JAの活動:食料・農業・農村 どうするのか? この国のかたち
福岡JAトップ座談会「若い世代に魅力ある農業を」【食料・農業・農村/どうするのか? この国のかたち】2024年7月16日
福岡県柳川市のJA柳川本所を会場に福岡県の農協リーダー3人に集まってもらい、「食料・農業・農村/どうするのか?この国のかたち」をテーマに座談会をおこなった。3人とは、JA福岡中央会代表理事会長の乗富幸雄氏と、JAにじ代表理事組合長の右田英訓氏、JA柳川代表理事組合長の山田英行氏である。以下は、司会を担当した髙武孝充元JA福岡中央会営農部長と本紙特別編集員の村田武九州大学名誉教授の報告である。
【出席者】
JA福岡中央会会長 乗富幸雄氏
JAにじ組合長 右田英訓氏
JA柳川組合長 山田英行氏
司会:元JA福岡中央会営農部長髙武孝充氏・九州大学名誉教授村田武氏
戦時立法を求めない
髙武 まず、お聞きしたいのは、先日国会で成立した「改定食料・農業・農村基本法」と「食料供給困難事態対策法」をどう評価されるかということです。
JA福岡中央会会長
乗富幸雄氏
乗富 まことに残念ながら、改訂された基本法は、農業の現場の苦境に真摯(しんし)に応えようとする意欲が少しも感じられません。新自由主義的アベノミクス構造政策から抜け出せませんでした。それも当然でしょう。岸田政権の誕生当初に表明した「新自由主義から、分配中心の新しい資本主義への転換」を、首相本人がそれこそ舌の根も乾かぬうちに投げ捨てたのですから。農水省は、財界・財務省の強烈な圧力に屈せざるをえなかったのでしょう。農水省幹部官僚が、日本農業を守るというプライドを失ってしまったとは思いたくありません。
ところで、わが福岡県では農山村だけでなく、米麦二毛作先進地の筑紫・筑後平野でも、米価下落と資材高騰によるコスト増に耐えられず、しかも雇用労働力の確保もむずかしくなるなかで、「もう稲作はやっておられない」とする農家が増え、「預かった水田をお返ししたい」とする規模拡大農家・法人経営が生まれています。この間の経営危機でもっとも深刻なのは酪農ですが、水田農業も「作る人がいなくなる」事態に直面しているのです。
今回の改訂基本法案を準備し、農水委員会で出された修正提案をことごとく拒否し、法的拘束力のない「付帯決議」に葬った農水省幹部官僚の皆さんも、改訂基本法では稲作農業の苦境に立ち向かえないことはわかっているのでしょう。だから、戦時法制的「食料供給困難事態対策法」を抱き合わせたのでしょう。「これは戦時中のようだ」と思わざるを得ません。
髙武 そのとおりでしょう。米穀の供給不安定に対しての対策は、食糧管理法を廃止して立法された食糧法(1994年)が、第39条で、「米穀の適切かつ円滑な供給を確保することが困難であると認められるときは、米穀の生産者に対し、売り渡しをすべき期限及び数量を定めて、その生産した米穀を、政府に売り渡すべきことを命ずることができる」としており、それに従わない米穀生産者には3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処するとしています。さらにそれを麦や大豆に広げたいのなら、この食糧法改定案を提案すればよかったはずです。今回の「食料供給困難事態対策法」が、生産転換・割当てに従わない生産者には、食糧法の「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」ではなく、「20万円以下の罰金」を科すとしたのは、生産者の怒りを恐れたからでしょう。
米に「直接支払い」を
村田 さてそこで、「どうするのか? この国のかたち」と問われれば、皆さんはどう答えますか。
乗富 まず何よりも、いまわが国が問われているのは、危機的な農業を再建して食料不安に備えることです。食料確保が不安定のままでは、いかに軍事力を強化しても、この国の将来はありません。
JA柳川組合長
山田英行氏
