農薬:防除学習帖
みどり戦略に対応した防除戦略(9)【防除学習帖】生育期~収穫期の病害虫防除 第215回2023年9月9日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。
防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にKPIをクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上で、みどりの食料システム法のKPIをクリアできる方法がないかを探ろうとしている。
現在、水稲栽培を種子消毒、播種・育苗期、移植、生育期、収穫期の5つに分け、その時期の農薬の使用場面ごとにみどり戦略対策の方向を探っており、前回から生育期~収穫期の病害虫防除について検証している。
1.生育期~収穫期の病害虫防除体系
前回紹介したように、この時期に発生する病害虫は、米の品質に大きく影響するものが多いため、丁寧な防除が行われることが多い。その防除の方法(体系)は、地域や農家の所持する防除機器によって、使用する薬剤や剤型が異なる。本稿で比較している10a当たりのリスク換算量は、使用薬剤の剤型で異なるので、防除対象病害虫を固定し、いくつかの防除体系を比較してみる。
対象病害虫は、いもち病、紋枯病、ニカメイチュウ、および斑点米カメムシ類を対象として、実際の防除暦を参考に、計4回散布する次のような防除体系を例に考えてみる。
体系1:いもち初発前→いもち・ニカメイチュウ・ウンカ→穂枯れ・斑点米カメムシ
(本田粒剤A) (散布剤B) (散布剤C)
体系2:いもち初発前→いもち・ニカメイチュウ・ウンカ→穂枯れ・斑点米カメムシ
(本田粒剤E) (散布剤F) (散布剤G)
体系3:いもち初発前→斑点米カメムシ→ 穂枯れ・斑点米カメムシ
(本田粒剤J) (殺虫粒剤K) (散布剤L)
2.使用する薬剤のリスク換算量比較
体系例で使用される薬剤毎のリスク換算量を計算すると以下のとおりになる。
リスク換算量から考えると、有効成分そのものよりも散布剤型による差が大きい。同じ有効成分であれば、製剤そのものを散布する粒剤や粉剤のリスク換算量が大きく、水に希釈して散布するフロアブル剤などは概して小さい。例中の体系1のC剤とG剤は含む有効成分が同じで、剤型が異なる(C剤:粉剤、G剤:フロアブル剤)だけでリスク換算量が異なり、G剤はC剤の3分の1である。
水稲本田病害虫防除体系の10aあたり有効成分量・リスク換算量
3.対策の考え方
殺虫殺菌剤も除草剤と同様に、リスク係数が小さく、有効成分含量が少ない薬剤の方がリスク換算量が少なくなるので、効果が同じであればリスク換算量の少ないものに変更することで10aあたりのリスク換算量を減らすことができる。ただし、きちんと防除できることが最優先なので、あくまで防除効果を優先して検討してほしい。その原則を踏まえた上でリスク換算量を減らす方法としては次のような方法が考えられる。
(1)粒剤・粉剤から水希釈剤(フロアブル・乳剤・液剤)へ変更する
リスク換算量は、製剤そのものを散布する粒剤・粉剤よりも、水で希釈するフロアブル・乳剤・液剤の方がリスク換算量を減らすことができる。前述の例では約3分の1になるので同じ有効成分(同じ商品名)であれば、水希釈剤へ変更することを検討するとよい。ただし、乗用管理機やセット動噴などのスプレー用の散布機械が必要となるので注意が必要である。
(2)リスク換算量の少ない有効成分・製品へ変更する
効果が同じであれば、よりリスク換算量の少ない有効成分を含む製品に変更する。ただし、有効成分が変わると防除効果が変わることも多いので、効果が同等であることを確認して変更するように心がける。
(3)適期防除を心がけ散布回数を減らす
散布剤は適期を逃すと大きく効果が低下する例が多いので、使用する薬剤の適期に確実に散布するようにして補完防除を実施しないで済むようにする。また、残効の長い薬剤に変更して防除回数を減らすことでリスク換算量を減らすことができる。
重要な記事
最新の記事
-
(408)技術と文化・伝統の引継ぎ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月3日
-
令和6年秋の叙勲 加倉井豊邦元全厚連会長ら77人が受章(農水省関係)2024年11月3日
-
シンとんぼ(116) -改正食料・農業・農村基本法(2)-2024年11月2日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (33) 【防除学習帖】第272回2024年11月2日
-
農薬の正しい使い方(6)【今さら聞けない営農情報】第272回2024年11月2日
-
【25年産米】適正生産量683万tに懸念の声も(2)高米価でもリタイア?2024年11月1日
-
【25年産米】適正生産量683万tに懸念の声も(3)ギリギリ需給でいいか?2024年11月1日
-
【特殊報】「サツマイモ炭腐病」県内のサツマイモに初めて確認 鳥取県2024年11月1日
-
食と農の情報 若年層にはSNSや動画発信が有効 内閣府の世論調査で明らかに2024年11月1日
-
【注意報】野菜、花き類にチョウ目害虫 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2024年11月1日
-
だし・かつお節需要が高まる年末年始に向けて「徳用シリーズ」売れ筋2品を10%増量 マルトモ2024年11月1日
-
JA貯金 残高108兆2954億円 農林中金2024年11月1日
-
【田代洋一・協同の現場を歩く】 福島・JA会津よつば 産地強化で活路探る 中山間地域で〝生きる〟2024年11月1日
-
鳥インフル 米サウスカロライナ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2024年11月1日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 一時輸入停止措置を解除 農水省2024年11月1日
-
鳥インフルエンザ 「危機感共有して発生予防を」小里農相2024年11月1日
-
兵庫県ご当地カレー&「午後の紅茶」キャンペーン実施 JAタウン2024年11月1日
-
「JA共済安全運転アプリ」提供開始 スマホではじめる安全運転2024年11月1日
-
子どもたちが丹精込めて作った「優結米」熊本「みのる食堂」で提供 JA全農2024年11月1日
-
たまごのゴールデンウィーク「幻の卵屋さん」各所で出店 日本たまごかけごはん研究所2024年11月1日