農政:緊急特集 TPP大筋合意―どうする日本の農業
「国のかたち」決める国民的議論を 2015年10月27日
パルシステム生活協同組合連合会代表理事理事長石田敦史
多くの国民や生産者が反対していたにもかかわらず、米国アトランタで行われていたTPP交渉が10月5日に大筋合意した。大筋合意への意見や今後の日本農業の在り方などについて、多くのご意見が寄せられている。これらのご意見を逐次掲載しているが、今回はパルシステム生協連の石田敦史理事長のご意見を掲載する。
◆歯止めない自由貿易を懸念する
生活協同組合で構成するパルシステムグループは「心豊かなくらしと共生の社会を創ります」を理念として掲げ、助け合い精神を基本として一人ひとりが安心してくらせる社会づくりに取り組んでいる。
自由貿易交渉をめぐってはTPP以前から、その理念と活動に相反するものと考え、一貫して反対の立場を示してきた。産直によって生産者と消費者がつながり日本の食料自給率向上をめざしてきた視点から、政府への政策提言や社会への情報発信も行っている。
国内農業の保護をめぐっては、政府もさまざまな対策を打ち出そうとしている。しかし、産地と40年以上にわたって産直活動に取り組んできた立場からすれば、歯止めのない自由貿易は、国内農業はおろか地域社会の存続を脅かしかねないという懸念が絶えない。
上記の考えから2007年には日豪EPA(経済連携協定)に反対する見解を発表し、農産分野における関税撤廃に対する強い懸念を社会へ訴えた。この間、北海道庁はじめ道内の農業、経済、市民団体による「オール北海道」と共同で請願行動などにも取り組んでいる。
◆国民の「知る権利」侵す大筋合意
TPPについても、2010年の当時の管直人首相による交渉参加発表直後から、交渉参加に慎重な姿勢を求めた。その後、交渉内容を非公開とする秘密主義や、農業に限らず医療や労働など幅広い分野へ深刻な影響をおよぼす可能性が判明し、以来、一貫して反対の意思を示している。
参加国政府はこのほど、大筋合意を発表した。交渉内容を公開せず国民的な議論をさせないままの合意は、民主主義国家によるものとは到底いえず、憲法で定める「知る権利」を侵す。さらに、国民皆保険制度や医療、国内農業などの崩壊は、憲法が保証する「幸福追求権」や「生活権」の侵害にもあたると考える。
パルシステムは「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」にも賛同し、生産者や市民と連携しながら活動を応援している。
◆歴史や風土を無視する「非関税障壁」
さらにTPPは、貿易にとどまらずサービスや知的財産権などをめぐるルールや制度も対象としている。また、各界から危惧が指摘されているISDS条項は、多国籍企業が不当な差別により損害を受けた際、政府を相手に賠償を訴えることがきるというものだ。ここにある「不当な差別」は「非関税障壁」と呼ばれ、撤廃が求められる。
それぞれの国は、その文化や習慣に基づきながら長年かけて制度を構築してきた。歴史や風土を無視して「非関税障壁」と押し付ける考えは、地域で生活する人々のくらしや価値を損なうことになる。これは、日本にとどまらず今後の世界にとって、大きな問題となる危険性をはらんでいるように思えてならない。
◆子や孫の世代へ何を残すのか
TPPの基本は「勝てるものをさらに勝たせる」という考えだ。これは、富の集中と格差の拡大を容認する考えにほかならない。貧困層の拡大を防ぐのか、それとも自己責任として放置するのか。つまり、日本をはじめ世界がどの方向に向かうかを定めるものである。日本においてそれは子どもの貧困や沖縄基地移設、原発などの諸問題にも通底する。
日本は将来、少子化が進み、さらに高齢者の割合が高まっていく。そのとき、富が集中し、生活できない人が増える社会であってもよいのだろうか。
子や孫の世代へなにを残すべきか、国のルールや制度はどうあるべきか、そのために果たしてTPPは必要なのか、いまこそ国民的議論を深めなければならない。
なお、皆さまのTPPに関するご意見を下記までメールでお寄せ下さい。
(関連記事)
・【緊急提言】 TPP「大筋合意」の真相と今後の対応 食料・農業の未来のために 戦いはこれから (15.10.07)
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