農政:どうするのか?この国の進路
【新政権発足・高市政権を考える】緊張する日中関係 時代の変化を正確に把握しているか? 元外務次官 薮中三十二氏2025年12月3日
日本初の女性総理となった高市政権が発足し、世論調査でも8割前後の支持率と人気が高い。高市早苗首相は就任直後から重要な外交日程もこなしてきた。しかし、国会での台湾有事を巡る答弁を巡って、日中関係が急速に悪化している。中国とは農畜産物や水産物の貿易が大きく、影響が強く懸念されている。元外務省事務次官で、大阪大学特任教授の薮中三十二氏に問題の背景や今後の日本外交の課題を指摘してもらった。
元外務次官 薮中三十二氏
高市首相の答弁と中国の戦狼外交
11月7日の衆議院予算委員会において、台湾海峡の緊張が続いているとして、存立危機事態に関して質問されたのに対し、高市首相は、中国が海上封鎖を行い、米国がその解除のために行動する、その過程で武力行使を伴う場合は、法に定める存立危機事態の要件に該当する可能性が高いと考えると答えた。この首相答弁に対し、中国の薛剣駐大阪総領事が「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と自身のXに投稿した。中国では近年、戦狼外交などと名付けて激しく自己の立場を主張する外交がもてはやされたが、この投稿もその一環であろう。
これほどお粗末な外交はなく、大阪総領事の投稿に対しては、断固、中国側に謝罪を求めるべきである。この総領事発言に加えて、日中アジア局長協議の際の中国側アジア局長の振る舞いも顰蹙(ひんしゅく)を買っており、日本では中国への反感がますます強まっている。一方、中国側では、高市首相発言の取り消しを求めたが、日本がそれに応じないとして中国人の訪日自粛や水産物の輸入を事実上停止するなどの措置をとってきており、日中間で険しい対立が続いている。
台湾問題は核心の中の核心
高市政権発足直後は、日中関係も上々の滑り出しを見せていた。おそらく中国側は首相就任以前の発言などから、高市氏に対し警戒感を持っていたと思われるが、高市首相の所信表明が穏当なものであったため、一定の評価を行い、首相就任直後の10月31日に習近平国家主席が高市首相との日中首脳会談に応じたのだった。
その首脳会談においても、建設的・安定的な日中関係を築いていくことで意見の一致を見た。それからわずか1週間後の高市発言である。中国としては習近平国家主席の面子が潰されたという思いもあっただろうし、核心の中の核心と位置付ける台湾に関し、日本が自衛隊の出動もありうると明言したため、強烈に反発したことは容易に想像できる展開だった。
米中間の劇的な関係改善
この日中間の対立は、今回、米国を巻き込む国際的な事態へと発展した。中国の習近平国家主席がトランプ大統領と電話会談を行い、台湾問題の重要性を改めて強調、それを受けて、トランプ大統領がすぐさま高市首相に電話をかけるという異例の展開を見せた。この背景には米中間の劇的な関係改善があった。
トランプ大統領は10月30日、習近平国家主席と会談し、両国の関係をG2関係とまで呼び、米中関係は極めて強固だ、自分と習近平氏との関係は良好で、来年4月には訪中する、そして習近平氏が年の後半に国賓として訪米すると発表したのだった。こうした日程を早々と発表するのは外交上も異例のことであり、いかにトランプ大統領が中国との関係を重視しているかを物語るものだった。
時代の変化を正確に把握していない
日本はこの展開を冷徹に頭に叩き込む必要がある。日本では、ここ数年、台湾有事が2027年までに起きるといった見通しを強調する専門家が多く、台湾有事は日本有事だという指摘もなされてきた。高市首相の発言はそうしたこれまでの日本国内での議論の延長線上から、ついポロリと出たのかもしれない。
しかし、台湾を巡る事態は大きく変化したことを認識する必要がある。台湾有事議論が盛んになったのはバイデン前大統領時代のことだった。そしてバイデン氏自身、中国が武力侵攻すれば、米国が軍事的に関与すると発言した。そうなれば、日本も米国と歩調を合わせる必要が出てくるといった指摘が相次いだのだった。
しかし、時代は変わった。トランプ大統領は中国との関係を重視し、台湾については冷たい発言が続き、米国が軍事的に関与するとは決して言わず、むしろその可能性は極めて低いと見ざるを得ない。日本が台湾に関し存立危機事態に該当すると言う時には、法律の建前から言って、米国が先に軍事的な行動をとっていることが大前提である。その米国が軍事的に関与する可能性が極めて低い時に、日本が存立危機事態に該当することがありうるなどと発言することは、時代の変化を正確に把握していないと言わざるを得ない。
前向きな関係構築への発信継続を
今後の展開であるが、中国もトランプ氏に働きかけ、トランプ氏から高市首相への連絡がなされたことを考慮すると、直ちに過激な行動に走ることはないのではないか。そこで日本としては、高市首相が発言の撤回を行う必要はないが、中国との前向きな関係の構築に向けての発信を続けていくのが正解であろう。
日中双方において、国民レベルで相手への反感感情が盛り上がり、政府がそうした世論に押されて非難合戦や制裁行動をとることは互いに厳に慎まなくてはならない。米国が間に入ったことは事態鎮静化の重しとなると思われるが、日本としては、自らの見識に立ち、堂々と中国に海洋ルールを守るべしと主張しつつ、東アジアの平和を守るため、中国との建設的・安定的な関係の構築に努めるべきである。外交は決して好き嫌いで行ってはならず、あくまで国益実現のため冷静に行動することが何より重要である。
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