来年6月末に米在庫大幅増 250万t超も-JA全中試算2021年4月7日
JA全中が3月末に明らかにした今後の米の需給見通し試算によると、2021(令和4)6月末の民間在庫量は220万t~253万tとなり、国の見通し(195万t~200万t)より大幅に積み上がる深刻な見通しだ。JA全中は「相当な需給緩和が懸念される」として飼料用米への転換促進などの取り組みが必要だとしている。
飼料用米など転換必要
米の需要量は年間10万t減少する傾向にあるが、それに加えて新型コロナウイルス感染症の拡大による需要減もある。JA全中では今年6月までの需要量を1月に再発令された緊急事態宣言の影響もふまえて、さらに10万t減と見込んで試算した。
それよると、2020(令和2)年/21(令和3)年の需要量は、前年度の主食用需要量714万tから20万t減の694万t~711万tとなる。その結果、今年6月末の民間在庫量は国の見通しより5万t~16万t増となる212万t~228万tとの見込みとなった。
一方、2021(令和3)年産の生産量は各県で設定した生産の目安から積み上げた。それによると36万tの削減が必要なところ20万t削減にとどまっていることから、2020(令和2)年産作況が100だった場合の生産量729万tから▲20万tの709万tとした。
そのうえで2021(令和3)年/22(令和4)年の需要量を長期トレンドの需要減10万tをふまえて684万t~701万tとすると、22(令和4)年6月末の民間在庫量は220万t~253万tと250万tを超える見込みとなった。国の需給見通しでは195万t~200万tとしているが、全中試算では過去にない水準の在庫が積み上がる見込みとなった。
下落し始めた米価
2020(令和2)年産米の出来秋からの年産平均価格(全銘柄平均の相対取引価格)は60kg1万4944円で前年産にくらべて▲772円と下落している。下落幅は銘柄によって異なり、2000円以上下落しているものもある。全中では在庫量が200万tを超えて米価が下落した平成25年産米と同様に推移していくと推定しており。それによると8月には60kg1万2500円程度(包装代・消費税相当額を控除した価格)になると見込んでいる。在庫の過剰による影響は、今年の出来秋だけでなく来年の秋まで及ぶ。
適正な需給環境にするため飼料用米等への転換を推進することが必要だ。JAグループでは3月3日に水田農業対策委員会(委員長:伊藤孝邦JA富山中央会会長)を開催し飼料用米などへさらなる作付転換が必要だ確認した。そのために生産者に主食用米よりも飼料用米のほうが手取りがいいことを示していくことが必要だ。
たとえば、福島県では「昨年の主食用米面積の1割程度を飼料用米に転換して下さい」と呼びかけるチラシを作成し、想定される手取り試算を示している。それによると主食用が価格下落し60kg1万2500円であれば10a当たり手取りは単収9俵で9万4500円となることを提示。
一方、飼料用米は単収9俵でも流通経費を考えると販売収入はないが、水田活用交付金10a8万円のほか、複数年契約(同1万2000円)や大規模加算(同2500円)など産地交付金を加えれば10aあたり手取りは9万4500円になる。さらに地域農業再生協議会からの支援もあることをチラシでは説明している。
ただし、JAグループだけの取り組みでは過去最大規模となる6万7000haの作付け転換の実現は難しい。水田活用米穀(非主食用米)の全農シェアは47~48%となっており、全農以外の取り組みがなければ飼料用米の大幅な転換はできない。JAグループは飼料用米の生産拡大を進めるために、飼料用米がもっとも優位な手取水準となるような産地交付金や県単独の助成確保を要請している。また、全農は飼料用米の需要の多くが畜産地帯の九州や北海道であることから遠隔地輸送網の整備や、港湾サイロなどの確保、政府所有米穀の飼料用販売と国産飼料用米の販売調整にも取り組んでいる。
倉庫ひっ迫 根本議論を
作付け転換が一層必要になっているのは、2年産の主食用米販売が停滞しているからだ。
全農の2年産米の販売計画は214万tと前年比プラス11万t(105%)だが、2月末の販売実績は57万tで▲9万t(86%)となっている。かりにこの86%の販売進度で推移した場合、10月末の持ち越し在庫は58万tとなると試算している。このうち20万tは昨年秋に周年供給事業を活用して11月以降に持ち越して販売することを決めて保管している分だ。
全農によると精力的に販売推進しても契約がまったく進まない状況だという。このため現段階で米を保管する倉庫がすでにひっ迫しており、このままでは21年産米の保管場所が大幅に不足することも想定されるという。
3年産米の作付け前に2年産米の販売が進まず、価格下落と深刻な在庫増となっている。このため2年産米の販売環境を変える買入れ対策や古米となった2年産米への対策が必要だとの声も出てきた。
また、現在の制度では主食用米だけ作付けしても米価が下落し収入が減少してもナラシ対策などの支援受けることができるため飼料用米への転換など「需給調整へのインセンティブがない」との声も出ており、作付け前の入口対策だけで米生産の展望が開けるのか、需給調整のあり方と、水田農業政策の抜本的な見直しの議論も今後、必要になる。
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