【酪農危機】緊急の直接支払で支援を 冨士重夫蔵王酪農センター理事長が講演2023年6月15日
(一財)蔵王酪農センターの理事長で元JA全中専務の冨士重夫氏は6月13日、農政ジャーナリストの会が開いた「酪農危機」をテーマした研究会で講演した。粗飼料の割合が3分の2を占める酪農経営に対し高騰する輸入粗飼料への支援ができないなら、緊急的に数年間でも直接支払を実施して救済することが必要だと訴えた。
冨士重夫 蔵王酪農センター理事長
蔵王酪農センターは経産牛100頭と日本の平均的規模の酪農経営でその他、自家育成牛40頭を飼養している。
冨士氏によると2021年に比べて22年は飼料費が4000万円上昇、光熱動力費と併せて4200万円のコストアップとなった。これに対して配合飼料価格高騰に対する補てん金など支援金は1200万円のため、実質コスト増大分は3000万円となっているという。
補てんの仕組みがある配合飼料の割合は金額ベースで34%。つまり、購入粗飼料の割合が3分の2を占めている。自家牧草地70haで牧草を生産しているが、それでも粗飼料自給率は45%、輸入乾牧草が45%占める。
冨士氏は「酪農は配合飼料より粗飼料のウェイトが高く、補てんによる救済効果が小さい」と指摘する。
一方、同センターの生乳出荷量は月約100tのため乳価が1㎏当たり10円引き上げられると乳代は100万円増えることになる。乳価は昨年11月に飲用向け、今年4月から加工向けが引き上げられ、さらに8月から飲用向け、加工向けのプール乳価で1㎏約16円から17円引き上げられるとみる。しかし、3000万円の年間実質コスト増大分を補うには同30円近くの引き上げが必要なことからすると半分程度の補てんにしかならない。
対策として粗飼料自給率の向上があるが、北海道では90%だが、都府県は37%。しかも土地条件、気象条件、品質格差を考えると、輸入乾牧草と代替する余地はわずかしかないという。ホールクロップサーレージ(WCS)も酪農は子実のない青刈り稲が必要だが、酪農向けのWCS生産は進んでいない。
冨士氏は粗飼料自給率100%を政策目標としているが実態は厳しく、飼料高騰が乳価に反映されるまでのタイムラグで赤字の累増が長期にわたること指摘した。
こうしたなか経営政策の方向として、輸入粗飼料への補てんはできないのであれば、コスト増大に見合う乳価水準が実現できるまで緊急的に3~5年の時限措置として、都府県ごとの実態に即した直接支払い(酪農版マルキン)を導入して救済することを提起した。
また、粗飼料自給率の向上に向けて酪農用WCSの後作にタンパク質やミネラル分を補う飼料用大豆を水田で作付ける体系を確立するなど、水田総合利用を基本計画や基本法に位置づけるべきだとする。
さらに中長期的には耕作放棄地など条件不利農地を有効活用するため、農地バンクによる一括借り上げと平坦地化する土地改良を行い、粗飼料生産と販売を担う地域ごとの組織を県、市町村、JAが一体となって実施することも提唱した。
そのほか、人口減少を踏まえて、飲用仕向けより乳製品をメインとし、とくにナチュラルチーズを戦略的重要品目に位置づけるとともに、多様な乳製品の用途ごとに不足払いを行う乳価制度に転換すべきだという。
冨士氏は粗飼料生産への水田活用など酪農の維持は耕種部門にとっても重要であり、また、政府が輸出の目玉品目とする和牛の3分の2は、酪農経営から産まれていることを指摘、日本農業全体を視野に入れた酪農支援が求められていると話した。
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
【石破首相退陣に思う】戦後80年の歴史認識 最後に示せ 社民党党首 福島みずほ参議院議員2025年9月16日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(6)2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
「JA共済アプリ」が国際的デザイン賞「Red Dot Design Award2025」受賞 国内の共済団体・保険会社として初 JA共済連2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
公式キャラ「トゥンクトゥンク」が大阪万博「ミャクミャク」と初コラボ商品 国際園芸博覧会協会2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日