増やせ「関係人口」-田園回帰の新たな潮流2017年11月17日
農村に移住しなくてもその地域に共感し関わりを持とうという人々を「関係人口」と位置づけ、農村と都市が循環、交流する社会をめざそうというシンポジウムを11月3日、全国町村会、(一財)地域活性化センターが東京都内で開いた。若者を中心に田園回帰が生まれているが、農村への関心を持ち、都市の未来の問題をも照らし出す「関係人口」の実態と、可能性などを話し合った。
◆関わりに価値見出す
シンポジウムのテーマは増やせ「関係人口」。では、関係人口とは何か、シンポジウムではコーディネーターも務めた明治大学の小田切徳美教授ら出席者はその概念と今後の課題などを整理した。
関係人口とは農村地域に関心と具体的な関わりを持つ人口のこと。定住人口ではないが、「観光人口」でもない。シンポジウムに参加した月刊「ソトコト」の指出一正編集長は「観光とは違って、その地域との関わりを楽しむ人たち。地域に変化を起こす可能性は高い」と話す。
(写真)都市・農村共生社会創造シンポジウム2017 in 東京の会場
(左端は明治大学の小田切徳美教授)
小田切教授は内閣府の世論調査を改めて分析し、2014年調査で20歳代の農村への移住願望は47.4%と過半に近づいていることや、30歳代の女性では、農村を子育てに適している地域と考える割合が55.6%となっているなど目に見える変化をあげた。
ただし、そうした人々がいきなり定住するわけではなく、小田切教授は「あたかも階段のように地域への関わりを深める段階性」を認める必要性を指摘する。農村地域への偶然の訪問をきっかけにそこに住む人々に惹かれ頻繁に訪問するようになり、特産品の購入などにとどまらずボランティア活動などに参加、その後、地域にも住まいを持つ二地域居住へと進展するなどの、階段を上りながら地域への関わりを深める。
シンポジウムにはフリーアナウンサーで、バンド「シャ乱Q」のドラマー、まことさんが夫の富永美樹さんも参加したが、アウトドア好きが高じて富士山麓に山荘を建て二地域居住を実践している。最近はテレビ番組の企画で沼津市戸田でも拠点を持ち地域と交流をしている。
富永さんは「心と心のつながり、支え合いが自分の力になる」と話し、戸田では漁師さんから獲れた魚のお裾分けをもらうことがしばしばあるが「貰うのも義理だよ」と言われるような出会いがあったことなどを紹介し「住んでいなくても帰る場所ができたと実感しています」などと話した。
◆生き方自己決定が魅力
小田切教授はこうした事例から「関わり価値」の発生を指摘する。関わりを持つこと自体に価値を見出す人々が農村、都市の交流を生み出すのではという。それは「移住を前提としない移動」でもある。
一方、農村はこうした問題にどう関わればいいのか。地方の人口動態を分析し、離島や過疎の山間地域で今、30歳代の女性など増えていることなどの事実を指摘し、「『1%』人口が増え続ければ過疎から脱却できる」などと提唱している(一社)持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩所長もシンポに参加した。藤山氏は地域資源を使って食やエネルギーなど循環型の社会をつくろうとするなど「自分たちはこんな暮らしがしたいと選び取っている地域が、外の地域から選ばれている」と、ものまねではない自己決定ができる地域であることが必要だと話した。その結果、自分たちの地域は食料を地域の人口以上に十分に生み出していることなどに気づき、それを「移住するなら、先着○○名様」などと宣言をするといった、打って出る発想にも繋げては、という。こうした発想を農村どうしが学びあい、強み、弱みを見出していくのも「関係人口の広がり」ととらえるべきで、人、地域の競争ではなく共生を軸にした循環型社会をめざそうと呼びかけた。
(写真)藤山浩・(一社)持続可能な地域社会総合研究所所長
◆弱みも「関わりしろ」
指出氏は地域の弱み、痛みも含めて、地域に「でこぼこ」があることが「関わりしろ」のある地域ではないかと豊富な現場取材から指摘し、若者はそこに自分でも何かできるという気持ちを持ち、さらにいえば「その場所でないと成立しない関係性」をつくろうとしていると話した。しばしばこうした傾向について、"地域の再発見"などというが、指出氏は「再発見ではなく、若者にとってはあくまでも"発見"です」と今起きている潮流の理解の仕方も強調した。
それらの具体的な事例として広島県での山村の廃校再建のための募金に都市住民から4000万円近くも集まったことなどをあげ「お金で田舎との"関係"を買う時代にもなったのでは」などと提起した。
シンポジウムにはそのほか、東京出身で新潟県内の老舗米屋との関わりから移住し現在は地域づくりに関わっている井上有紀さん、学生時代の農村交流体験をきっかけに現在は墨田区で農村との交流活動などを行っている松浦伸也さんも参加した。井上さんは、農村から何かを提供してくれるのではなく、自分と一緒に考えてほしいという人たちとの出会いがあったことがきっかけで「関わり続ける」ことになったといい、松浦さんは「100年先の森を語るような本当におもしろい人たち」との出会いが農村通いを続けることになったなどと話した。

(写真)左から井上有紀さん(にいがたイナカレッジ事務局メンバー)、松浦伸也さん(株式会社ぼんぷ代表)、富永美樹さん(フリーアナウンサー)、指出一正さん(月刊ソトコト編集長)
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