農政 特集詳細

特集:日本農業の未来を創る2013

2013.01.07 
【対談】「日本のモノづくりのDNAは農業に」  坂根正弘・コマツ取締役会長―加藤一郎・ジュリス・キャタリスト代表、前全農代表理事専務一覧へ

・若い人が「やってみよう」と思わなければ成長しない
・安心して長く働ける環境になれば子どもが増える
・農業も産業界との連携、地域社会との連携が鍵
・縦割りの弊害を打破せよ

 日本の多くの企業が地方の工場を閉鎖し、新興国へシフトしている。そうしたなか、建設機械の世界的メーカーであるコマツは、エンジンなどの基幹部品は国内工場で集中生産して世界各地の工場に供給する体制を維持している。また東京本社をスリム化し、同社発祥の地である石川県に本社機能の一部を移転している。坂根正弘同社会長は「地方に軸足をおき、地元回帰で強くなる。」さらに「農業だけではなくコマツのような製造業、大学などの研究機関、地方自治体が一体となって地域振興をはかり、若い人が魅力を感じる地方にならないと活性化はできない」と常に語っている。そこで、日本農業の未来を創るために、いま何が必要かを語り合った。

地方活性化は農林業と二次産業や研究機関が一体となることで
若い人が魅力を感じられる地域の特色を

◆若い人が「やってみよう」と思わなければ成長しない

 加藤 農業というと農業者の利害が強調される報道となりますが、農業は食料生産であり、食料生産は如何にあるべきかは、全国民的な課題です。安心、安全で美味しい農畜産物を作り出すには、地方が元気で活性化されていないとできません。
坂根正弘・コマツ取締役会長 坂根 農業に限らず私たちのような企業でも、若い人たちが“やってみよう”と思わない限り絶対に成長しません。そういう意味で農業をいま若い人がやってみようと思わない。若い人にどうやったら魅力を持ってもらえるかが大事です。
 しかし、いきなり農業といっても若い人はおそらく振り向かない。地方が私たちのような二次産業も含めて元気になり、そのなかに一次産業もあり、若い人が田舎に残ってもいいなと思える社会ができないと、農業だって元気にはならない。
 この国のモノづくりの強さのベースにあるDNAは農業です。みんなのチームワークでやろうという面と、何かするときに非常にきめ細かく、というのが日本のモノづくりのベースですが、この特性のDNAは農業です。だから農業が廃れたらこの国のモノづくりのDNAも失われていきます。コマツは米国、中国にも工場を持っていますが、多くは農村地帯の真中にあります。農村地帯とモノづくりはDNAでリンクしたところがあります。
 そういう視点が大事ですし、そうでないと農業の復活もない、これが私の考えの大前提です。

◆安心して長く働ける環境になれば子どもが増える

加藤一郎・ジュリス・キャタリスト代表、前全農代表理事専務 加藤 閉塞感のある日本経済のなかで、多くの企業は新興国へ生産工場をシフトし始めました。坂根会長は金沢大学で「地方に軸足をおき続け、地元回帰で強くなる」と講演されたと聞きました。
 坂根 私はこの国は深刻な問題を三つ抱えていると考えています。
 一つは、東京一極集中で、地方の二次産業も一次産業もみんな疲弊しているという社会構造の問題です。二つ目は産業構造の問題です。つまりどんな業界も多くのプレイヤーが消耗戦を続け、価格が上がらないことです。三つめが、年に一回、首相が変わるというような選挙制度を含めた立法・行政の構造問題です。
 今日の話は社会構造の問題ですが、私は社会構造だけでこの国が立て直せるとも思っていません。しかし、社会構造の問題についても“まず、隗より始めよ”で、コマツの発祥地・石川県と私の出身地である島根県で実践しているわけです。
 コマツは石川県でスタートした企業です。しかし石川県でモノをつくっても輸出するために神戸港や横浜港へ運ばなければならないので太平洋岸の大阪と北関東に工場を建てました。石川県企業のイメージが強いと良い人材が確保できないこともありました。しかし、石川県から若者がどんどん都会に出て行ってしまう中、私はこの二つが問題なら解決できるはずだと思いました。石川県には釜山港につながる金沢港があり、この金沢港付近に新工場を建設することにしました。そうすると地元が金沢港を深くしてくれ、ここから出荷できるようになりました。そして購買本部や教育部など本社機能の一部を石川に移しできるだけスリム化し、“地方回帰”を行ってきました。
 これは国全体の課題である地方活性化を表す象徴する例だと考えています。その象徴的な数字が子どもの数です。コマツの東京の既婚女性の子どもの数は0.7人ですが、石川では1.9人です。太平洋岸の大阪や北関東の工場では日本の平均である1.2人から1.5人です。石川に管理職の女性がいますが、この人たちの平均は2.6人です。長く働ける環境だと思えば、3世代が近くに住んでいますから、子どもを生むことができるということです。

