農政:緊急特集・衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち
【衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち】森田実・政治評論家 コロナショックによる世界の大変動と日本の選択2020年5月8日
「和を以て貴しと為す」(十七条憲法)
森田実氏は、コロナショックによる世界と日本の政治状況を分析し、世界的には「鎖国政策」などにより世界平和にとって危険な状況にあること。国内では、国民の生命と暮らしを守ることが政府の第一義的責任であるにも関わらず「財政ファースト」に陥っていると指摘。そのうえで新自由主義が推進してきた「小さな政府」は大失敗に終わったのだから「中程度の政府」の復活をと提言する。
◆鎖国政策と平和の危機
コロナショックで各国政府は鎖国政策をとり、外交政策を停止している。この状況は世界平和にとって危険である。私は今はマスコミから離れ一人の自由人として世界を眺めているが、一番気になるのは米国と中国の対立である。今のトランプ体制、習近平体制のもとで軍事対立が激化すれば、戦争が起こる危険が高まることを心配している。
トランプ米大統領の再選戦略は中国攻撃である。対抗する民主党も中国嫌いだ。米国の全国民の間に嫌中論が広まるのは避けられない。トランプの反中国路線が世界中に拡大し、中国の孤立化が進めば中国は反発し戦争の危機は高まる。
中国政府の側も中国支持拡大に努めているから、中国一国だけの孤立という事態にはならないと考えられるが、世界が米国派と中国派に二分され、かつての米ソ冷戦時代に似た、状況になる。米ソ冷戦時代には大国間の戦争にはならなかったが、代理戦争は頻発した。歴史は繰り返されるおそれは高いが、平和を望む諸国民の努力で、戦争のない世界を築きたい。
第二次大戦での戦争責任を問われた日独伊三国の出番が来たと思う。三国が平和同盟を結び、米中対立の緩和につとめるべきである。中国の隣国の日本の責任はとくに重い。中国を孤立させないための外交努力を惜しんではならない。全世界の政治が鎖国政策によって自国の生存をはかっている今こそ、憲法第九条を持つ日本の政府は平和外交を推進すべきである。
全世界の政治家に要請したいことがある。1945年に作成した国連憲章を再学習することだ。国連憲章はこう記している--「寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し、国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ...」。寛容主義と平和主義を取りもどしてほしいと願う。
◆危機時の政府と指導者
最近の世界の指導者をみると、理性的な指導者は少数いるが、大多数は狂気化したり、ポピュリスト化している。私がとくに心配しているのは、狂気化しているトランプ米大統領と自信を失い、自己を見失ってポピュリスト化している安倍晋三内閣総理大臣である。
最近は時間的余裕ができたので、安倍総理の記者会見はほとんど見ているが、自信のなさがにじみ出ている。コロナショックが生み出した大変化を理解できないのではないかと感ずる。記者会見で、原稿を読むのが精一杯のようにみえる。総理自身は権力の座に強い執着心をもっているから総理の交代は簡単でないが、自ら引退を決断すべきだと思う。
危機の時は長老政治家の出番だ。長老政治家は名利を求めず、自らを捨てる覚悟ができているからである。現在日本においては二人のすぐれた長老政治家がいる。二階俊博自由民主党幹事長と伊吹文明前衆議院議長である。二人が協力して、現在の未曽有の国難に立ち向かって頂きたい。伊吹総理・二階幹事長体制がよい。
コロナショックが起きてから安倍内閣は失敗に失敗を重ねている。無気力で従順なマスコミ人が安倍総理に甘すぎるため、国民の批判は広がっていないが、驚くほど大ミスを繰り返している。最大のミスは、国民に向かって自粛と休業を求めながら、生活補償を約束しないことだ。国民にカネを出すことを惜しんでいるようにすら見える。これは、安倍総理が、財政ファースト主義の財務省を制御できなくなっている結果である。
財務省は日頃はおとなしいが、危機がくると動き出す。全ての動機は「財政ファースト思想」から発している。そして、結果的に国民を不幸にする。
政治の目的は国民の生命と生活を守ることにある。これが政府の第一義的責任である。国民の生命と生活を守るため財務省は金庫を開けるべきであるが、逆にいま、金庫を閉めようとしている。安倍総理と麻生副総理財務大臣には、財務省官僚のこの動きを止める力がない。二階・伊吹の二大長老なら、財務官僚のわがままを止めることが出来る。なぜなら、彼ら二人は「身を捨てる」覚悟ができているからである。
繰り返す。政府と政治指導者が必要なのは国民的危機が到着した時である。危機の時に役立たない無能な政府と指導者は直ちに退陣すべきである。
◆「小さな政府」から「中程度の政府」へ
1945年から始まった第二次世界大戦後の75年を振り返ると、「ショック」現象は何回も起きた。このなかで、1973年の第一次オイルショックと今回のコロナショックは最大のショックである。
1973年の第一次オイルショックによって、第二次大戦後の経済復興と高度成長の時代は終焉した。一瞬にして起こった。同時に大失業と大インフレに襲われた。スタグフレーションであった。
この危機の時代を比較的うまく乗り切ったのは日本だった。日本は、減量経営と技術革新と労使協調によって、どの国よりも早く経済と社会の安定を回復した。日本は第二次大戦後の世界を引っ張ってきた修正資本主義の思想を守り抜いて、経済を再建したのだった。しかし、不幸なことに、この日本の成功は世界に知らされなかった。
この間隙を突いたのが1978年にイギリスに登場したサッチャー政権だった。サッチャーは新自由主義革命を断行し、修正資本主義→社会民主主義を否定し、徹底した競争至上主義を推進した。この新自由主義革命の流れは米国に波及し、1980年のレーガン大統領の登場によって「レーガン革命」が動き出した。以来45年間、新自由主義革命が世界を席巻し、修正資本主義を滅ぼした。
新自由主義・競争至上主義の根底にあったのは「自分さえよければ」の利己主義と拝金主義で、これにより社会のモラルは低下した。人類の生存に必要な医療・農業・教育などの公共分野はなおざりにされた。今回のコロナショックによって発生した医療崩壊の背景の一つは新自由主義の支配にあった。
新自由主義が推進した「小さな政府」は大失敗に終わった。われわれはこの過ちを正さなければならぬ。いまこそ中程度の政府、修正資本主義の復活にとりかからなければならない
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