食と農を基軸 地域に根ざす:改正農協法4月1日施行2016年4月1日
政府と与党での「農協改革」の議論を経て、昨年8月に国会で成立した改正農協法が4月1日に施行される。一方、JAグループは昨年10月の第27回JA全国大会で「農業者の所得増大」、「農業生産の拡大」、「地域の活性化」の3つを基本目標とした創造的自己改革に取り組むことを決議したが、新年度はその実践の初年度でもある。ここでは改めて農協法改正のポイントと今後のスケジュールなどを整理した。
正・准組合員の総力結集 自己改革で真価を高める
◆ 所得の増大へ 目的規定の変更
農林水産省が強調する農協改革の基本的な考え方は「農協組織における主役は農業者、次いで地域農協」というものだ。
そのためにJAが農業者の所得向上に全力投球できるようにし、中央会・連合会はそのJAを適切にサポートするよう法改正した、とする。
4月から施行される改正法のもっとも大きな事項はJA(および連合会)の組織・事業運営に関する目的規定の変更である。
改正前の「営利を目的として事業を行ってはならない」との規定(改正前8条)を削除し、「組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とする」という条項は維持しつつ、「農業所得の増大に最大限の配慮」、「高い収益性を実現し...事業から生じた収益をもって...投資又は事業利用分量配当に充てるよう努めなければならないものとする」と変更された。
この規定が准組合員の利用規制につながるとの懸念もあったが国会審議ではそれを否定する答弁がなされている。
そのほか「組合員の自主的組織としての運営確保」として▽組合員への利用強制の禁止、▽専属利用契約規定の廃止、▽配当の一部を出資させる回転出資金の廃止を規定する。
農協法・事業の目的:組合員に最大奉仕/農業所得の増大に最大限配慮
●「農協改革」が目指す農業・農村所得の増大に向けて、農協法第7条にJAや連合会の事業目的として、従来の「組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とする」に加えて、「農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない」ことが明記されました。
●また、「営利を目的としてその事業を行ってはならない」との現行の条文は、農協は利益を上げてはならないといった誤解を助長しかねないとの声がありました。このため、販売事業などから高い収益を上げ、「事業の成長発展を図るための投資又は事業利用分量配当に充てるよう努めなければならない」とされました。
●本規定が准組合員の利用規則に繋がるとの懸念がありましたが、国会審議のなかで、明確にそのようなことはないとの政府答弁がなされています。
理事構成:過半が認定農業者等に/例外・経過措置も
●JAの理事構成については、原則として過半数が「認定農業者または農産物販売・法人の経営などに関し実践的な能力を有する者」でなければならないとされました。
●経営管理委員会制度を導入するJAは、経営管理委員会の過半数が原則として認定農業者でなければならないとされました。
●ただし、JA管内の認定農業者が少ない場合などは、例外措置が省令で措置されます。
●経過措置として、これらの理事の要件規定は、法律施行後3年(平成31年3月末まで)以降で、最初に開かれる通常総(代)会までは適用しないものとされました。
准組合員の利用規制:規制見送り/5年間調査の上、その在り方について結論
●准組合員の利用規則の在り方について、法律施行日から5年間、正・准組合員の利用実態や農協改革の実行状況の調査を行った上で検討し、規制を導入するかどうかも含めて結論を出すことになりました。
●准組合員の利用規則の検討や調査にあたっては、法第1条の目的(農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上)やJAが地域の重要なインフラとして果たしている役割、関係者の意向を十分ふまえることとされています。
(第27回JA全国大会決議の説明資料より)

(表)改正農協法に係る今後のスケジュール
◆理事構成は3年後変更
JAの組織について、その一部を株式会社や生協、一般法人などに組織変更ができる規定も盛り込まれる(信用事業と共済事業は除く)。あくまで組合員との話し合いで決めることができるとする選択制の規定であり、地域に果たす総合農協としてのJAの役割と特性を考えることが重要となる。
また、JA全農も選択によって農協出資の株式会社に組織変更できるほか、JA厚生連も選択すれば社会医療法人に組織変更できる。農水省の説明によると、現行では厚生連病院には員外利用規制がかかっているが組織変更すれば公的医療機関としての地域に必要な医療サービスを提供できるとする。ただし、医療機関である以上、組織形態にかかわらず、そもそも患者を拒否できない医療法の規定のほうが原則との指摘もある。
一方、31年4月以降の通常総会から適応されるのがJAの理事構成の見直し規定だ。改正農協法では、農産物販売等を積極的に行い農業者にメリットを出せるようにするためということから、理事・経営管理委員の過半数を原則として認定農業者や農産物販売等のプロとすることを求める規定を置く。
具体的な理事の要件については、参議院農林水産委員会の付帯決議に「関係者の意見をふまえ」と盛り込まれ、JAグループの意見もふまえた省令が示された。
認定農業者数が理事構成規定を満たさない場合に例外規定を設け、認定農業者に準じる者を認める。果樹部会の生産部会長、集落営農組織の役員なども理事として認める。これを受け各JA段階で役員選任基準の見直しを行っている。
◆中央会等変更 31年9月末に
中央会制度の見直しも行われる。名目は「地域農協の自由な経済活動を制約せず適切にサポートする」というもの。中央会が単位(地域)農協の自由な経営を阻害などしていないという声がほとんどのなか、▽全国農協中央会を特別認可法人から一般社団法人に移行する、▽農協に対する全中監査の義務づけを廃止し公認会計士監査を義務づける、▽都道府県中央会を特別認可法人から農協連合会に移行する、とする改正を行う。
いずれも平成31年9月までは現行制度が認められるが10月からは組織形態を移行しなければならない。
全中の一般社団法人への移行、県中央会の県連合会への移行についてはJAグループ内で協議を続けていく。全国大会議案では30年上期ごろまでに県・全国段階で具体的に検討する予定。その後、31年9月までに中央会総会で組織変更することを特別決議し、農林水産大臣の許可を受けることになる。全中は一般社団法人への組織変更を届け出る。(参考図3面下)
◆准組合員問題 5年後までに評価
改正農協法には、准組合員の利用規制を検討することが盛り込まれている。検討事項を法律に期限を区切って盛り込むのは異例のことだろう。
准組合員の利用規制について「施行日から5年を経過する日までの間、正組合員及び准組合員の組合の事業の利用の状況並びに改革の実施状況についての調査を行い、検討を加えて結論を得る」と明記されている。
国会の付帯決議ではJAが地域で果たしている重要なインフラとしての役割を十分にふまえることとした。JAグループは自己改革を通じて、地域農業と地域でのくらしに不可欠であり、住民もまた参加参画できる協同組合組織であることの理解をしっかり広めていくことが求められている。
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