JAの活動:農協時論
【農協時論】JAを足場に 国の宝の農産物 意識浸透の好機 梨北農協元常務 仲澤秀美氏2023年3月2日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならないのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様に胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は山梨県JA梨北元常務理事の仲澤秀美氏に寄稿してもらった。
梨北農協元常務 仲澤 秀美氏
食料・農業・農村基本法(1999年7月制定)に則って概ね5年ごとに見直される食料・農業・農村基本計画は現在5回目が実施されているが、20年以上前の初回計画から食料自給率の引き上げを掲げているものの、日本の食料自給率は依然として低迷を続けている。先進国としてあるまじき食料自給率38%は、換言すれば、「日本人の体は6割以上が"外国産"である」という危機的状況だが、経済成長を旗印とする貿易の自由化と規制改革は容赦なく推し進められ、「農」の価値は見失われつつあった。
奇しくも、経済効率に偏重しすぎた現代社会に警鐘を鳴らしたのは、新型コロナウイルス感染症パンデミックであった。コロナ禍で生活は一変し、「生活に必要なものは自国で賄う」ことの必要性が白日の下にさらされた。追い打ちをかけるかのように、ロシアのウクライナ侵攻などを要因として国際物流が機能不全となり、諸外国からの"兵糧攻め"が日本に押し寄せたことから、「国産農産物による自給」を大前提とする食料の安全保障の重要性が浮き彫りになった。国産農産物への意識が高まり、「農」の価値が見直される好機を迎えている。
この好機にJAが果たすべき役割は、「農業・農村の危機」を国民に知らせ、「国産農産物は"国の宝"である」という国民意識を深めることである。長い歴史においてJAは、誰一人取り残すことなく地域と連携し、農業・農村と共存してきた。しかしながら、地域農業ならびに地域社会は疲弊の一途を辿り、重ねて、近年の過酷な経済環境に翻弄されたJAは、「組織・事業・経営の危機」に直面している。この苦境を乗り越え、新しい時代に対処可能なJAとなり、地域社会と共に壊れかけた"結"を柔軟に再生させ、「農業の持続的な発展の基盤」である農村の存続と農業振興に尽力しなければならない。
さらに懸念されることは、「協同組合の危機」である。一人の組合員が言った。「俺はJAの株を持っている。JAは株主を働かせるのか」と。「出資」を「株」と言い、「組合員」を「株主」と名乗り、「協同活動」を「働かせる」と表現する組合員に対し、何の説明もできないJA職員...、協同組合理念の醸成を"おざなり"にしてきたJAが"しっぺ返しを食らった"のである。改めて原点に立ち返り、協同活動の本質を見極め、組織の在り方を内外から問い直し、組合員のための自己改革をしなければならない。
JAは組合員の意向を代行する組織であり、組合員は「JAが何かしてくれる」ことを待つのではなく、「地域農業と地域社会を守る」ために協同活動をする。JAは、組合員の"わがまま"を聞く組織ではなく、アクティブメンバーの"願い"を叶える組織である。"JAにしかできない""JAだからこそできる"総合サービスを提供し、総合事業の優位性を発揮した「組合員メリット」を地域に還元することにより、地域農業の継承と地域社会の活性化に寄与する。その原資が出資金であり、「日本の景観を守るため、安全・安心な国産農産物を食べるため、生産者が売りたいと思う農産物をすべて販売するため」の出資である。
最後に、協同組合であるJAは、「組合員のためになること」を"人と人のつながり"で実現する組織である。そして、協同組合原則にあるとおり、すべての人に開かれた組織であり、誰でも参画できる。正組合員でも准組合員でも、はたまた潜在的組合員(員外)でも、JA利用が農業振興の原資となって日本農業を守り、その恩恵は安全・安心な国産農産物として国民に還元される。さらに、農業の多面的機能が国民に浸透すれば、「国産農産物を食べることで日本の景観を守る」という文化が生まれ、JAの必要性の「見える化」が実現する。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日