【クローズアップ農政・TPP交渉】年内合意へ交渉加速化 守れ! 国会・与党の決議2013年9月11日
・10月APECが節目
・妥結優先に警戒感
・国民不在は変わらず
・今後の交渉日程など
TPP(環太平洋連携協定)交渉は8月末までブルネイで行われた第19回会合で、年内妥結という目標が確認され10月7日にインドネシア(バリ島)で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会合での大筋合意をめざし、交渉が加速化してきた。しかし、政府は農産物の関税も含め21ある交渉分野についてどのような提案をしたのか、守秘義務を盾に説明しないばかりか、交渉に臨む方針すらも明らかにしていない。こうした姿勢に与党議員からも「守秘義務守って国益守れず、にならないのか」、「ちゃぶ台をひっくり返す覚悟も必要だ」などの声も出ている。
対立が解けない交渉分野もあり年内妥結は難しいとの見方もあるが、情報提供と国民的議論はいずれにしろ課題となる。
◆10月APECが節目
ブルネイでのTPP交渉第19回会合は、8月22、23日閣僚会合を開催。具体的成果を出すよう交渉加速化を首席交渉官らに指示した。交渉は24~30日までの間、市場アクセスや原産地規則、知的財産など10分野で行われた。 今後は全体会合は開かず各分野で中間会合を開催し、それを9月18~21日にワシントンで開催される主席交渉官会合で整理する動きとなっている。交渉が難航している分野では論点整理にとどまるとみられるが、その場合はさらに分野別の中間会合で交渉し、10月7~8日に開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会合時にTPP参加国の首脳が大筋合意をすることをめざすことが確認された。
TPP交渉はそれぞれの参加国が提案(オファー)を交換し、それに対して自国が求める内容をリクエストする。自らオファーを行わなければ相手のオファーを見せてもらえない。そこから先の交渉は分野によっては参加国全体で議論されているが、農産物の関税など市場アクセス分野は2国間協議を積み重ねることになっている。これがTPP交渉が複雑だといわれる理由だ。
政府によるとブルネイ会合では市場アクセス分野で6か国とオファーの交換をし、その他3か国と合わせて9か国と2国間協議を実施した。どの国とオファー交換したかは明らかにしていない。これもルールだという。
ただ、米国は国内の国際貿易委員会によるTPP参加の影響評価が終わっていないことからオファーを行っていない。豪州も9月初めの総選挙を控えて提示しなかった。また、2国間協議を行わなかった2か国は市場アクセス分野の交渉官が不在だったため、という。
(写真)
自民党の石破茂幹事長は政府と党のTPP対策責任者に公約を守るよう厳命しているという。写真は9月4日の党の会合
◆妥結優先に警戒感
今回の閣僚会合の共同声明ではTPP協定について「野心的でバランスの取れた21世紀型の協定」とある。政府は「バランスの取れた」との文言はこれまでになかった認識で日本の主張の影響だと自賛する。閣僚会合に参加した甘利明TPP担当大臣は現地での記者会見で「TPPによる新たなルールづくりは、ある国の制度や法律をその他の国に押しつけるということではない」と閣僚会合で強調し、「参加国の理解が得られた」と語った。また、非公式の場では各国の担当閣僚に「もっとも強い国こそまず率先して譲歩すべき」とも語ったという。
こうした甘利大臣の姿勢に対し自民党議員からは日本が交渉をリードできると評価する声もある。しかし、9月5日に開かれた自民党議連「TPP交渉における国益を守り抜く会」では「交渉をまとめることが目的ではない。国益を守ることが大事だ」との警戒感も出された。日本主導で「バランスの取れた協定をめざす」となったといっても、具体的にどうなるのか。日本政府のオファーの内容すら守秘義務のために説明されないからだ。
そのオファーについてTPP政府対策本部の澁谷和久審議官は「低めのボールを用意した」と説明。農水省の担当者も米、麦など農産物重要5品目を関税撤廃から除外することなど「(国会や自民党の)決議をふまえたもの」と説明する。
日本が関税をかけている品目は全部で9018品目。このうちこれまでに日本が結んだ経済連携協定(EPA)で関税撤廃をしたことがないのは約940品目で、そのうち農林水産品は834品目ある。関税を撤廃する品目をどの程度約束したかの自由化率は84~88%。そこで今回のオファーでは80%台の自由化率を提示したとみられている。
◆国民不在は変わらず
日本のオファー提示に対して参加国からは「まさか出てくるとは思わなかった」との反応も多かったというが、他国にくらべてかなり低い水準の提案のため「最初だからですよね」と言われたようだ。各国とも最初のオファーは低めであってもより高い水準をめざす努力をしており、日本にもそれが期待されている。また、日本の主張は新聞を読めば分かる、としてオファーの交換をしていない国ともかなり具体的な協議が行われたようだ。
そして、今後は日本も他国からのリクエストを突きつけられることになる。政府はこれまで関税撤廃をしたことがない農林水産品834品目については、今回のオファーで提示した自由化率の“枠外”にあることを示唆したが、議員からは「どんどん(相手国の)要求が上がってくるのではないか」との声が上がった。これに対して政府は交渉の見通しを示すことはなかった。
関税をかけている品目は、たとえば米は精米だけでなくモチやせんべいなど、加工品や調整品を含めて58品目ある(9桁の番号で表すタリフライン)。乳製品は188品目ある。
各国から市場開放を要求され、こうした加工品や調整品で関税撤廃を認めば自由化率は上がる。しかし、5日の自民議連の会合では安易な妥協は断固反対だとの意見が多く出された。たとえば、北海道の議員は「缶コーヒーぐらいはいいだろう、などと認めれば雇用にも影響する」と危機感を表した。秘密交渉を理由に政府に交渉を委ねて譲歩を許してしまえば、甚大な影響が出かねない。同会の衆議院議員の森山裕会長は「思いつきで(重要5品目などを除外する)決議をしたわけでない」と強調したが、政府の説明は834品目を守るかどうかや、どの品目をどう守るかの協議を行うかも明確ではなく、会議にはいらだちが募った。
こうしたことから「守秘義務守って国益守れずになる」、「(官僚主導の交渉は)民主党政権と変わらない。もともとこの会は(TPP参加)断固反対だった。ちゃぶ台をひっくり返す覚悟も必要だ」などと厳しい意見も相次いだ。
交渉は加速化する見通しだが、国民不在のまま進む懸念は一層強まっている。
今後の交渉日程など
○平成25年
9月 中間会合
9月18~21日 首席交渉官会合(米国ワシントン)(中間会合)
10月7~8日 APEC首脳会議(インドネシア)
10月 東アジアサミット(ブルネイ)
12月3~6日 WTO閣僚会合(インドネシア)
年末 TPP交渉妥結目標
○平成26年
11月 米国・中間選挙
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