山田 今、端境期に入り、あきたこまちや新潟コシヒカリなどを中心に、市中で取引される米のスポット価格が暴騰しているようですが、新米が出る時期にはおさまり、むしろこの秋の生産者米価はもっと下がるでしょう。稲作のコストアップはたいへんなものです。トラクター・田植え機・コンバインを合わせて2000万円を優に超えるようになっています。このコストアップに対して、生産者米価はどうあっても1万8000円から2万円はほしいと考えます。「改定基本法」では、付帯決議にされてしまいましたが、食料の価格は、「食料に必要な費用を考慮した合理的な価格の形成に向けた関係者の合意の醸成を図り、必要な制度の具体化を行うこと」とあります。「必要な制度」とは、市場価格とコストの差を補てんする「直接支払い」しかないでしょう。私は、食糧法を改正して、麦や大豆だけでなく、米にも直接支払交付金(ゲタ対策)を導入する以外にないと考えます。2兆3000億円の農業予算を3兆円にすればやれるでしょう。
就農を促す3点セット
JAにじ組合長
右田英訓氏
右田 若い世代の就農を本格化することが、「この国のかたち」にとって極めて重要だと思います。新規就農支援は150万円の3年間支給では不十分です。親元就農を含めて、300万円5年間支給であって当然です。農業習熟に3年間では足らないのです。そして、若い世代が農業をやろうとするには、「もうかる農業」「夢がもてる」「消費者から喜ばれる」の3点セットが不可欠です。
就農をめざす若い世代の多くは有機農業にたいへんな関心を持っています。JAにじの本店があるうきは市はすでに「オーガニックビレッジ宣言」をおこなっています。これを生かして、有機米を生産する若手を育て、まず管内の学校給食に有機米を供給することから始めたいと考えています。まず管内の水田の土壌診断を本格化させます。環境保全的農業の多面的機能への助成をもっと手厚くすべきですね。
消費者へアピールを
乗富 私たちJAグループは、自給率38%では危ないとは訴えてきたものの、農業がどんな状況になっているか、農家の暮らしはどうなっているか、そこで私たちは国に何を求めているかを消費者にアピールすることに消極的ではなかったでしょうか。直売所に来てくれる市民消費者や、こども共済や建物更生共済が優れていることを知って、准組合員になり共済に加入してくれる消費者はたいへん増えています。しかし、そのような人々に、JA支店は情報発信センターとして機能を果たせていないのではないでしょうか。
私たちは、消費者の貧困化が進み、食費を抑え、米の消費を減らす動きに手をこまぬいてきたのではないでしょうか。食料危機が迫るなか、しっかり米を生産し、低所得者には米を低価格ないし無償で支給する、米飯給食の増えた学校給食は、給食センターを地域給食センターにして、公民館で地域の貧困世帯の児童や高齢者に無償給食をおこなう。これで、米の消費量は確実に増えます。また、災害に備えて、100万トンの米備蓄量を思い切って300万トンに増やすことがあってもよいと思います。それには消費者の理解が必要です。
われわれは、福岡県内の生協を初めとする消費者団体へのアピール活動を本格化させたいと考えます。欧州の農民運動に学んで、消費者に訴えるトラクターデモをやりたいですね。全中には、農水省への陳情にとどめず、全国消費者団体連絡会、日本生協連、主婦連合会などの消費者団体との本格的な協議の場を設定してくれることを期待します。消費者への支援がなくては、私たちの「直接支払い」要求の実現はむずかしいでしょうから。
山田 そういう陳情活動なら、何度でも上京しますよ。
【取材を終えて】
「食料・農業・農村/どうする?この国のかたち」は、多くのJAトップの考えを聞くために「3人のトップ座談会」形式とした。まず「改定基本法」及び「食料供給困難事態対策法」の評価については否定的な意見で、新自由主義を転換しないと農業者は廃業してしまうとの発言は衝撃的でもあった。いま政府がやるべきことは「再生産可能な直接支払い」及び「食糧法」の改正、農政運動に対しては、消費者へのアピールにもっと力を入れるべきだとの意見は、そのとおりと思わされた。ご多忙のなか、座談会に参加いただいた3人のリーダーの皆さんと、この座談会のセッティングをお世話いただいたJA柳川総合企画課古賀哲也課長に、心から御礼申し上げる。(髙武孝充・村田武)
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