卵はいつまで「高い」のか? そもそも適正価格とは テレビが伝えない「エッグショック」の深層 信岡誠治・元東京農業大学教授に聞く2024年12月17日
夏の暑さや需要増を背景に卵の値段の上昇が止まらない。卵はいつまで「高い」のか。そもそも適正価格はいくらなのか。テレビ、新聞に引っ張りだこの鶏卵に詳しい専門家に話を聞くと、生産者の置かれた厳しい状況が見えてきた。東京農業大学元教授の信岡誠治氏に聞いた。
東京農業大学元教授の信岡誠治氏
――卵が高いですね。
信岡 本当に高いのでしょうか。2024年1~8月の(卸値の代表的指標とされる)東京全農Mサイズはキロ当たり平均203円でした。ところが今から70年前、1955年(昭和30年)は205円だったのです。70年前と同じか少し安い食べ物なんて他にありますか? マスコミや消費者の方は、卵が少しでも値上がりすると、卵の価格が高騰したと大騒ぎしています。私もテレビなどに出演してこのことをしゃべっていますが、価格が高騰した部分だけが切り取られて放送されるので怒ってます。
卵がキロ当たり205円ということは、1個が13円です。1955年当時の銭湯代は大人1人15円でした。が、今は東京都内で550円。約37倍に上がっています。だから卵の価格も銭湯代と同じように値上がりすれば、1個が477円となっても不思議ではないのです。10個入りのパック卵が4,770円ということになります。消費税込みでは5,151円です。物価の超超超優等生で「高い」というのは大間違いです。
1955年当時は450万戸あった鶏卵生産者が、今はわずか1,470戸(成鶏めす飼養戸数)で、残ったのは3,000分の1以下です。育成鶏を入れると1戸当たりでは採卵鶏は平均で10万羽を飼っています。1戸当たり10万羽ですので、ほとんどが企業経営です。10万羽以上層は300戸ほどですが、全生産量の8割以上を生産しています。
――生産者の数が減っても大規模化で生産が維持されていると。
信岡 その通りです。超優秀?な生産者しか残っていません。それでも今年の1~8月の卵の価格低迷は採算ラインのキロ240円割れの状態で、超大規模経営であっても赤字で破産手続き中のところもあり、経営は非常に厳しい状況です。
――2022年10月~2023年5月の鳥インフルエンザの大発生によるエッグショックの際、卵を使う食品メーカー、外食業者等が原材料やメニューを見直し、生産が回復してからもこの部分の需要が戻らないと聞きました。
信岡 卵は国内で年240~250万トン生産されます。約5割が家庭用、約3割が外食、約2割が加工向けに流通しています。エッグショックの際、スーパーの棚から卵が消えることを懸念した政府から「棚からパック卵を切らすな」との通知があり、業者向けの卵の供給がカットされ家庭用に回りました。
その結果、継続的に卵を買ってきた業者からすれば安定供給という信頼関係が崩れ、卵が「リスク商材」となったのです。加工・業務用需要が戻らない背景には信頼関係の崩壊があります。今回のコメ価格の高騰と米不足でも卵と似たようなことが起こる懸念があります。
――というと?
信岡 卵は2022~2023年の鳥インフル、供給制限・卵価高騰の際、業者はメニューや原材料を変更し卵の使用量を減らして対応しました。供給が回復してからもそれが続き、需要が元に戻りません。コメも価格が急に上がったため、外食業者や加工業者なかには国産米を輸入米に変更する、コメ以外のメニューを増やす方向に動いている、と聞きます。卵でもコメでも、それが常態化するのは非常にまずいですね。
――コメの場合は、主食用に限らない利用の拡大も進められています。卵はいかがでしょう。
信岡 卵も、関係者がいま需要喚起に努めています。卵は完全栄養食品で栄養バランスが良く、「コレステロールが高いから食べ過ぎない方がいい」という説も今では医学会で否定されています。今年後半に卵価格が回復した一因は、9月から10月初めの「月見商戦」です。家庭でも、目玉焼き、ゆで卵、オムライス、卵かけごはんの順に人気がありますが、最近はすぐ食べられる総菜での卵の消費が増えているようです。
――再生産も賄えないのが困るのはわかりますが、1パック260~270円という小売価格は割高感があります。
信岡 卵1パックが税込300円になっても1個30円です。1個30円で買える食材が他にありますか? 海外では12個入りですが1パック500~600円になっています。栄養的にも価格的にも最高のパフォーマンスを堅持しているのが卵です。卵は物価の優等生だけでなく健康寿命を支える優等生です。5個もゆで卵を食べると満腹となり他のものが欲しくなくなるので金欠病の人にはうってつけの究極の食材です。低カロリー・高タンパクでビタミン(ビタミンCを除く)、ミネラルも過不足なく150円で満腹の食べ物は他にありません。
――それはおもしろいですね。ところで、日本の卵価は今後どうなるのでしょうか。
信岡 卵価は季節変動が大きいので、例年年末に向けて上がりますが、年が明けるとまた下がります。鳥インフルエンザの発生が抑えられればですが、1月になれば200円を割り込むことが想定されます。飼料価格が1月から再度高騰するなか、それでは経営が成り立ちません。「物価の優等生」は実は「経営の劣等生」なのです。「下がって良かった」ではなく、卵生産が持続できるにはどうしたらいいか消費者も考えていく必要があります。
――財務省などは輸入すればいいと考えているようですが。
信岡 2022~2023年のエッグショックの際も海外へ加工メーカーや商社が買い付けに飛び回りましたが、海外も卵不足で高く現実には輸入量は減っています。今年も輸入量はさらに減ってきています。鳥インフルエンザが世界中で発生しているからです。「いつでも必要なだけ輸入できる」というのは大間違いで幻想です。
――先生はこの間、「エッグショック再来か?」ということで、テレビでも引っ張りだこでした。
信岡 テレビ局の人は「卵が高い」と言わせたいようです(笑)。「1個30円が高いのか」とか「1月には安くなる」と私がいくら言っても、そこはカットされてしまうのです。
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