農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(17)【防除学習帖】 第256回2024年6月29日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。IPM防除は、①化学的防除、②生物的防除、③物理的防除、④耕種的防除の4つの防除法を効率よく組み合わせて、作物の生産圃場を病害虫雑草が生きて行きづらい環境、いわゆる病害虫雑草自身の生命活動を維持しにくい環境にすることで防除効果を発揮しようというものだ。このため、病原菌種別や害虫種別、雑草種別に使えるIPM技術を整理すると、作物が異なっても応用しやすくなるので、病害虫雑草別にIPM防除法の組み立て方を検討している。
今回から病原菌種とその増殖、侵入、伝染方法を明らかにしながら使用するIPM技術を整理してみようと思う。まずは、植物病害の大部分を占める糸状菌から整理を開始しようと思う。
前回、糸状菌の分類であるべん毛菌類(卵菌類)、接合菌類、子のう菌類、担子菌類の4つのうち、ベン毛菌類の生態と防除ポイントについて紹介したので、今回は接合菌類の生態と防除ポイントを紹介する。
1.接合菌類の生態と防除のポイント
作物病害の病原菌で接合菌類に属するのはリゾープス菌である。この菌が病原となる病害は、イネや果樹、花卉など広範囲に発生し、イネ以外では果実や塊茎の貯蔵中に発生する病害が多い。主な病名は、イネ苗立枯病、イチジク黒かび病、パパイヤ黒かび病、オウトウ黒かび病、モモ黒かび病、サツマイモ軟腐病、メロン黒かび病、ピーマンへた腐病、イチゴ軟腐病などである。
リゾープス菌は、生育がとても速く、菌糸からほふく枝と呼ばれる横に這う菌糸を伸ばし、菌糸と基部が交差した部分に仮根をつくり、その上に直立した胞子嚢柄をつくってその先端に黒色で亜球形の胞子嚢をつくる。胞子嚢の中には暗褐色で亜球形~楕円形の胞子が作られる。また、気中に伸びた菌糸が二股に分かれて膨らみ、両者が接合して黒色で亜球形の接合胞子をつくる。
高温多湿を好み、生育適温は30~40℃である。腐生性が強く、枯れた茎葉、土壌の表面、土中にも生存でき伝染源となる。胞子嚢胞子は空気中を飛散し、昆虫による伝搬も起こる。一般に、健全な植物体へ自ら侵入する能力は無く、傷口などの開口部から侵入することが多い。被害は、もっぱら本菌が産生する毒素によって軟化腐敗が起こることによる。
(1)接合菌類の増殖方法と防除のポイント
①接合菌類の増殖方法
接合菌類は、高温多湿で旺盛に菌糸を生育させ、おびただしい量の胞子を作って増殖していく。生育適温が30~40℃であるため、イネの育苗中の出芽庫など高温多湿の条件が整っているところでは急激に増殖する。
②接合菌類の増殖を防ぐための防除ポイント
接合菌類の第一次伝染源は、枯れた茎葉、土壌の表面、土中に存在する菌糸や胞子である。
[防除ポイント1] 被害残渣や果実をできるかぎり丁寧に集めて、育苗施設や貯蔵施設などの外に出して処分する(物理的防除)。
[防除ポイント2] イネ育苗施設や育苗箱など少しでもリゾープス菌の菌糸や胞子を含む土などが資材に残っていると増殖するので、使用する資材はきれいに洗浄し、消毒液で消毒して使用するようにする。また、貯蔵施設などで発生した場合は、施設内をきれいに清掃し、消毒液での消毒を徹底する(物理的防除)。
(2)接合菌類の侵入方法と防除のポイント
接合菌類は、自ら植物体に侵入する力をもっておらず、傷口などの自然開口部から侵入する。
[防除ポイント3]管理作業や収穫作業は丁寧にして傷口をつくらないように注意する(物理的防除)。
[防除ポイント4]予防的防除(播種時灌注剤、散布剤など)を実施する(化学的防除)
(3)接合菌類の伝染方法
枯れた茎葉、土壌の表面、土中に存在する菌糸や胞子から土壌表面などで生育条件が整えば容易に増殖する。
[防除ポイント5]高温多湿にならないよう貯蔵条件を整える(物理的防除)。
[防除ポイント6]育苗施設・資材、貯蔵施設を清掃・消毒し伝染源を徹底除去し、伝染源を作物に近づけないようにする(物理的防除)。
(つづく)
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