JAの活動:第28回JA全国大会特集「農業新時代・JAグループに望むこと」
【インタビュー・亀井静香元衆議院議員】農家と消費者を結ぶのは農協2019年2月27日
 国民の命とくらしを守る食料の自給率はわずか38%になり、それに追い打ちをかけるようにTPP11、日欧EPAが発効、さらに米国との二国間交渉が迫るなど、農畜産物・食料の「総自由化時代」を迎えようとしている。そうした時代に農協は何をしなければいけないのかを、元衆議院議員の亀井静香氏に聞いた。亀井氏は「農協は農家と消費者を結ぶ役割を果たさなければならない。それは農協にしかできないこと」だと語った。
◆農業のIT化には限界がある
――日本ではITを農業に活用したり、株式会社が農業経営を行うなど、農業を効率化してお金を稼ごうとする流れが強くなっています。しかし、これは本来の農業のあり方から大きく逸脱していると思います。現在の農業をめぐる状況をどのように見ていますか。
亀井 日本は瑞穂の国です。日本人は狩猟民族ではなく農耕民族なんですよ。狩猟民族は食料を求めてあちこち移動するけども、農耕民族はそういうわけにはいかない。生まれたところで地に足をつけ、土とともに生きていかなければならない。それが農耕民族の生き方ですし、農耕民族の文化です。
 私も農家の生まれだったので、子供の頃は夜遅くまで月を見ながら農作業の手伝いをしていました。素足で田んぼに入り、稲刈りなどをしていましたね。私だけじゃない。農家の子はみんなやっていました。それが当たり前の生活だったから、大変だと思ったことはありません。
 日本人はこうした文化の中でずっと生きてきました。その中で日本人の精神構造、日本人そのものが作られてきた。いま日本では農地がどんどん少なくなって、ビルに囲まれて生活している人たちが増えているけども、日本が農耕文化だということに変わりはありません。
 だから日本人は「IT民族」にはなれないと思いますよ。確かにIT関係で世界に冠たる発明をした日本人もいますが、しかしITは人間が機械に使われるということです。機械に使われた生活によって日本人が幸せになることはありません。
 しかも、ITには限界があります。人間の営みを全てIT化することはできないですからね。農業がまさにそうでしょう。農業では田植えから稲刈りまで、どんどん機械化が進んでいるけども、いくら機械化が進んだとしてもお百姓の役割がなくなることはありません。ITによって田んぼの水や風を調整することができますか? ITに任せておいて美味しいコシヒカリができますか? できませんよ。それができるのはお百姓だけです。お百姓がいなくては農業をやることはできないんですよ。
――TPPに代表されるように、日本では農産物の自由化も進んでいます。これもまた農業によって効率的にお金を稼ごうという発想だと思います。
亀井 私はそういう流れにずっと反対してきました。それぞれの地域の実情を無視し、流通関係だけを考えるべきじゃない。テレビがなくなったって生活はできるけども、農林漁業がちゃんとしてないと最低限の生活さえできなくなる。誰が考えたってそうでしょう。
 日本はもっと適地適作ということを考えるべきです。そのための工夫は、政府だけじゃなく、農家の人たちも自分たちで取り組まないといけませんね。お米や果物、野菜も含め、どんなものを作ればみんなが喜んでくれるかということを、もっと考えていく必要があります。
◆農協はもっと生産者の側に立て
――そこで重要になるのが農協(農業協同組合)の役割です。しばしば農協は生産者ではなく権力の方を向いていると批判されることがありますが、農協のあり方についてはどのように考えていますか。
亀井 これは農協だけの問題ではないけども、人間が集まって組織を作ると、どうしても組織原理が働くんですよ。組織を大きくし、利益を得たいと考えるようになるわけだ。
 これは人間の業だな。だから農協も利益を得ようとして、農民のためにならないことをする。そして、農協という組織ばかり大きくしようとする。全国にある農協のビルを見てごらんなさい。どこに行っても大きなビルが建っていますよ。私はあれを見るたびに、「これは農民の血と骨で固めたビルだな」と思います。それじゃダメなんですよ。
 それから、いまの農協は商社みたいになってしまっているね。もちろん商社は必要です。農家の人たちが行商し、自分で農産物を消費者に売りにいくわけにはいかないでしょう。あるいは、農林省が農産物を買い上げ、それを消費者に配るわけにはいかない。農家と消費者をつなぐ役割は重要です。
 しかし、だからといって農協が商社になってはいけないんですよ。商社は売り買いで儲ければいいわけでしょう。農協はそうではない。農協は儲けるためにあるわけじゃない。あくまでも農家のためにあるんです。
 だから農協はもっと生産者の側に立つべきだ。消費者だけでなく、生産者にとって利益になるような販売方法を考えてもらいたい。そのための工夫をすべきです。
 たとえば、奇想天外に思う人もいるかもしれないけど、農家の人たちが背中に籠を担いで行商するわけにはいかないから、農協が代わりにそれをやればいい。単に商社に農産物を売りつけるだけじゃなく、自分たちで消費者のところまで行く。「栃木の農協から来ました」と言って、街角で農産物を売るんですよ。そうすれば消費者だって喜びますよ。農協は大都会の消費者向けには色々と販売努力をしていると思うけど、こうしたことにも思い切って取り組んでもらいたいね。
◆自然エネルギーに取り組む理由
――日本の農業を立て直すためには、後継者の育成も重要になります。後継者不足は以前から大きな問題になっています。
亀井 現実には後継者は減っているかもしれないけど、いまの日本人がみな、大都会のビルの谷間で生きることに喜びを感じているわけじゃないでしょう。故郷の山河の中で生きたいと考えている青年たちもいますよ。これからはそういう青年たちがもっと出てくるはずです。
 だけど、彼らにお金を与えて支援し、農業をさせたって意味がないですよ。そんなことをしても農業は復活しません。重要なのはやはり「心」です。農耕民族としての心を取り戻さなければならないですね。
――亀井さんは再生可能エネルギーの事業に取り組み、脱原発を進めています。これは自然とともに生きていくという農耕文化のあり方そのものです。日本の農耕文化を見直す上でも、自然エネルギーに取り組むことが重要になると思います。
亀井 農林漁業を大切にすることと、自然エネルギーに取り組むことは、一続きのことです。日本は地震列島だから、これからも必ず地震が起きます。それなのに原発に頼り続けるのは間違っている。だけど、「脱原発」と口で言っているだけではダメだ。どうすれば実際に脱原発ができるかを考えないといけない。
 だから私は太陽光発電とバイオマス発電を始めたんですよ。発電量は日本一です。これは金儲けが目的ではありません。金儲けだったら損得勘定が先に立ってしまいますからね。
 日本には豊かな自然があるのだから、もっと自然エネルギーに目を向けるべきです。そうすれば必ず脱原発はできます。私は事業を通じてその道筋を示してみせます。
――昨年12月にTPP11が発効し、今年になって日本と欧州連合(EU)のEPAが発効しました。さらに今年は日米物品貿易協定(TAG)交渉も控えています。日本の農業にとって厳しい年になると思います。今年3月にJA全国大会が開催されますので、最後に改めて農協へのメッセージをお願いします。
亀井 先程も述べたように、農協は農家と消費者を結ぶ役割を果たさなければならない。それは農協にしかできないことです。農協はあくまでも助け合うためにあるんですよ。そのことを忘れずにしっかりと取り組んでもらいたい。
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