「政治の根本は正義に」 与野党問わず政界に幅広い人脈 森田実さんを偲ぶ 「月刊日本」中村友哉編集長2023年2月21日
2月7日に政治評論家の森田実さんが亡くなってから21日で2週間。15日に営まれた葬儀では、政界や教育関係者から森田さんの死を悼む声が相次いで寄せられ、改めて幅広い活躍と多くの人から尊敬を集めた人柄をしのばせた。長年にわたって森田さんが執筆し、深い親交のある「月刊日本」の中村友哉編集長に森田さんへの追悼文を寄せてもらった。
森田実さん
評論家の森田実氏が2月7日に90歳で亡くなられた。心よりご冥福をお祈りいたします。
森田氏には、私が編集長を務める雑誌『月刊日本』に、長年にわたって執筆していただいた。毎号、政治や社会のあるべき姿を鋭く指摘されており、一読者としても拝読するのが楽しみだった。
2020年からは、ちょうど日本に緊急事態宣言が発出されたころだが、中国古典について連載していただいた。森田氏は『論語』や『老子』、『孟子』などを読み解き、今日の日本が学ぶべき知恵を提示してくださった。
残念ながら森田氏の体調不良のため、この連載は2022年に休載となった。しかしその後も、何とか体調を回復させて連載を再開したいとの連絡を頻繁にいただいた。「日本のために言わなければならないことがある」とおっしゃっていた。日本を憂える思いに、ただただ頭が下がるばかりだった。
森田氏が体調回復に努めておられる間、私たちは森田氏の思いを広く伝えたいと考え、連載を一冊の本にまとめたいと提案した。森田氏は快く了解してくださり、『中国古典再学習のすゝめ』(ケイアンドケイプレス)として出版した。
同じころ、森田氏から体調が回復してきたと連絡をいただいたので、雑誌のインタビューにも応じていただいた。現在の岸田文雄総理はただ総理大臣の座に居座りたいだけだと喝破し、政界全体が倫理を喪失していると厳しく批判していた。
しかしその後、再び体調を崩され、そのままお亡くなりになってしまった。結果的に『中国古典再学習のすゝめ』が遺著となってしまった。
実は森田氏は大塩平八郎に関心を持ち、大塩の本も準備していた。大塩は大坂町奉行所の元与力だったが、天保の大飢饉が起こって多くの餓死者が出ると、人々を救うために門弟たちと決起する。いわゆる大塩平八郎の乱である。しかし、乱は一日で鎮圧され、最終的に大塩は自決した。
いまから振り返ると、大塩の行動は無謀だった。おそらく大塩自身もうまくいかないことはわかっていただろう。門弟からも強く反対されていた。しかし、大塩はその門弟にこう言ったという。
「数日前、淀川を歩いていると捨て子に会った。その泣く声が俺の耳の底に響く。母親が捨てた子を見返りながら立ち去りかけたが、また帰ってきて頬ずりをする。ついに意を決して捨てていったが、その母親でさえ飢えて死にそうであった。お前は赤ん坊の泣き声と、お前の心に紙一枚を隔てている。お前は赤ん坊を見物しているのだ。ただ可哀相と言いながら......。俺は違う。赤子の泣くのは、俺の心が泣くのだ。捨てられた子、飢えたる民、それを前にして、見物しながら思案する余地はない」
森田氏も大塩と同じ思いを持っていたに違いない。だからこそ、格差や貧困を生む新自由主義に反対し、新自由主義政策を推進してきた小泉純一郎氏や竹中平蔵氏などを強く非難していたのだと思う。
森田氏が政界に深くコミットしていたのも、大塩の思想と無関係ではあるまい。今日の世の中では、大塩のように直接行動を起こすことは現実的ではない。また、政治評論を書いても、格差や貧困に苦しむ人たちを救えるとは限らない。評論や論文を書いてそれで責任を果たしたと考えることは、森田氏にはできなかったのだと思う。
では、どうすれば苦しむ人々を救うことができるのか。政治家たちと付き合い、政界に自分の主張を直接届けることで、政治を動かしていくしかないのではないか。こうした思いから森田氏は政治への関与を強めていったのではないかと想像する。
森田氏は与野党を問わず政界に幅広い人脈を持っていたが、とりわけ与党政治家たちとの関係が深かった。現実に政治を動かしているのは与党である。そうである以上、与党との付き合いは避けては通れない。
森田氏も本心では与党を厳しく批判したかったと思う。自分が正しいと思うことを主張して政治を変えられるなら、そうしただろう。しかし、与党を厳しく批判すれば、与党から距離を置かれ、政治を動かすことが難しくなる。政治は結果責任の世界である。政治にコミットする以上、結果に責任を負わなければならない。それゆえ、森田氏は内心苦しみながらも与党との付き合いを続けることを選択したのではないか。
しかし、森田氏は与党政治家と親しかったとはいえ、決して与党の言いなりではなかった。森田氏が付き合っていたのは、与党の中の非主流派である。安倍政権時代には安倍総理と距離のある政治家たちと信頼関係を築き、彼らを後押しすることで、安倍政治に歯止めをかけようとしていた。いわば「与党内野党」の役割を果たしていたのである。与党と関わりつつ、与党ベッタリにならないギリギリのラインを見極めていたのだと思う。
森田氏は掲載誌をお送りすると、必ず手書きでお礼のお手紙をくださった。私とは50歳以上も年齢差があったが、いつも対等に接してくれた。その人柄からも多くのことを学ばせていただいた。
森田氏は最後のインタビューで「政治の不正義がまかり通るいまこそ、『政治の根本は正義にある!』という原点に回帰すべきです」と述べていた。私たちは森田氏の遺志を引き継ぎ、これからも政治の不正義を正していきたいと思う。
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