農業者所得増加へデジタルビジネス加速 農林中金 中期ビジョンを策定2024年3月29日
農林中央金庫は3月29日、2024~30年度の7年間を期間とする中期ビジョン「Nochu Vision 2030~未来を見据え、変化に挑む~」を発表した。今後、農林水産業の維持発展と地域社会の暮らしを支えるためにはITデジタルの一層の活用が必要になるとしてデータビジネスの展開などをめざす。
2019年度から今年度までの中期経営計画では「これからの10年はこれまで異なる非連続な変化が起こる」との認識を示していた。実際、2020年からのコロナ禍で生活や仕事のスタイルが大きく変わりデジタル技術の活用が一層進んだほか、22年2月にはロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う食料と生産資材の高騰など想定しなかった変化が起きた。
農林中金はこれからも事業環境は「複雑かつ加速度的に変化していくと想定」し、それをふまえて2030年度までの環境・社会の変化を想定、その時点で農林中金として「ありたい姿」を中期ビジョンとして策定した。
数年先の変化を予測した精緻な計画ではなく、中期的な取り組み目標を「ありたい姿」とし、それを経営の「羅針盤」として位置づける。
「ありたい姿」は5つ。
1つは「地球環境・社会・経済へのインパクト創出」。気候変動や生物多様性の喪失などの課題解決は緊急度が増しており、この課題に協同組織と金融の力で持続可能な環境・社会・経済の実現に取り組む姿をめざす。
2つ目は「農林水産業・地域の持続的な発展」。農業の担い手が法人にシフトしていくなか、「食農×デジタル」の活用が一層加速していくと見込む。
現行中期計画でもデジタルイノベーションの積極展開を掲げ、担い手コンサルティングでデータを活用した経営分析や営農支援を行ってきたが、農林水産業者の所得増大に向けて、より一層、ITデジタルを活用したアドバイザリー機能の提供といったデータビジネスの展開に取り組む。また、既存のバリューチェーンにとらわれないグローカルなバリューチェーンの構築にも取り組み、農林水産業者と系統団体の持続的な発展の実現をめざす。
3つ目は「デジタルとリアルの最適融合による組合員・利用者への価値創造」。デジタルサービスの活用で非対面の金融チャネルが拡大していく一方、対面かつ専門性の高い相談機能も求められると想定し、デジタルを活用した非対面事業のためのシステムの充実と、多様化する組合員・利用者との「対面」をJAグループの強みと捉えて実店舗での専門性の高いサービス提供を支援する。
4つ目は「会員への安定的な収益・機能還元の発揮」。日銀のマイナス金利解除により金利のある世界が復活し、異業種からの金融業への参入など大きな変化が進むなか、投融資ポートフォリオの見直しや新たな領域・分野への挑戦で会員への安定的な収益還元をめざす。
5つ目は「変化に挑戦し続ける柔軟で強靭な組織の実現」。人材を資本と捉えその価値を最大限引き出す人的資本経営の必要性が一層高まってくるとして、多様な思考を持った人材による専門性の向上などで変化にチャレンジする組織をめざす。
中期ビジョンでは経常利益目標などの数値目標は設定せず、毎年の取り組み事項は環境変化や経営状況をふまえて策定する。変化への対応が早ければ「多少遠回りであってもありたい姿を実現できる可能性を高められる」としている。
24年度は金利のある世界となったことをふまえ「会員への収益還元」、「デジタルとリアルの最適融合」のためのインフラ整備、多様な思考を持った人材による組織づくりが優先事項となるという。
農林中金は昨年12月に創立100周年を迎えた。中期ビジョンは2030年に組織中枢を担う現在の部長代理クラスを中心に1年前から、2030年の世界の姿の想定と、農林中金ができる価値創造について「熱い思い」をディスカッションしてまとめた。「腰を据えてしっかりと農林水産業に貢献していきたい」(農林中金)としている。
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