◆農業も産業界との連携、地域社会との連携が鍵

 加藤 坂根会長は日本企業の強みは連携にあり、連携を取ることで、技術が複合化すればするほど秀でたものができる。コマツの強みはモノづくりで、“ダントツ商品”を作れと言われています。農業も同じだと思います。マスコミは産業界と農業界の対立の[構図]を作りたがります。農業も産業界との連携、地域社会との連携が鍵で、そのことが地産地消の原点であり、農畜産物ブランド化につながります。地域のなかで農業が生き残るには農業者だけの力ではできません。
 坂根 コマツは二次産業に生きていますが、目指しているのは6次産業です。3Kの代表的な職場として大企業は鋳物をみなアウトソーシングしましたが、コマツには富山に鋳物工場があり、コマツ商品の競争力の大きな要素になっています。これはいわば一次産業です。一方、チリやオーストラリアの鉱山ではコントロールセンターの指示に従って、コマツのダンプトラックが無人で稼働しています。これはもう二次産業の域ではありません。つまり、一次・二次・三次の6次産業化だといえます。
 農業も、一次、二次、三次まで一気通貫でいかないと付加価値が出てこないと思います。そうすると農業だけが地方にあったって、そういう発展の仕方にはならない。私たちのような企業が地方で強さを発揮するためにも、そばに農業の強さがあることが必要です。石川の工場で働いている人の中にも兼業の方がいます。だから両方を一体で考えないと、モノづくりのベースが崩れてしまいます。そういう意味で地方活性化は農業だけでもダメだし、私たちだけでもダメだといえます。

◆縦割りの弊害を打破せよ

 加藤 我が国の行政は「中央集権」型で、中央集権は全国一律になりがちです。しかし、農業は地域で気象条件も異なり、産地間競争のなかで生き抜かなければなりません。はたして、そこに中央集権型で成長戦略が生まれるのでしょうか。
 坂根 私は出身地の島根県浜田市の林業を手伝っています。農業や林業など一次産業をみごとに復活させたドイツのコンサルタントに浜田市の林業を見てもらったところ、彼らは、材木の価格どうこうだけではなく、間伐材はコスト的に合わなくても社会的にバイオマスとして有効活用することを含めて、そのトータルが林業だと指摘されました。
 加藤 本質的な指摘だと思います。我が国は行政も研究機関もすべて縦割りになっているために、縦割りの弊害がありますね。
 坂根 浜田の場合、最初は森林組合だけの話でしたが、バイオマスの話が出てくると森林組合だけではなく市や県も農林関係部署以外の人も入り広がってくるわけです」
 加藤 日本の社会のあり方の問題でもあると思いますね。
 坂根 全国一律主義の弊害はいろいろな分野で限界にきています。
 加藤 縦割りの弊害を打破せよですね。

◆中国問題も中央政府の動きだけではなく、地方政府の関係を重視する

 加藤 コマツは世界で事業を展開されていますが、今後の世界の経済をどうみておられますか。とくに隣国の中国についてのお考えをお聞かせください。
 坂根 昨年の夏から尖閣諸島の領土問題から日中関係がおかしくなったという問題もありますが、これと一般経済の話、つまりリーマンショック以降、世界経済を中国一か国で引っ張ってきましたが、さすがに長続きせず2011年5月頃から落ち込んできているという大きな経済の動きとは、分けて考える必要があります。
 大きな経済の動きは、12年の9月に底を打って少し回復しています。つまり、中国経済は尖閣問題が出てきたころから戻ってきているということです。日本から見ていると中央政府の話が中心ですが、企業が事業を行う上で関係が深いのは地方政府です。地方政府は自分のところの税収と雇用問題で必死ですから、日本企業にも協力的です。今後も中国から引き上げるつもりはありません。
 加藤 隣国である中国は我が国と似ている食文化があり、両国の農業を相互理解していくことが官民にとって重要なことと思います。

◆魁より始めよ

 加藤 最後に日本の農家やJAグループへのメッセージをお願いします。
 坂根 農業は日本のモノづくりのベースのDNAに脈々とつながっていると考えています。農業が衰退するということは、モノづくり産業もタイムラグはあると思いますが衰退していく宿命にあると思っています。だから農業を衰退させてはいけないという思いが非常に強くあります。
 しかし、農業が強くなるには、地方が私たちのような二次産業や大学などの研究機関を含めて、一緒になってその地方の特色をもって強くなっていくはずです。そのために、私たちも“これなら絶対にコマツだ”という特色をめざしてきたわけで、農業・農産品でもこの地域はこれだという特色をもち、大学や研究機関も一緒になって大きな戦略をもつことではないかと考えています。これは農業にかかわる人だけではなく地方自治体も一緒になって考えていくことです。
 そうすることで、若い人たちが、都会ではなく地方の方が、生活が豊かだなと思い、それで変わってくると思います。そのためには、国などに文句だけいっていてもダメで、具体的に始めなければいけません。だから私はいま、石川と浜田で始めています。みんながそうやって“まず、隗より始めよ”で始めないと変わらないのではないでしょうか。経団連でも私はそういう話をしています。
 中央で話をすると経済界とJAは対立しているようにみえますが、いざ地方へ行って始めれば、JAと対立なんかしていられないはずです。みんなでどう始めるかです。
 加藤 お忙しいなか貴重なお話をありがとうございました。


対談を終えて
 1984年に全農はフロリダ州のリン鉱石鉱山を買収し、全農燐鉱(株)を設立した。私は同年に同社の副社長として出向し、米国法人と合弁して採掘事業に従事した。当時の採掘機械はキャタピラー製の独占市場だったが、故障が少なく廉価であるコマツ製のブルドーザーを米国の燐鉱石鉱山では初めてを導入した。肥料の三大要素の米国産リン酸原料はコマツの機械が使われて日本に輸入されていたという事実を知る人は少ないと思う。コマツは経営理念の中核をなす現場主義、顧客重視を掲げ、コスト構造を明らかにし、事実を徹底して可視化する構造改革に取り組んできた。一次産業と称される農業もモノづくりであり、製造業が代表する産業界と、そもそも対立する構図自体が作られた虚構である。農業関係者も産業界から学ぶべきことは学び、地方の活性化をキーワードとした農商工連携の中に日本農業の未来を見つめ、産業界と対立の構図から対話と協調の視点で問い直す時代がきたと言えるのはないか。
加藤一郎

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