農政:2020年を振り返って
コロナ禍を生き延びる農村の絆 上野千鶴子 NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長【特集:2020年を振り返って】2020年12月7日
上野さんが理事長を務めるNPO法人で「ニッポンはおいしい!」を連載している金丸弘美によれば、コロナ禍で暗いニュースが多いが、エンドユーザに結びついているところは売り上げが伸びているという。また、人類学者の小川さやかさんとの対談では、アフリカの商人は都市で商売がうまくいかないと投資先を農村に振り向ける。なぜなら食べることは基本の「き」だからだという。そうした話から上野さんは「危機にはお金より人間関係が役に立つ」という。

わたしが理事長をしている認定NPO法人WANウィメンズアクションネットワークのウェブサイトには、農業ジャーナリスト、金丸弘美さんによる「ニッポンはおいしい!」という連載がある。1次産業のみならず6次産業を地域で起業する担い手には女性が多い。その女性たちを取材して連載を書いてもらえないか、と懇願してお引き受けいただいた。理事長以下全員ボランティアで支えているWANのウェブ事業は寄稿者も無償。原稿料をとれる記事を書いている金丸さんにタダで書いてもらう、という無謀な依頼だった。
その金丸さんが、連載をスタートしたら、楽しいと言ってくださった。これまで事業の代表というと男性。その脇にニコニコして立っていた女性に直接話を聞くと、男性の話よりずっとおもしろい、という。「...でしょう」とわたしはニッコリする。好評連載はすでに20回に近い。
難局こそ「つながり」強く
コロナ禍でどのニュースも暗い。そんななかで、金丸さんは、かつて取材した女性たちを再訪して、「コロナ禍のもとで---彼女たちのいま」を寄稿してくださった。それによるとなんと!売り上げは2割増し、どこも好調だとか。農協をバイパスして生産者と消費者が顔の見える関係をつくっていたところは、コロナで危機に陥るどころか、売り上げはアップした。給食やレストラン需要向けに出荷していたところは別にして、道の駅や直売場のように生産者と消費者が直結しているところも売り上は増えている。三食おうちで食べるようになって食材の消費はアップ。事実、調理用家電製品は需要が増え、お取り寄せ市場は好調だ。このわたしにしてからがパン焼き器を買ったら、パン用小麦とイーストが売り切れだと聞いた。
エンドユーザーにダイレクトに結びついているところはつよい。それだけでなく、流通経路を確保しているところもつよい。生協は毛細血管のように宅配ルートを確保しているが、生協関連の情報によると、コロナ禍で加入者が増え、売り上げは3割増だとか。
お金より役に立つ人間関係
アフリカをフィールドとする人類学者、小川さやかさんと対談した。都市で商売がうまくいかなくなると、商人たちはただちに投資先を農村にふり向ける。食べることは基本のき。危機になればサブシステンスエコノミー(生存経済)が復活する。そしてお金をためこむよりは、ひとに貸し借りして助け合う。小川さんはこれを「関係に貯金する」という。社会学には「社会関係資本」という概念があるが、お金が「資本」になるように、人間関係も「資本」になる。危機にはお金より人間関係のほうがずっと役に立つ。コロナ禍を生き延びるひとたちは、コロナ以前からそういう関係を築いていたひとたちなんだと思う。
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