日本の農協改革案 自治・独立を侵害 ICA理事会2014年10月21日
・農協の地域活動を評価
・株式会社化への懸念
・日本の農協を支援
10月6日にカナダのケベックで開催されたICA(国際協同組合連盟)の理事会では日本政府の農協改革についての調査団の報告を承認し、日本の農協を支援するとの声明を採択、9日に正式に発表した。
◆農協の地域活動を評価
ICAは6月の理事会で、日本政府による農協改革の動きについて「連携・調査団」を構成して日本に派遣すること決め、メンバーの一人であるジャン・ルイ・バンセル理事が9月初めに来日した。
JAグループや協同組合関係者からのヒアリングとJAの現地調査を行ったバンセル氏は10月のICA理事会に調査報告書を提示すると話し、そこでは今回の日本政府の農協改革案に対し協同組合の原則である自治と独立への懸念、さらに協同組合が果たす地域社会への貢献などを強調する考えも示していた。
ICA理事会は連携・調査団の報告を「満場一致」で承認し「ICA理事会による日本政府の農協改革に関する声明」を採択した。
声明でICA理事会は「日本の農協運動の結束を解体しようとする法改正の動きに対し、大きな懸念」を表明した。そのうえで、こうした法改正によって農協が農業者や地域社会に提供しているサービスが縮小され「最終的には国民経済にとって逆効果となるだろう」と指摘している。
この指摘には、日本の農協改革が単協の事業を農業者(組合員)のためだけの農業関連事業に限定しようとしている点が背景にある。
その結果、信用・共済事業を行うことはできず、代理店化し、さらに生活関連事業なども含め総合事業が分離されるとの認識があるようだ。
こうした農協事業の縮小を声明では「最終的には国民経済にとって逆効果となる」と批判し、総合事業の意義を指摘した。そこには9月の現地視察で日本の農協が健康福祉活動や葬祭事業まで、広く地域住民に対して提供している姿への理解と評価がある。
それは協同組合の第7原則「地域社会への関与」に基づく事業であることを改めて強調した。同時に、こうした農協の事業を否定しその役割を撤廃しておきながら、一方でそれに替わる企業がこれらの事業を引き継がないという場合、その地域や地域住民に対して政府や自治体はどう責任を果たすのか、といった問題をも投げかけている。
(写真)
カナダのケベックで開かれたICA理事会
◆株式会社化への懸念
また、声明では、協同組合組織を「脱協同組合化し、株式会社にしようしているが、それは非合理的なプロセス」と批判した。
これは単協の自立を促すという前提に立つ、今回の改革の本質を突いたものだ。単協は自立した組織なのだから、連合会利用は自由選択にすべきだと迫られていく―。
しかし、ICAの議論のなかには、こうした単協の自由選択のためには、単協と取引しようとする一般企業に公平な競争の土俵を与えるべき、との理屈を導くとの考えがある。結局は、競争条件の公平化といった理屈に基づいて、連合会の株式会社化を迫る、との見方だ。
内部の議論では、連合会の株式会社化を“選択”できるようにすべきといった日本政府の改革案について、これは表向きのことであって、単協改革から始まる一連の改革案は、連合会を株式会社に転換するよう追い立てる“片道切符政策”に過ぎないという見方も出ているようだ。
こうした改革の本質をふまえて、協同組合組織が問題なのではなく、むしろ協同組合組織こそ農業をはじめ地域社会の問題を解決する能力を示してきたことをもっと発信する必要もありそうだ。
◆日本の農協を支援
このような認識のもとにICA理事会は「国連に認知された協同組合原則の番人」として現段階で考えられている日本の農協法改正は、自治と独立(第4原則)、民主制(第2原則)、地域社会への関与(第7原則)を侵害するものと明記した。とくに地域社会への関与という原則のもとに協同組合が広く公益活動を行っていることについて「日本以外の国では政府や議会が非常に肯定的に捉えている」と日本を厳しく批判した。
そのうえで声明は「日本の農協が組合員に役立つ必要な改革を自ら実施するための組織能力をきちんと考慮されるよう、日本のICA会員組織による政府や国際機関との対応を支援していく」と結んでいる。
ICAは今後も情報収集と分析を続け、必要に応じて協同組合の「自治」「民主制」、「地域社会への配慮」の原則の重要性を発信していくという。
【ICA声明(抜粋)】
「国際協同組合同盟は日本の農協と家族農業を脅かす提案に懸念を表明」(ケベック・シティ、2014年10月9日)
○カナダ・ケベックで開催された国際協同組合同盟(ICA)理事会は、日本政府の農協改革の動きを調査するために組織されたICA連携・調査団の報告を、満場一致で承認した。
○ICA理事会は、日本の農協運動の結束を解体しようとする法改正の動きに対し、大きな懸念を表明した。こうした法改正は、日本の農協が農業者や地域社会に提供しているサービスを縮小し、最終的には国民経済にとって逆効果となるだろう。特に、協同組合組織を「脱協同組合化」し株式会社にしようとしているが、それは非合理的なプロセスである。
○国連に認知された協同組合原則の「番人」としてICA理事会は、現段階で見通されている法改正の方向は、明らかに次の協同組合原則を侵害するものと考える。
▽自治と独立の原則(第4原則)。協同組合の自治と独立は、いかなる形の外部からの力によっても侵されるべきではない。▽民主制の原則(第2原則)。組合員はその活動を発展させるための最も良いやり方を自分たち自身で決めなければならない。
▽地域社会への関与の原則(第7原則)。協同組合は公共・公益のための活動を求められており、日本以外の国においては、政府や議会がこの原則を非常に肯定的にとらえている。
○ICAは、いかなる法改正においても、日本の農協が組合員に役立つ必要な改革を自ら実施するための組織能力をきちんと考慮されるよう、日本のICA会員組織による政府や国際機関との対応を支援していく。
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