売店が「ようやく備蓄米を買えることになってストレスが解消した」と一言、備蓄米売却の感想を漏らした。この米穀小売店主のストレスを解消させたのは農水省が4月16日に発した「備蓄米買い受け要領の一部改正」で、これにより備蓄米が卸からこの小売店にも玄米が回って来るようになった。改正前の売却要領では「玄米売買」が禁止されており、卸から玄米では買えなかった。この小売店は業務用米専門小売店であり、相手先の外食の要望により自社で精米して独自のブレンド米を販売しており、基本は玄米仕入である。備蓄米売却についても農水省は未だにコメの流通に様々な規制をかけ、流通をスタックさせるとともに利権化している。
4月16日に改正施行された備蓄米約定事項には「乙(備蓄米の買い受けた卸)の販売先が、とう精能力を有する小売事業者等の実需者に販売する場合、給食等を提供する事業者に販売する場合又はとう精、輸送、保管もしくは決済の能力を有する複数の卸売事業者と小売事業者等の実需者との間の契約等に基づき販売されることとされている当該卸売事業者に販売する場合(転売による差益の収受を目的とするものでなく、当該実需者に販売された米穀が引き渡されることが明らかなものに限る)には、玄米販売を行うことが出来る」と記されている。何故にそれまで玄米販売が禁止されていたのか首を傾げてしまうが、14日の農水大臣との意見交換会で備蓄米が全く入って来ない日米連や東米商と言った米穀小売店の団体から備蓄米の流通規制に対して強い批判があったことからこうした改正が行われた。日本のコメの流通は「玄米」が主流になっているにも関わらず、玄米での販売を禁止する規制を要領に設ける意図がわからない。それ以前に一旦全農に売り渡してから卸に販売するという2度手間を取らす意図もわからない。しかもその全農は卸に販売する際、基本ルールとして第一番目に「玄米販売の禁止」を謳っているのである。その結果、3月末までに卸に販売された備蓄米は落札数量の1%程度の2,716tに留まった。卸からスーパーや中食外食に販売された量は461tで販売価格は60kg当たり3万4023円になっている。
玄米売買の禁止は、玄米を転売して利益を得る行為をなくすためとされているが、精米にすればこれがなくなるのか?そんなことを規制するよりも玄米であれ、精米であれ、不足が生じている場所へ一刻も早くコメを届けることを最優先しなければならないのが今の状況である。14日に行われた農水大臣との意見交換会では、会見後の公表された内容として「条件付き売渡入札の参加資格が集荷業者に限定されていることについては、『卸に直接出すべきだ』という意見があることは聞き及んでいるが、意見交換会では『大量の米を全国により早く効率的に運ぶには現行の仕組みが合理的』という意見が全てで、『卸に出してほしい』という意見は皆無だった。卸自身からも『約600社いる卸のうち数百社でも参加すれば価格高騰が予想される』という声をもらっている」と改めて説明したとされる。卸に出して欲しいという意見は皆無だったとされているが、それなら何のために120社も政府備蓄米買い受け登録業者になっているのかわけがわからない。また、価格に関しても数百社が参加すれば価格高騰が予想されるとしているが、既報のように備蓄米は買い入れ価格より1俵8000円も高く落札されており、十分に「高騰」している。備蓄米の高騰がダメだというのなら競争入札を止めて価格を固定して売却すれば良いだけの話である。食糧法で「価格の安定」を謳っているのならそうすべきである。
最大の弊害は、今回の備蓄米売却が「買戻し条件付き」だという点である。政府備蓄米の買戻し条件付売渡し要領では「原則1年以内に返還しなければならない」とされていたが、よく読むと第19条に「1、乙(買い受け業者)は、政府が売渡しを行った政府備蓄米と同等同量の国内産米穀(農産局長が定める産年の米穀に限る。)について、農産局長が定める期日までに政府に対する売渡しを行うこととし、当該売渡しに係る契約を政府と締結する。 2、乙は、前項の農産局長が定める期日について農産局長に対して協議を行うことができる」とされており、いつまでに返さなくてはならないのか現時点では明確になっていない。つまり、このことを知っていれば「原則1年以内」と言う文言を真に受けて応札を辞退せずに済んだのである。さらに言うと買戻し条件は、後付けでどうにでもなるということであり、そのことはまさに農産局長と大手買い受け業者の間で決まることになる。
重要な記事
最新の記事
-
【第46回農協人文化賞】資金循環で地域共生 信用事業部門・埼玉県・あさか野農協組合長 髙橋均氏2025年7月14日
-
【第46回農協人文化賞】組合員の未来に伴走 信用事業部門・秋田やまもと農協常務 大鐘和弘氏2025年7月14日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 三重県2025年7月14日
-
【注意報】イネカメムシ 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2025年7月14日
-
主食用米の在庫なし、農機の修理・メンテナンス年3000件 JA常総ひかり2025年7月14日
-
【'25新組合長に聞く】JA岡山(岡山) 三宅雅之氏(6/27就任) 地域を元気にするのが農協の役割2025年7月14日
-
JA全農ひろしまとJA尾道市、ジュンテンドーと 売買基本契約を締結、協業開始2025年7月14日
-
蒜山とうもろこしの宣伝強化 瀬戸内かきがらアグリ事業も開始 JA全農おかやま2025年7月14日
-
酪農の輪 プロジェクト 夏休み親子で「オンライン牧場体験」開催 協同乳業2025年7月14日
-
大阪府泉北郡に「JAファーマーズ忠岡」新規開店 JA全農2025年7月14日
-
食農と宇宙をつなぐイベント あぐラボとMUGENLABO UNIVERSEが共催2025年7月14日
-
岩手県産のお肉が送料負担なし「いわちく販売会」開催中 JAタウン2025年7月14日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(2)2025年7月14日
-
「とちぎ和牛」が7年ぶりに全国最高位 "名誉賞"獲得 「第27回全農肉牛枝肉共励会」2025年7月14日
-
【役員人事】北興化学工業(9月1日付)2025年7月14日
-
第148回秋田県種苗交換会キャッチフレーズ決定 全国906作品から選出2025年7月14日
-
無料でブルーベリー食べ放題 山形・鶴岡の月山高原で地域活性イベント開催2025年7月14日
-
農地調査AI支援サービス「圃場DX」デジタル庁「技術カタログ」に掲載 LAND INSIGHT2025年7月14日
-
クマ対策用電気さく線「ブルーキングワイヤー」販売を本格化 未来のアグリ2025年7月14日
-
屋外作業の暑さ対策製品など展示「第11回 猛暑対策展」に出展 サンコー2025年7月14日