JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会
【提言】美しい心の風景 JAが描く時 秋山豊・JA常陸組合長【第29回JA全国大会特集】2021年11月10日
第29回JA全国大会が開かれ、「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」を決議した。コロナ禍が一服した中での大会となったが、茨城県JA常陸の秋山豊組合長に大会に際して「未来に向けて」提言してもらった。秋山組合長は「美しい心の風景」を共有して困難を乗り切っていきたいという。
温暖化防止 農業界挙げ
秋山豊
JA常陸組合長
私は、茨城県の県北地域5JAが7年前に2次合併して出来たJA常陸の組合長に就任して4年目になる。コロナ禍のJA大会の年に当たり現場から2、3提言します。
1点目は、環境問題への取り組みと山林等でのメガソーラー造成の監視をお願いしたい。
近年、異常気象、および災害は過去の経験を超えており、農業生産や後継者の維持に重大な影響を与えている。茨城県は1999年東海村JCO臨界事故、2011年東日本大震災と福島原発事故、関東・東北豪雨と鬼怒川決壊、2年前の台風19号被害と那珂川・久慈川の決壊、昨年からの新型コロナウイルス、長梅雨、本年の鳥インフルエンザ、豚熱など毎年自然災害、人災に見舞われている。
その度に収穫量の減少、品質の低下、出荷停止と風評被害、市場価格の暴落や長期低迷、離農が起きている。JAは、現場の復旧作業、感染防止対策、JAボランティアの動員、共済の適用、復旧補助金の申請、農業機械・施設の修理と再取得、無利息資金の貸し付け、収入保険やナラシ対策の申請等々やれるだけのことはやってきた。
しかし、農家の経営は不安定となり、特に新規就農した各年代の担い手が、被害のひどさに再建を断念したり、借入金の返済や将来の生活に不安を抱き離農する者が出ている。それでなくとも担い手の減少、高齢化が進み、生産の縮小、耕作放棄地が増加している現在、地域にとっては大きな痛手である。
JA大会を契機に、JAグループとして地球温暖化防止対策に誠意をもって取り組もうではありませんか。若者に言われるまでもなく、現場の農民は気候が異常をきたして近い将来、生産ができなくなる事を感じている。農業界は組織を挙げて環境破壊の復旧に取り組むべきである。
ソーラーと環境を監視
加えて、提言したいのは代替エネルギ―として地方、山間部で増加しているソーラー発電の監視である。この夏ふるさとの山が一つなくなった。50haを超える自然林がソーラー基地となった。畑では耕作放棄地がソーラーになるかカンショ畑になるか競走している。そこに静岡県熱海市での土砂災害事故の報道である。お願いしたいのはCO2を酸素やオゾンに換える山林をメガソーラーに転換することが本当に温暖化防止につながるのかどうか審査して頂きたい。
また、ソーラー建設後基準を超える集中豪雨や竜巻等が起きた場合災害は発生しないのか、大気や地下水への影響は、20年経過後の処理等々、厳正な審査と監視をお願いしたい。何万年と言う時間をかけて作られた故郷の自然を地球全体のために差し出すのだから。
2点目の提言は、JAはもっと農業生産に取り組むべきである。
ご存じの通り現場では、戦後の日本農業を担ってきた昭和一桁の農民が87歳~95歳となり完全引退している。戦前戦中の教育を受け、国の礎と農耕魂をたたきこまれた農民に代わる者、特に女性は稀である。後を継ぐ戦後世代が機械を駆使して奮闘しても生産額は減少し、条件の悪い田畑は耕作放棄地となりイノシシが闊歩(かっぽ)している。
他方、国は多国籍企業の利潤拡大を目的とする新自由主義経済を推し進め、農政では関税を撤廃し、米を始めとする農産物価格を引き下げようとしている。
危機感持ち基盤維持を
多発する自然災害、農業労働力不足、農産物価格の低下、この様な危機的な情勢の中で、農家をどう守り、地域農業をどう発展させるのか。それが今のJAに課せられた最大の課題である。
我がJAでは、一昨年90億円あった販売高は昨年水害により88億、今年はコロナ禍による米価、野菜価格の低下で80億を割り込みそうである。このままでは信用組合になってしまう。
危機感を感じ、当JAでは、来年度からの3カ年計画で「どうしたら販売高を増加できるか」を課題として生産部会、女性部、青年部、役員の組織討議を地区別に行う。
具体的な事例を想定してみましょう。近年拡大してきた枝物部会は、部会員100人の内、700万円以上売り上げる農家は5%、大半の会員は300万以下の売り上げである。我々は規模が大きい農家に注目がいくが、現実は「年金プラス枝物」の呼びかけで参加した退職後農家がどれだけ増反し苗を植えられるかが勝負となる。
ポイントは販売単価であり、コロナ禍でも枝物の市況は決して悪くはないが、全農家が増反するまでには高くない。追加対策の一つとして、耕作放棄地をJAの受託子会社が借り上げ、2~3年、出荷期になるまで育成し、利用権と成長した株を新規参入する組合員に譲渡する方法がある。
事例の2、栗の生産部会は、2L以上は市場出荷、それ以下は加工所に回してきた。他方、今年9月、道の駅がオープンしたところ生栗、モンブランケーキ、栗ペーストの人気が急上昇し在庫不足となった。
民間業者も集荷を強化しているため来年度の加工用栗の集荷が危ぶまれている。対策として集荷単価の引き上げ、小規模出荷所の設置、2Lの転用が挙げられているが不透明である。追加対策で、管理が放棄されている栗園をJAの受託子会社が借り上げ、収穫まで行ってはどうか。
つまり、困難な環境の中で産地や農家を維持、拡大するためには、信用事業等により経営力、投資力のあるJAが一定期間生産を代替し、新規参入者を確保するまで農業生産を行う事が必要である。
これまでのJAは、生産は組合員がやる事として、自ら生産することを控えてきた傾向が強かった。しかし、現実は、JAが総力を動員しても地域農業の維持は難しい状況に来ている。JAが農業協同組合であるために役職員が農業生産をやらなくてはならない。
小さな協同地域豊かに
3つ目の提言は、JAは、環境も社会も破綻しかねない危機的時代だからこそ、地域循環型経済と人間性を取り戻す豊かな地域社会、つまり故内橋克人先生が提唱された「共生社会」の建設をもっと大きくアピールし取り組むべきである。
JAは戦後、農民の職能組合としての運動から地域住民を巻き込んだ地域協同組合へと運動・事業を広げてきた。その協同組合としての理論的裏付けは、資本主義経済からすべての人が受けている人間疎外からの解放というものである。
疎外とは、「元々自分のものであったものが外部に離れ逆に自らを苦しめる事である」。例えば、家族を例にとると、親が外部に雇用されると育児や教育はお金を払って外部に頼む、結果として子どもは愛情不足となり親に暴力を振るう。現代社会で最も憂うべき問題である家族の崩壊は人間の生きる目的を喪失させ、人間は幸福になれない。
これに対し家族が経済的に自給力を持ち、生産、育児、教育、介護を自ら行えば家族の分裂や対立は生じないのではないか。さらに、地域が同じように生産、教育、医療、エネルギーを地域内で自給できれば古来人間がつくっていた「共生社会」を実現できるのではないか。
JAは十分、共生社会建設の中心となれるのではないか。
結びに、ふるさとの山や川は汚れてしまったが、私たちの心にある美しい風景は消えません。その美しい心を忘れずに家族と友人、地域の人々と共有していけば私たちは幸福になれるのではないでしょうか。
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