JAの活動:第28回JA全国大会特集「農業新時代・JAグループが目指すもの」
【対談 農林中央金庫代表理事理事長 奥 和登 氏×福島大学教授 生源寺 眞一 氏】事業間連携で"農協力"を発揮2019年3月8日
農林中央金庫の奥和登代表理事理事長は今回の大会決議によってJAグループは改革の「実践フェイズ」に入ると強調する。信用事業では厳しい環境のなか、事業間連携で一体となって営農支援、資産形成などに取り組むことが課題だと話す。生源寺眞一・福島大学教授(同大食農学類準備室長)と話し合ってもらった。
生源寺 前回の全国大会では「創造的自己改革への挑戦」を掲げましたが、今回は「創造的自己改革の実践」と踏み込んでいます。最初に全国大会の位置づけ、意義をお聞かせいただけますか。
奥 これまで全国大会の議案づくりは1年ぐらい前から全国連スタッフがプロジェクトチームを組んで検討してきましたが、第28回大会は各県ごとにどういった取り組みをしていくのかを先に決議し、全国大会ではそれを自分たちの取り組みとして発表しようということになりました。
その点では「挑戦」から、より「実践」の色が出て、良かったのではないかと思っています。この地域ではこういうことをやるんだとお互いに発信して刺激し合いながら、自分たちはこうしていこう、というのは、まさに実践フェイズに入ったということだと思います。
(写真)農林中央金庫代表理事理事長 奥 和登 氏
生源寺 この間、規制改革会議などで農業・農協改革が議論されたわけですが、農業の世界は割と内側だけの話になりがちなので、そこに楔(くさび)を入れるという意味はあったと思います。ただ、責任を持って最後まで改革を組み立て、見届けるのは当事者である農協ということになりますね。
奥 自己改革といいながら、自分では自分のやっていることが正しいと思い込みがちなので、やはり外からいろいろな意見をいただきながら進めることは大事です。そこでいちばん重要なのは、本当は組合員の声であり、消費者、地域の人からの意見だと思います。
一連の政府の農協改革議論を、外からの刺激や気づきと捉え、それを受けて自分たちはどう組合員の意見を聞き、どう変えていけばいいのか、さらに消費者の意見をどう考えていけばいいのかだと思います。
ことわざに、他人と過去は変えられないが自分と未来は変えられる、とありますから、我々も人から言われて変えるのではなくて、自らを変え、将来を変えていくべきだと思います。
◆准組合員はパートナー
生源寺 議案で特徴的だと思うのは論点になっている准組合員について、地域・農村をともに支えるパートナー、あるいは地域農業を応援するサポーターと位置づけていることです。
奥 JAグループとしてはいかに准組合員にJAに参画してもらうかという問題は以前からあったと思います。ただ、この問題については、共益権は正組合員だけのものだという声もあり議論が難しい面もありました。そういう意味で今回は准組合員問題が取り上げられるなかで、やはり地域の准組合員の意見も入れて自分たちの活動のあるべき方向を議論していかなければならないということを打ち出せたのではないかと思っています。
生源寺 准組合員でもJAの運営に参画できるよう見直していこうということですね。
奥 そうですね。まずは意思反映・運営参画という取り組みを進めながら、協同組合の中で准組合員をどのように位置づけるべきかをJAグループ内で知恵を出し合うのが良いと思います。
◆社会的課題解決にも力
生源寺 ところで農協はこれまでは政策的な要求を掲げてきた経緯もあります。もちろん一概に悪いとはいえませんが、今回の議案では国の政策課題について食料安全保障と農業の多面的機能の2つに絞っています。
考えてみると、この食料安全保障や農業の多面的機能の問題は農業者というよりもむしろ国民全体が受益するものであって、そういう観点から政策提言するというのはずいぶん変わったなという感じがします。
(写真)福島大学教授 生源寺 眞一 氏
奥 国連などで協同組合の存在に光が当たるようになっていますが、背景には社会的課題について誰が解決の努力をするのかという問題があると思います。
その意味で農協も農業者だけ、メンバーだけの利益を代弁するという行為から、やはり農林水産業を通じて社会に提供している価値、すなわち食料の安全保障や国土の保全、水資源、環境の維持など、そういった社会課題を解決していくんだという組織になっていき、農業者はもちろん大切ですが、その先のステークホルダーまで見ていかなければならないのでないかという意識が出てきたと思います。その点で第28回全国大会議案は、今までより一歩進歩していると私は解釈しています。
生源寺 私もここは象徴的だと思いました。
◆事業の運営"効率的"に
生源寺 自己改革はJAが主体となって取り組んでいるわけですが、JAバンクとしてはどう改革に取り組みますか。
奥 金融業全体が非常に厳しくなっています。日銀の金融政策だけでなくてグローバルに成長率が鈍化していますから、結局、金利が下がっていく。ですから利ざやで収益を確保するのは非常に厳しい。それからフィンテックなどのテクノロジーの進展で金融以外の業態との競争が非常に厳しくなっています。
こういう変革期はこうすればいいという絶対の解はないですから、いろいろなメニューや考え方を提示したうえで、話し合いをしながら改革していくしかない。
そこで農業を含め地域にどのくらい融資できるのかということと、組合員の資産形成をどうお手伝いするかが課題になると考えています。今までは貯金を集めるのがメインでしたが、人生100年時代を迎えるなか、農家、組合員の方が70歳、80歳以降、どうやって暮らしていくかを考えたとき、今のような低金利では貯金だけでは十分な資産形成ができませんから、共済、貯蓄、投信はどんな割合がいいのかといったことを、JA共済連とも連携しながら提案していくというようなことをしていかなければなりません。
一方で効率的に事業を運営する必要もあり、全国に約8000ある店舗についても、人口が減っているなかでこれだけ必要なのか検討しなければなりません。どんなサービスでも提供できる総合サービス店舗と、組合員と顔を合わせるコミュニティ店舗、さらに移動店舗などを組み合わせてより効率的な事業運営に変えていかなければなりません。
また、経済事業との連携でもこの生産者には、たとえばどんな資材を提供するのがいちばんいいのかを全農とともに考え、それにはこういう金融機能が必要だろうといったことを一緒に考えていく。今まで以上に事業間連携を図っていくことが大切だと考えています。
◆農・林・水の連携も必要
生源寺 いわゆる総合農協としての機能を発揮するということですね。将来めざすところをどう描きますか。
奥 事業間連携に関連していえば、とくに農林中央金庫としては農・林・水の流域で事業・組織を考える必要もあると思います。森林の保水力が田畑を潤し、それが豊かな海にもつながっています。
今回の議案はそれは色濃くは出ていませんが、いずれ農・林・水が流域の縦の流れのなかでより連携していくという必要があるだろうと思います。
同時に中期計画では国連のSDGs(持続可能な開発目標)も意識しており、林業はCO2吸収の機能を果たしており、漁業も資源管理型漁業が広がっています。一方、農業については世界的には評価がやや分かれるところがあって、CO2を排出したり肥料を多く使うといった評価もあります。
日本の農業はそうではなくても、世界的にみると農業はまだまだ地球に優しいとはいえないといわれます。そのなかで林業も水産も含めてトータルで考えると、われわれはCO2を吸収する環境に優しいグループだと言えると思います。こうしたCO2バリューチェーンを考えれば、そこに農業が入って貢献していかなければならない。たとえば、林畜複合経営もその観点から合理性があり重要になると思います。
生源寺 なるほど。貴重な示唆だと思います。ありがとうございました。
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